【R18】取り違えと運命の人

テキイチ

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本編・取り違えと運命の人

035 夏の嵐 ④

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「あの状態からこんな短時間でごはん作れるのがすごいよね」
「まあ、慣れてるし」
「今日もすごくおいしい!」
「ありがとう」
「ジュリエッタ、どんなに忙しくてもおいしいごはん作ってくれて、ほんと感謝してる」
「うーん。ごはん大事! って父から言われ続けたからかな」
「お、お父さん?」

 リカルドは私の家族の話を地雷でしかないと認識しているようで、ちょっと顔をこわばらせてしまう。ありゃ、ごめん。

「父はお店のことより家事してる時間の方がずっと長かったんだけど、特に料理を大事にしてたの。どんなに疲れてても機嫌悪くても、ごはんがおいしいと思えればなんとかなるからって」
「なるほど。ごはん大事なの、120%同意するし、お父さんのおかげで俺は毎日おいしいごはんを食べられるんだね!」
「そうなのかな?」
「うん! 感謝してる!」

 リカルドは嬉しそうにおひさまみたいな笑顔を浮かべた。
 父さんが言ってた言葉、今まで文字通りとらえてたけど、もしかしたらそれだけじゃないかもしれないな。リカルドの顔見てたら、もっとおいしいもの食べさせてあげたくなるし、私もがんばれる気がする。相手の嬉しそうな顔って、すごい力だ。

「あ……」
「ん? ジュリエッタ? どうかした?」
「父はデザイナーとしては正直当たり外れある方なんだけど、絶対に外さないデザインがあって」
「どんなデザイン?」
「マニッシュな……婦人服だけど男性的な要素が多いデザイン。シャープでクールなはずなのに、かえって女性らしさが際立つというか妙に色気が出るというか……それ、私の母に、すごく似合うの」

 リカルドは、私がなにを言いたいのかよくわからないからか、頭上に疑問符を飛ばしているけど、必死で意味をとらえようとはしてくれている。

「その……父は、ごはんも、デザインも、母を喜ばせることを一番に考えていたのかな、って、思ったの」
「……なるほど」

 そう言いながら、リカルドは腑に落ちてない様子。そうだよね。私自身、まとまってないし。

「じゃあ、なんで浮気したんだろ、って思う。思うんだけど……」

 それは私にもわかんないんだけど、でも。

「父が、少なくとも浮気前まで、母を、私達兄妹を、大事にしてくれてたのは、嘘じゃない気がする。割と子煩悩で、子供は未来への財産とか言ってたし」
「それは絶対信じていいよ! だって、ジュリエッタ、こんなに素敵な女の子に育ってる!」

 リカルドは力強くうなずいて、にこにこ笑った。

「うう? なんなの、その褒め殺し」
「褒めてるというか、思ったこと言ってるだけだけど」
「そんな扱いされたことないし、兄からも『お前に女の武器は使えない』ってさんざん言われてきたし」
「……お兄さんの言ってる意味はよくわかんないけど、とりあえず、俺の役割はジュリエッタが素敵な女性だと自覚させることなんだな、とはわかった」
「ええ?」

 リカルドの話は時折ものすごく飛ぶ。私にはよくわからないけど、本人は納得しているし、腕時計を見て「もう出勤の時間!」と、そのままあわてて出て行ったので、そこで話は立ち消えになった。
 ばたばた出ていったリカルドを見送って、ちょっと一息つきたいところだけど。

「私も、仕事の準備しなきゃ」

 今日は量販品を卸しているお店を数軒回る日だ。朝一番に約束しているお店は少し遠いから、そろそろ行かないと間に合わなくなる。
 私もあわててお得意先へと向かった。
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