352 / 352
最終章 ジャックにはジルがいる
350 君といちめんのなのはな ⑤
しおりを挟む
「さすがにお腹空いた」
「シャワー浴びて、ごはん食べよう!」
交代でシャワーを浴び、僕が部屋に戻ると、若葉ちゃんは笑顔でてきぱきと朝ごはんを準備してくれていた。サンドイッチに紅茶。本場で食べるきゅうりのサンドイッチは、ひときわ高貴な味がした。
一緒にお皿を洗ってのんびり過ごす。
若葉ちゃんは僕のシャツの胸ポケットに目を留めた。
「あ! それ! 写真の万年筆だね!」
「そう。軸の色、何色かあったんだけど、若葉ちゃんにちなんでやっぱり緑がいいなと思って」
「軸の色も私のことを思い浮かべて選んでくれたんだ!」
そうだ。僕は見せたかった写真のことを思い出し、スーツケースを開ける。
嬉しそうな若葉ちゃんに写真を手渡すと、笑顔が更に輝いた。
「これは郵便じゃなくて、直接見せたくて」
「菜の花畑……!」
ここへはやっぱり若葉ちゃんと一緒に行きたかったので、この春は僕一人でピーターラビット号を飛ばし、写真を撮ってきたのだ。
「お昼は若葉ちゃんと一緒に食べたお蕎麦屋さんにしたんだけど、三十分近く待ったんだ。待ってる間に調べてみたら、おいしいと有名で待つのがあたりまえのお店なんだって。若葉ちゃんと入店してすぐ食べられたのは、たぶん、相当幸運だったんだよ」
「そうなんだ!」
「菜の花、来年こそは若葉ちゃんと一緒に見に行きたい」
「もちろん私も!」
不意に、蕎麦を食べてる最中に大地震が起きてしまい大好きなエビ天を食べることができなかった人の話を思い出した。若葉ちゃんとお蕎麦屋さんで話した、小学校の先生から聞いた、オチのない話。
いつ何が起こるかなんてわからない。油断していると本当に大切なものを失うかもしれない。できることはできる時にすべき。僕はこの話から、そんな教訓を得た。
もったいぶってないで、思い切って、もう、渡してしまおう。
「若葉ちゃん、はい」
「なあに?」
スーツケースから小さなショップ袋を取り出し、若葉ちゃんに渡した。
「少し早いけど、プレゼント」
意味がわからないのだろう。若葉ちゃんは不思議そうな顔で首をかしげつつ、ショップ袋から箱を取り出した。包みを丁寧に開け、中身を見、目を見開く。
「お誕生日おめでとう。今度こそ、最初から僕が選んだものを、若葉ちゃんにあげたかったんだ」
地金が淡い金色をしたエメラルドの指輪。五月の誕生石でもあるけれど、愛と幸福を象徴する若葉色の宝石が、まさに若葉ちゃんにぴったりだと思ったから。
僕はケースから指輪を取り出し、若葉ちゃんの左手を取ると、薬指にそっと嵌めた。よかった。サイズもぴったりだ。
「素敵……! とっても嬉しい……」
「よかった。でも、これは、あくまでも、誕生日プレゼントだからね」
僕はあえてそう重ねて伝える。やっぱり意味がよくわかっていない様子で首をかしげる若葉ちゃんに続けて言った。
「婚約指輪と結婚指輪は一緒に選びたいんだ。二人のことだから。若葉ちゃんの希望のお店があったら教えて。ピーターラビット号があるから、どこへでも行ける」
僕の言葉を聞いて、若葉ちゃんは何のためらいもなく、元気に返してくれた。
「うん!」
彼女の満面の笑みを見て、僕の脳裏に浮かんだのは。
鮮やかな、いちめんのなのはな。
-------------------------
Every Jack has his Jill.
どのジャックにもジルがいる。破れ鍋に綴じ蓋。
They lived happily ever after.
