【R18】取り違えと運命の人

テキイチ

文字の大きさ
110 / 201
後日譚・取り違えたその後の二人

109 にくいあんちくしょう ⑨

しおりを挟む
 ジュリエッタは月に数度の呪術師のお仕事以外家にいるので、いろいろ用事を頼まれる。初日に洗礼を受けたグロいものの採集やら、魔道具の手入れやら、古くなった家の修理やら。俺、なんでも屋の様相を呈しつつある。その日も一緒に採取をしていた。

「久しぶりだな、嬢ちゃん!」
「……こんにちは」

 人のよさそうなおっちゃんが声をかけてきたので、ジュリエッタは挨拶を返す。

「隣の兄ちゃん、見かけねえ顔だな。嬢ちゃんのいい人かい?」
「……な……!」
「あ、えーと」

 自己紹介しようとすると、ジュリエッタがすごい剣幕でさえぎる。

「そんなんじゃないから! ルーカも余計なこと言わなくていい!!」

 ジュリエッタは真っ赤になってその場から逃げてしまった。

「……えーっと……」
「ははは、相変わらず照れ屋だなあ。嬢ちゃん」
「はあ」
「で、兄ちゃんは何者なんだい?」
「ジュリエッタの神託の相手で、ルーカと申します。婚姻届も出したので、まあ、夫、でいいはずなんですが、あの扱いです」

 なんか全然そんな自覚なかったけど、社会的な立場はそうか、俺。

「そうか! お前ほんとに嬢ちゃんの……。よかったよかった!!」

 おっちゃんは破顔し、俺の背中をバシバシ叩く。痛え。

「すげえ安心したわ。嬢ちゃんをよろしくな、兄ちゃん!」
「はあ」
「また、通りかかったら声掛けるわ!」

 おっちゃんは鼻歌を歌いながら去って行った。
 何者かわからないけど、ジュリエッタを気にかけてくれる人がいる、というのはなんだかとても嬉しい。



 家事と頼まれごとの合間を縫って部屋の片づけに挑んでいたのだが、ついにジュリエッタの私室を残すのみとなった。

「入らせろ」
「……べ、別にいいわよ、この部屋は」
「私物はまあ好きにすればいいけど、クローゼットはちゃんと管理した方がいいだろ。お前、白と黒の二着しか着ないじゃねーか。整理できてないからだろ?」

 同じ服しか着ないヤツは大抵たくさんの服を死蔵している。服が多すぎて取り出せなくなってたり、組み合わせ方がわからなくて、つい無難な同じ服ばかり着てしまうからだ。持ってるのはかまわないが、カビとか虫とか発生させられたらたまらないからな。

「これはそんなんじゃ……」

 ぐだぐだ言ってるのをおして、ドアを開ける。
 ジュリエッタの私室に入ると、意外なほどスッキリしていた。というか、物がほとんどなくて殺風景だった。小さなドレッサーが窓際に設置されていて、その上に少しのアクセサリーが乗せられているくらい。

「呪術に使う材料と魔道具は専用の部屋があるし、本は書庫があるから、これでいいの」

 クローゼットを開くと、同じデザインの白い服と黒い服がそれぞれ三着ずつ入っていた。

「面倒だから交互に着てただけ。ほんとに一着ずつだと服傷むから、ローテーションして」

 呪術師としては妥当で合理的なのかもしれない。そして、初めて会った日はたまたま白を着る日だったんだな、とも気づいた。

「……服に興味ないのか?」
「わざわざそんなのにお金かけることないでしょ」

 それを聞いて、なんだか無性にムッとした。

「買いに行くぞ」
「え?」
「若い女子なんだから、いろんな色の、いろんなデザインの服、着たらいいだろ」
「別に必要ないし……」
「俺が! 見たいから! 行くぞ!」
「……は、はい……」

 俺の勢いに圧倒されたのか、ジュリエッタがめずらしく折れた。

 俺は知っている。ジュリエッタは綺麗なものが好きだ。家から出ると景色をよく眺めているし、町に出ると同じ年頃のオシャレな女子や服飾品のショウウィンドウをさりげなく目で追っている。
 けど、自分を飾ろうとはしない。ドレッサーのアクセサリーも、呪術師の仕事で外出する時しか身に着けてるの見たことない。

 最初は単にケチで金を使いたくないのかと思ってたけど、最近、どうもそうじゃないのでは? と思うようになっていた。使う資格がないみたいに思っていそうというか……。
 好き放題やってるようなのに、なんで自分を大事にしない。そんな気持ちがもたげてきていたところだったから、つい、強く出てしまったのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...