ディスコミュニケーション

テキイチ

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「じゃあ、行ってきます」
「今日はごちそう用意しとくね! お父さんも早く帰ってくるって」
「うん、楽しみにしとく」

 あれから一年半、私は結局ギチギチの受験勉強はしなかった。家族で旅行したり、のんびり過ごす日も結構あった。受験生が滑るなんて、縁起でもないよ、と父は笑ったけれど、高三の十二月にも一日、スキーに連れて行ってもらった。なんとなく、逆に縁起担ぎになるかと思って。そんなお気楽な発想、昔だったら絶対出なかったはずだ。
 せっかく手に入った切符なんだから、何も考えずに使ってしまおう。
 そんな感じで精神的に余裕があったからだろう、無事志望校に合格し、今日は入学式だ。

「気を付けてね」
「おおげさだなあ」

 笑顔で家を出る。母は私が角を曲がるまで、ずっと手を振り続けてくれていた。



「ここでいいのかな……」

 大学構内を歩いてみるものの、入試の時しか来ていないので今ひとつ土地勘がない。きょろきょろしていると、くすくすと懐かしい笑い声が聞こえてきた。

「相変わらず、方向音痴ね、ユキ」
「うるさいな」
「桜の花びら、なんだか雪みたい。初めて会った日を思い出すわ」
「うん。私にとって、雪は幸運の象徴だから、幸先いいなあ」
「雪って名前だけに」
「そう」

 ハルがにっこりと笑う。久しぶりの笑顔は、初めて出会った時とはなんだか少し違う、逞しさを感じた。

「再会できてよかったよ。万一会えなかったらどうしようかと思ってた」
「約束は守る方だし、私が受からない訳ないでしょ?ここに至るまでの紆余曲折を語ったら、愛あり涙あり笑いありで、単行本二冊分くらい書けるわよ!」
「聞くの面倒だから、話さなくていい」
「つれないなあ! 明晰な頭脳を最大限活用して、奨学金たくさんもらったの! 働きはじめたら一気に返済してやるんだから!」
「学園の女王のイメージ、ガタガタだよ。ハル」
「そんなものは喜んで返上しますわ! そろそろ時間よ。行こう!」

 桜吹雪を抜ければ、入学式の会場だ。手に入れた切符で、一体どこまで行くことができるんだろう。はてしなく広がる未来に思いを馳せつつ、足を踏み出した。
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みんなの感想(2件)

松竹梅
2022.05.10 松竹梅

このお話、特に事件や大きな出来事が起こるわけではないのですが、心理描写が丁寧でいつのまにか引き込まれます。人の見方や気持ちはひょんな事から変わるんだな、できればいつも素直な気持ちで人を見ていきたいな、と思わせるお話でした。

2022.05.11 テキイチ

松竹梅 様


感想ありがとうございます!

「心理描写が丁寧でいつのまにか引き込まれます」と言っていただけてとても嬉しいです!前段の「特に事件や大きな出来事が起こるわけではない」というのはまさに私が目指しているところで、それなのになぜか読ませるものを書きたいとずっと思っています。

嬉しすぎてなんだかうまく言葉が出ないのですが、書いてくださった感想を何度も読み返しています。ありがとうございます!

また全年齢の話も書こうと思います。投稿した時はぜひよろしくお願いいたします!

解除
待鳥園子
2022.05.01 待鳥園子

これ大好きです( •̀ω•́ )✧

投票したよー!

2022.05.02 テキイチ

待鳥園子 様


感想ありがとうございます!

お読みくださっていた上、大好きと言っていただけて……!この話、主人公のドロドロした感情と視野の狭さに追い詰められる気分になるはずで、好き嫌いが分かれると思うので、めちゃくちゃ嬉しいです!!
ご投票もいただいて!やったあ!ありがとうございます!できることはやってみようかな、と軽い気持ちでエントリーしたのですが、やっぱり嬉しいです!!!

また全年齢の話も書こうと思います。投稿した時はぜひよろしくお願いいたします!

解除

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