ディスコミュニケーション

テキイチ

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communication 07

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 不意に、制服の裾をクイッと引っ張られた。

「も……!」

 望月晴が、しーっと言わんばかりに唇に指を当てるので、口をつぐみ、言葉を飲み込む。
 それを見て彼女は頷き、手招きするので、思わずついていった。



 彼女が私を連れ出したのは中庭だった。私達が初めて会った場所。雪景色だったし、敷地が広いので、私は学校に慣れるまでそこが中庭だと気づいてすらなかった。

「優しいのね。傷ついた顔してる」
「優しくなんか……」
「少なくとも、正直よ。この学校の誰より」

 そう言うと彼女は笑った。

「嘘がなくて、一緒にいて安心できるから、なかよくなりたかったの」
「安心……?」

「残念ながら、ああいう陰口を叩かれるのは初めてじゃないわ」

 みんな彼女のことが好きで、嫌うなんてありえない。その前提が崩れただけでも動揺しているのに、悪意にさらされるのが初めてではないという事実は私に追い打ちをかけた。

「私は中等部からの編入生なんだけど、初等部からいる人達は特権意識が強くて、成金の娘はなかなか受け入れがたかったみたいね」

 小学校の時に父の事業が当たって、記念受験したら受かっちゃって、お嬢様の仲間入りだねなんて、家族で冗談めかして言ってた、と彼女は笑いながら語る。

「『笑顔が嘘くさい』『裏があるんじゃないか』『いい子を演じて点数稼ぎ』、ここらへんが定番だったかな。そんなこと、全然考えてなかったから、びっくりして。『いつでも笑顔でいれば道は開けるよ』、そんな風に言われて育ったから、ただ笑ってただけなのに。とりあえず、予想外の行動を見た時、人は自分だったらこんな理由でそうする、と関連付けるものなんだな、と思った」
「古典的な言い回しだけど、自己紹介乙ってやつですか?」
「たぶんそう」

 そう言って彼女は再度にっこり微笑む。

「しかも、全部さっきみたいに偶然立ち聞きしただけで、誰も私に直接は言ってこなかったし、接してる時はみんな好意的な態度に見えてたから、心の底で何考えてるのかわからなくて、怖かった」

 誰とでもうまくやっていけると思っていた彼女でさえそんな扱いをされてしまうことに驚愕すると同時に、みんなから好かれるなんてありえないんだな、と悟った。

「その点、ユキちゃんはほんと正直よね。すぐ顔に出る」
「……うるさいな」
「あ、ようやく素で話してくれた! 褒めているのよ、あなたは信じられるって」
「そんなに、演じられてなかった、ですか」
「ええ。余裕あるやつに恵まれるなんてまっぴらとか思ってそうだな、って思ってた」
「……いい性格してる」
「あら! お褒めの言葉をありがとう!」

 完全にバレてるし、嫌味で返してくるし、むかつくはずなのに、思わずつられて笑ってしまった。
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