29 / 31
タズハの訴え
しおりを挟む
数日後。
タズハは再び王城の客間にやってきていた。
そう、ゼイナスとの二回目の面談である。
「――なるほど、そうか」
「はい!」
話が一段落したところで、タズハは紅茶を口にする。
そしてちらっとゼイナスの袖を見た。
右の手首には変わらず、黄と水色のビーズで作られたブレスレットがあった。
タズハは「よし」と心の中で気合いを入れると、グイッと紅茶を飲み干す。
「陛下、一つ聞いてもいいですか?」
「何だ」
「陛下はセシリアさんのことが好きなんじゃないですか?」
「ああ、そうだ」
「えっ……」
何てこともないように即答したゼイナスに、タズハは目を瞬く。
「じゃ、じゃあ、何でセシリアさんに選ばないって言ったんですか?」
ゼイナスは溜め息を吐いた。
それにタズハは一瞬怯むも、すぐに前のめりになる。
「彼女と結婚するわけにはいかないからだ」
「ど、どうしてですか?」
立場の違いからではないだろう。
であれば、そもそもこの王妃選抜試験にタズハは参加できていない。
タズハにはなぜゼイナスがセシリアを拒むのか、皆目見当もつかなかった。
「……私は王という者は、国と民のことを一番に考え、私情は切り捨てるべきだと考えている。それは民も同じように思っているだろう」
ゼイナスは紅茶を飲むと、続ける。
「だから王は民がするような恋愛結婚はできない。故に私はセシリアを選べない。もしも選べば民から反感を買い、国は傾くかもしれない。それに民衆から寄せられる声にセシリアは心を病んでしまうだろう。そうなっては、王妃として最も重要な健康な子を成すという責務も果たせない」
そこまで言うと、ゼイナスは悲しそうに笑った。
「まったく。あの時、出会っていなければよかったのだがな」
「陛下……」
タズハは顔を伏せる。
そして考える。
ただの予想を口にしていいのだろうか。
そもそも自分如きが、一国の王に意見していいのか。
タズハは悩んだ末、「んっ!」と拳を握る。
そんなの知ったこっちゃない、と言わせてもらうことにした。
だって、そんな考えは悲しすぎるから。
「陛下がセシリアさんと恋愛結婚をしたら、そのことに文句を言う人はいっぱいいると思います。でも、その人たちより、お祝いしてくれる人のほうがずっと多いと思うんです。だってみんな、この国や陛下のことが大好きですから」
家やお店の前で立ち話をしていた人たち。試験会場に集まった少女たち。
王妃選抜試験が始まってからというもの、タズハは多くの会話を耳にした。
その中に、ニードヘレン王国やゼイナスに対する不安や不満の声は当然いくつもあった。
でも、国やゼイナスを憎んだり、嫌っていたりする声は一度たりとて聞いたことがない。
国に恨みを持っていてもおかしくない、貧民街の住人であるロロネからもだ。
「それに王妃選抜試験でここまで残ってるってことは、それだけ優秀ってことですよね? そんな女の子が王妃になってくれるんだったら、国民の皆さんは安心して、反感を買うどころか喜ぶと思います」
視界の端でランラが頷いたのが見えた。
彼女も同じことを思ってくれたのだろう。
「あとあと、それでもし国民の皆さんから嫌なことを言われても、セシリアさんなら大丈夫です! だって侍女の人に悪口を言われてもへっちゃらだったんですから。そもそも、それを確認するテストだったんですよね?」
「……ああ、そうだな」
タズハの訴えに思うところがあったのだろう。
ゼイナスはタズハの言葉を嚙み締めるように、静かに目を閉じた。
でも、タズハの言葉はそれだけじゃない。
「それともう一つ言わせてください」
「何だ」
「陛下は国民の皆さんの幸せを願ってるんですよね?」
「ああ、当然だ」
「だったらそのためにも、陛下は好きな女の子と結婚しないとダメだと思います」
「なぜだ?」
「だって陛下はこの国で一番偉い人だから、その分影響力も強いじゃないですか? もし陛下が暗い顔をしてたら国全体が暗くなっちゃうし、反対に明るくしてたらみんな明るくなる。だからみんなを幸せにしたいなら、まず陛下が幸せになって、その姿をみんなに見せてあげないといけないと思うんです。そう、道しるべみたいに!」
ゼイナスがはっとする。
しばし、タズハを見つめたかと思うと、顎に手を当てた。
「道しるべ、か。……ふむ、一理ある」
「じゃあ!」
「……ああ。少し考えてみよう」
タズハはぱぁっと顔を明るくさせる。
部屋ではランラとノノイも満足そうに頷いていた。
タズハは再び王城の客間にやってきていた。
そう、ゼイナスとの二回目の面談である。
「――なるほど、そうか」
「はい!」
話が一段落したところで、タズハは紅茶を口にする。
そしてちらっとゼイナスの袖を見た。
