【R18】取り違えと運命の人

本編・取り違えと運命の人

036 夏の嵐 ⑤

「最近、ジュリエッタの納品してくれるお洋服、好評ですよ。入荷予定を聞かれますし、若いお客さんも増えました」
「ありがとうございます！」
「最初はおばあさんに付き合ってご来店くださったお孫さんが、後からお一人でおいでになることもあるんですよ」
「ああ、そういうパターンもあるんですね！」

　数軒回った最後に訪れたのは、私と最初に量販品卸しの契約をしてくださったお店だ。店主のエリザさんとゆっくりお話がしたいので、このお店は毎回一番最後に納品することにしている。

　服飾学校卒業後、私はこの町につてがなかったから、洋品店をしらみつぶしに飛び込み営業して回った。愛想がないし、初対面の人と話すのも苦手だから、独り立ちしてから今まで、その時期が一番つらかったと思う。若い女子向けのお店が全滅で、だめ元で入った年配のご婦人向けの洋品店がこのお店。
　品の良い老婦人は私のつたない売り込みを、にこにこと笑顔で聞いてくださった。話し終え、私が死刑執行を待つ囚人の気分でいると、明るい声でこう返してくださった。

『若いお嬢さん向けのお洋服を置いてみるのも、面白いかもしれないわねえ』

　明らかに毛色が違う私の服を置くスペースをすぐに作ってくださって、感謝しかない。
　その後もエリザさんは私を孫のように可愛がってくださって、他のお店とつなぎをつけてくださったり、お得情報をこっそり耳打ちしてくださったり、なにかとよくしていただいている。ただの取引先ではなくて、もっと親密で、安らげる、大切な方。

「夫が、デザインのアドバイスをくれたんです。取り入れたら、がぜん好評で」
「ほんとによかったわねえ。ジュリエッタ、結婚してからとても調子がよさそうよ」
「はい。結婚相手が夫でほんとによかったな、幸せだなって、毎日思ってます」
「それ、直接言ってあげたら、旦那さん、きっと喜ぶわ」
「ええっ？　そんな、照れます……」
「照れているところも喜んでくれますよ。きっと」
「そういう風にきちんと口にするのが、円満な結婚生活の秘訣ですか？」
「ええ。いいことについては、そうね！」

　エリザさんは壁の写真を見つめる。エリザさんとご主人は有名なおしどり夫婦で、私もその仲のよさに憧れていた。昨年末にご主人が亡くなった時、あんなに愛してくれたのになにもできなかったと悔やんでおられたことを思い出し、心が痛んだ。照れなんか気にせず、私も少しずつでも思いを伝えないといけない。

「そうそう、向かいの通りの少し奥に入ったところに、新しいお店ができたこと、ご存じかしら？」
「いえ。洋品店ですか？」
「ええ、若い女性向けの。どちらかというと、マニッシュなデザインが多くて、ジュリエッタのお洋服と少し傾向が違うから、逆に売り込みのチャンスかもしれないわね」
「ありがとうございます！　さっそくこの後行ってみますね」