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communication 06
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望月晴が、学校を去ることになった。まさか、そんな日が来るなんて、思ってもみなかった。終業式の日に担任から伝えられ、本人も淡々と別れの挨拶をした。
「晴さん! 転校するって本当なの?」
「ええ。夏休み明けに、他県の高校へ編入することになったの」
「ええ? 嘘でしょ?」
「やだ! 行かないで!」
学期最後の大掃除が始まる前に、噂が本当なのか他クラスから何人も確認に来て、ちょっとした騒動になった。
「私もみんなと別れるのはとても残念に思っているわ。でも、もう掃除の時間だから行かないと」
いつもの笑顔で彼女がそう言うと、みんな逆らわずにそれぞれの持ち場に散っていった。
私の担当は比較的楽な階段と踊り場で、割り当てが一人だったことに胸を撫で下ろした。一人なら、考え事をしながら作業しても、何も咎められない。
私は彼女が嫌いだ。嫌いだったはずだ。なのに、いざ、いなくなると聞いたら、動揺を隠すことができない。
私の教養のなさに蔑みを露わにしていた同級生は、成績が上がるなり話しかけてくるようになった。蔑みこそしなくても遠巻きにしていた同級生は、成績が上がるなりやたら持ち上げてきた。
蔑まれていた頃も、成績が上がってからも、態度が変わらなかったのは、彼女だけじゃなかったか?
弱っている時は、誤った判断をしがちになるし、善意を善意と捉えるのも難しくなる。
でも、ある程度回復した今、私はもう彼女の存在に傷ついていないのだと、ようやく気づいた。
だからって、何をするという訳でもないけれど。
気がつけば、ずいぶん長いこと掃除をしてしまっていたらしい。階段と踊り場はやたらぴかぴかになっていたし、周囲の人はもういなくなっていた。時計を見て、驚愕する。
掃除道具を返却すれば、後は帰るだけだ。道具を所定の位置に返し、教室に戻る。入ろうとした瞬間、中にいた同級生の声が聞こえた。まだ誰かいるということにびびってしまい、思わず入るタイミングをうかがってしまった。
「……もういなくなるから言うけど」
一人がぼそりと言う。
「なんか、いい子すぎて、本音が見えないっていうか、ちょっと苦手だったの」
「実は、私も」
「いっつもみんなの中心で、ちょっと煙たかった」
一人が口火を切ると、彼女達は、次々と、率直に、悪意をさらけ出し始めた。
それまでの話はわからない。でもこれは、明らかに望月晴のことだ。あんなにちやほやしてたくせに、ほんとは好きじゃなかった? あの子が嫌いなんて、私だけだろうから、そう思ってしまうことに余計罪悪感を抱いていたのに。そっと中を覗くと、私に蔑みの視線を投げたことなんかない、むしろ彼女の取り巻きに近い、穏やかに見えた子達が、罪悪感なんて微塵も覚えていない様子で話しているので愕然とする。
「晴さん! 転校するって本当なの?」
「ええ。夏休み明けに、他県の高校へ編入することになったの」
「ええ? 嘘でしょ?」
「やだ! 行かないで!」
学期最後の大掃除が始まる前に、噂が本当なのか他クラスから何人も確認に来て、ちょっとした騒動になった。
「私もみんなと別れるのはとても残念に思っているわ。でも、もう掃除の時間だから行かないと」
いつもの笑顔で彼女がそう言うと、みんな逆らわずにそれぞれの持ち場に散っていった。
私の担当は比較的楽な階段と踊り場で、割り当てが一人だったことに胸を撫で下ろした。一人なら、考え事をしながら作業しても、何も咎められない。
私は彼女が嫌いだ。嫌いだったはずだ。なのに、いざ、いなくなると聞いたら、動揺を隠すことができない。
私の教養のなさに蔑みを露わにしていた同級生は、成績が上がるなり話しかけてくるようになった。蔑みこそしなくても遠巻きにしていた同級生は、成績が上がるなりやたら持ち上げてきた。
蔑まれていた頃も、成績が上がってからも、態度が変わらなかったのは、彼女だけじゃなかったか?
弱っている時は、誤った判断をしがちになるし、善意を善意と捉えるのも難しくなる。
でも、ある程度回復した今、私はもう彼女の存在に傷ついていないのだと、ようやく気づいた。
だからって、何をするという訳でもないけれど。
気がつけば、ずいぶん長いこと掃除をしてしまっていたらしい。階段と踊り場はやたらぴかぴかになっていたし、周囲の人はもういなくなっていた。時計を見て、驚愕する。
掃除道具を返却すれば、後は帰るだけだ。道具を所定の位置に返し、教室に戻る。入ろうとした瞬間、中にいた同級生の声が聞こえた。まだ誰かいるということにびびってしまい、思わず入るタイミングをうかがってしまった。
「……もういなくなるから言うけど」
一人がぼそりと言う。
「なんか、いい子すぎて、本音が見えないっていうか、ちょっと苦手だったの」
「実は、私も」
「いっつもみんなの中心で、ちょっと煙たかった」
一人が口火を切ると、彼女達は、次々と、率直に、悪意をさらけ出し始めた。
それまでの話はわからない。でもこれは、明らかに望月晴のことだ。あんなにちやほやしてたくせに、ほんとは好きじゃなかった? あの子が嫌いなんて、私だけだろうから、そう思ってしまうことに余計罪悪感を抱いていたのに。そっと中を覗くと、私に蔑みの視線を投げたことなんかない、むしろ彼女の取り巻きに近い、穏やかに見えた子達が、罪悪感なんて微塵も覚えていない様子で話しているので愕然とする。
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