右の手首には変わらず、黄と水色のビーズで作られたブレスレットがあった。
タズハは「よし」と心の中で気合いを入れると、グイッと紅茶を飲み干す。
「陛下、一つ聞いてもいいですか?」
「何だ」
「陛下はセシリアさんのことが好きなんじゃないですか?」
「ああ、そうだ」
「えっ……」
何てこともないように即答したゼイナスに、タズハは目を瞬く。
「じゃ、じゃあ、何でセシリアさんに選ばないって言ったんですか?」
ゼイナスは溜め息を吐いた。
それにタズハは一瞬怯むも、すぐに前のめりになる。
「彼女と結婚するわけにはいかないからだ」
「ど、どうしてですか?」
立場の違いからではないだろう。
であれば、そもそもこの王妃選抜試験にタズハは参加できていない。
タズハにはなぜゼイナスがセシリアを拒むのか、皆目見当もつかなかった。
「……私は王という者は、国と民のことを一番に考え、私情は切り捨てるべきだと考えている。それは民も同じように思っているだろう」
ゼイナスは紅茶を飲むと、続ける。
「だから王は民がするような恋愛結婚はできない。故に私はセシリアを選べない。もしも選べば民から反感を買い、国は傾くかもしれない。それに民衆から寄せられる声にセシリアは心を病んでしまうだろう。そうなっては、王妃として最も重要な健康な子を成すという責務も果たせない」
そこまで言うと、ゼイナスは悲しそうに笑った。
「まったく。あの時、出会っていなければよかったのだがな」
「陛下……」
タズハは顔を伏せる。
そして考える。
ただの予想を口にしていいのだろうか。
そもそも自分如きが、一国の王に意見していいのか。
タズハは悩んだ末、「んっ!」と拳を握る。
そんなの知ったこっちゃない、と言わせてもらうことにした。
だって、そんな考えは悲しすぎるから。
「陛下がセシリアさんと恋愛結婚をしたら、そのことに文句を言う人はいっぱいいると思います。でも、その人たちより、お祝いしてくれる人のほうがずっと多いと思うんです。だってみんな、この国や陛下のことが大好きですから」
家やお店の前で立ち話をしていた人たち。試験会場に集まった少女たち。
王妃選抜試験が始まってからというもの、タズハは多くの会話を耳にした。
その中に、ニードヘレン王国やゼイナスに対する不安や不満の声は当然いくつもあった。
でも、国やゼイナスを憎んだり、嫌っていたりする声は一度たりとて聞いたことがない。
国に恨みを持っていてもおかしくない、貧民街の住人であるロロネからもだ。
「それに王妃選抜試験でここまで残ってるってことは、それだけ優秀ってことですよね? そんな女の子が王妃になってくれるんだったら、国民の皆さんは安心して、反感を買うどころか喜ぶと思います」
視界の端でランラが頷いたのが見えた。
彼女も同じことを思ってくれたのだろう。
「あとあと、それでもし国民の皆さんから嫌なことを言われても、セシリアさんなら大丈夫です! だって侍女の人に悪口を言われてもへっちゃらだったんですから。そもそも、それを確認するテストだったんですよね?」
「……ああ、そうだな」
タズハの訴えに思うところがあったのだろう。
ゼイナスはタズハの言葉を嚙み締めるように、静かに目を閉じた。
でも、タズハの言葉はそれだけじゃない。
「それともう一つ言わせてください」
「何だ」
「陛下は国民の皆さんの幸せを願ってるんですよね?」
「ああ、当然だ」
「だったらそのためにも、陛下は好きな女の子と結婚しないとダメだと思います」
「なぜだ?」
「だって陛下はこの国で一番偉い人だから、その分影響力も強いじゃないですか? もし陛下が暗い顔をしてたら国全体が暗くなっちゃうし、反対に明るくしてたらみんな明るくなる。だからみんなを幸せにしたいなら、まず陛下が幸せになって、その姿をみんなに見せてあげないといけないと思うんです。そう、道しるべみたいに!」
ゼイナスがはっとする。
しばし、タズハを見つめたかと思うと、顎に手を当てた。
「道しるべ、か。……ふむ、一理ある」
「じゃあ!」
「……ああ。少し考えてみよう」
タズハはぱぁっと顔を明るくさせる。
部屋ではランラとノノイも満足そうに頷いていた。
10
あなたにおすすめの小説
異世界こども食堂『わ』
ゆる弥
ファンタジー
【ネオページで先行配信中!】
知らない間に異世界へと迷い込んでしまったリュウ。拾ってもらった老夫婦の店を継ぐことになる。
そこで、こども食堂を営もうと思い立ち、困っている人のための食堂にすると決め。運営する決意をする。
困っている人は様々な理由がある。そんな人たちの居場所になればいい。リュウの優しさと料理で街の人達はこの食堂『わ』にハマるのであった。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる