【R18】人の好みは説明できない

テキイチ

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第十章 扉が閉じて別の扉が開く

283 人生は選択の連続である ⑤

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 僕の顔を見て、宗岡先生はふうとため息を吐いた。

「渋沢くんは物事に対する興味関心が低めだね」
「はあ……」
「だから焦点の絞りが甘いし、掘り下げもあまり上手くない。でも、ヒントを見つけたらきちんと動ける」

 これは貶されているのだろうか、褒められているのだろうか。

「もう少しだけ観察を増やして、自分で見つける習慣をつけて。それができたら自動的に伸びるから」
「ありがとうございます」
「渋沢くんは心配しなくていいから楽だね」

 あっと小さくつぶやいて、フォローをするように宗岡先生は続ける。

「渋沢くんが楽をしているという意味ではなくて、僕が」
「楽じゃない学生って、どんな感じですか?」
「嫌なこと聞くね」
「もう少し物事に対する興味関心を高めた方がいいかと思いまして」
「……一見真面目で、都合の悪いことを訊ねられたら話をそらすためにわざと的外れな回答をして、どこか歪な笑顔で大丈夫ですって言うタイプ」

 笑顔のように見せかけてこれは渋面だ。宗岡先生の表情がだんだん読めるようになってきた気がする。

「ずいぶん具体的ですね」
「うちのゼミでもたまにいるから。面倒見がいい先生のとこなら、毎年複数名いるんじゃないの。とにかく表面を取り繕うことにエネルギーを費やすから、肝心の研究の質は全然上がらなくて、理想と現実のギャップに勝手に苦しんで、でも相談はできなくて、ある日ぷつんと糸が切れたみたいにいきなり音信不通になったりする」
「それで本の未返却ですか?」
「そう! そのまま退学しちゃって返ってこなかったパターン! 返却の請求もしづらいし、本当に、本当に、困る!」

 宗岡先生は誰が見てもわかりやすく嫌そうな表情をしている。これは本気なのだろう。

「退学はその後の人生にも大きく影響するから、回避できるといいですよね」
「僕は本人の意思を尊重すべきだと思うけど、大学側はもっとシビアだよ。大学案内にデータを載せないといけないから、退学者と進路未定者は出したくない。受験者が減ったら、大学の存続に関わる」

 こほんと咳ばらいをし、少し喋り過ぎた、と宗岡先生がぼそりとつぶやいた。
 本の返却は必ずしますと重ねて約束して、僕は宗岡先生の研究室を後にした。



 食堂に行くと、ちょうど土屋さんがお昼を食べていた。一緒にどうかと誘われたので、快諾する。若葉ちゃんに響さんとの関係を話してから、土屋さんの雰囲気はやわらかくなった。一緒にいても前のような気まずさを感じない。

「若葉、ちょっとおかしくない?」

 お昼を概ね食べ終えた時に、土屋さんが鋭く切り出してきた。

「おかしく、見えますか」
「うん。言動がまともすぎる」
「え?」
「片岡くんと付き合っていた頃みたいな……」

 土屋さんはそう言うと、はっとした表情で続けた。

「ごめん、渋沢くんが悪いみたいに言いたいんじゃなくて。二人はうまくいってると思う。そうじゃなくて、なんだか若葉の無理してる感じが痛々しく見えるというか……」
「無理してる……」
「気のせいかもしれないけど」

 土屋さんの言うことは一理ある。最近の若葉ちゃんは、笑顔がすっきりしない。若葉ちゃん本人なのに、なんだかこれまでと違って見えて。それがどうしても気になっている。
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