ディスコミュニケーション

テキイチ

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communication 05

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 彼女はことあるごとに笑顔で私に話しかけてきた。記憶力がいいんだろう、私がついていけなかった話題を二度振ることはなかったし、反応できた話題やこれまでの出来事との関連付けも上手かった。彼女は次第に私の守備範囲も把握し、私が返答に詰まることはほぼなくなったので、第三者からはきっと、話が弾んでいるように見えただろうと思う。

 彼女と話していると、恵まれたものの余裕とか、ノブレス・オブリージュとか、慈悲をかけてもらっているのを感じてしまう。それは、義父に対する感情とよく似ていた。その笑顔は潤沢につぎ込まれた金と愛情によって培われたものなんだろうな、とどうしても思ってしまう。なんでもそのように換算したがる私は卑しい。

 他者の好意に慣れていないからだろう。彼女の行動には何か裏があるんじゃないか、本当は自分を見下しているのではないか、最初はどうしてもそう考えてしまい、その卑屈さに自己嫌悪した。
 でも、たぶんそうじゃなくて。彼女が提示しているのは、純粋な好意。あの笑顔に、笑顔以外の意味はないのだ。それに気づいた時、却ってつらくなった。

 みんな彼女のことが好きで、嫌うなんてありえない、そんなことはわかっている。彼女には私を傷つける気なんかまるでないし、勝手に傷ついてしまう方がおかしいんだろう。与えられ続けてきた様子がありありと浮かんでしまって、与えられなかった昔の自分が哀れでならなくなるから、お願いだからかまうのをやめてほしい、たまに蔑みの表情を浮かべる同級生の方がよっぽどいい、だなんて、贅沢な話だ。



「予備校?」
「ええ、これだけよくしていただいているのに、申し訳ないですが、志望校のことを考えると、万全を期したくて」
「もちろんだよ! 進学校の子は今時みんな通ってるから、勧めたかったんだけど、無理強いすることになったら嫌で、迷っていたんだ」

 義父が快諾してくれて、ほっとする。
 予備校通いを申し出たのは、もっと勉強したいからというのももちろん嘘じゃない。ただ、それだけでもなかった。
 一緒に暮らし始めてから母と義父が並んでいるところを見ると、この二人は男女の仲なのだと、なんだか生々しく感じてしまうようになっていた。一度意識してしまうと、義父と顔を合わせるのがなんだか気まずく、これまで勉強を口実にできる限り部屋にこもっていたのだ。予備校に通い始めれば、会う時間は自然と限られてくるから、そんな思いもあまりしなくて済む。

「やりたいことやほしいものがあったら、これからも遠慮しないで言ってね!」

 笑顔でそう言われると、自分の方がやましい気がして、少し胸が痛んだ。



 この学校の高等部は、単なるお嬢様学校としてだけではなく進学校としても有名だ。初等部、中等部から持ち上がりで進学してきた生徒の多くは付属大学へと進むが、高等部から編入してきた生徒は軒並み上位の国公立へと進学していく。
 付属大学も有名だし、義父はきっと喜んで費用を出してくれると思う。でも、無駄に負担をかけたくないし、なによりこの状況が更に四年続くかと思うと、反吐が出そうだった。

 絶対、上位の国公立に受かってみせる。そう思いながら授業を受けた。バイトを辞め、充分な食事と睡眠をとった状態での勉強は、はっきり言って楽勝で、予備校に通い始めたこともあり、学力は確実に伸びていく。テストのたびに席次が上がっていくのが、楽しくてたまらなかった。席次がベストスリーを下回ることがなくなったあたりで、蔑みの視線を感じることは、少なくとも表面上はなくなった。

 編入して半年ほど経ち、学校生活をなんとか切り抜けられるようになった頃、思いがけないニュースが飛び込んできた。
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