彼らはいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
「シャワー浴びて、ごはん食べよう!」
交代でシャワーを浴び、僕が部屋に戻ると、若葉ちゃんは笑顔でてきぱきと朝ごはんを準備してくれていた。サンドイッチに紅茶。本場で食べるきゅうりのサンドイッチは、ひときわ高貴な味がした。
一緒にお皿を洗ってのんびり過ごす。
若葉ちゃんは僕のシャツの胸ポケットに目を留めた。
「あ! それ! 写真の万年筆だね!」
「そう。軸の色、何色かあったんだけど、若葉ちゃんにちなんでやっぱり緑がいいなと思って」
「軸の色も私のことを思い浮かべて選んでくれたんだ!」
そうだ。僕は見せたかった写真のことを思い出し、スーツケースを開ける。
嬉しそうな若葉ちゃんに写真を手渡すと、笑顔が更に輝いた。
「これは郵便じゃなくて、直接見せたくて」
「菜の花畑……!」
ここへはやっぱり若葉ちゃんと一緒に行きたかったので、この春は僕一人でピーターラビット号を飛ばし、写真を撮ってきたのだ。
「お昼は若葉ちゃんと一緒に食べたお蕎麦屋さんにしたんだけど、三十分近く待ったんだ。待ってる間に調べてみたら、おいしいと有名で待つのがあたりまえのお店なんだって。若葉ちゃんと入店してすぐ食べられたのは、たぶん、相当幸運だったんだよ」
「そうなんだ!」
「菜の花、来年こそは若葉ちゃんと一緒に見に行きたい」
「もちろん私も!」
不意に、蕎麦を食べてる最中に大地震が起きてしまい大好きなエビ天を食べることができなかった人の話を思い出した。若葉ちゃんとお蕎麦屋さんで話した、小学校の先生から聞いた、オチのない話。
いつ何が起こるかなんてわからない。油断していると本当に大切なものを失うかもしれない。できることはできる時にすべき。僕はこの話から、そんな教訓を得た。
もったいぶってないで、思い切って、もう、渡してしまおう。
「若葉ちゃん、はい」
「なあに?」
スーツケースから小さなショップ袋を取り出し、若葉ちゃんに渡した。
「少し早いけど、プレゼント」
意味がわからないのだろう。若葉ちゃんは不思議そうな顔で首をかしげつつ、ショップ袋から箱を取り出した。包みを丁寧に開け、中身を見、目を見開く。
「お誕生日おめでとう。今度こそ、最初から僕が選んだものを、若葉ちゃんにあげたかったんだ」
地金が淡い金色をしたエメラルドの指輪。五月の誕生石でもあるけれど、愛と幸福を象徴する若葉色の宝石が、まさに若葉ちゃんにぴったりだと思ったから。
僕はケースから指輪を取り出し、若葉ちゃんの左手を取ると、薬指にそっと嵌めた。よかった。サイズもぴったりだ。
「素敵……! とっても嬉しい……」
「よかった。でも、これは、あくまでも、誕生日プレゼントだからね」
僕はあえてそう重ねて伝える。やっぱり意味がよくわかっていない様子で首をかしげる若葉ちゃんに続けて言った。
「婚約指輪と結婚指輪は一緒に選びたいんだ。二人のことだから。若葉ちゃんの希望のお店があったら教えて。ピーターラビット号があるから、どこへでも行ける」
僕の言葉を聞いて、若葉ちゃんは何のためらいもなく、元気に返してくれた。
「うん!」
彼女の満面の笑みを見て、僕の脳裏に浮かんだのは。
鮮やかな、いちめんのなのはな。
-------------------------
Every Jack has his Jill.
どのジャックにもジルがいる。破れ鍋に綴じ蓋。
They lived happily ever after.
彼らはいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし。
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
やっぱり大好きです。
2人の雰囲気もそうですが、お話が流れていく過程であったり、2人を取巻く人達であったり。
お話全体が大好きです。
お月様連載の時も追いかけてましたが、アルファ連載に伴い再読させて頂きました!
素敵なお話ありがとうございました✨
おとのあ 様
感想ありがとうございます!もう、もう、嬉しくて、嬉しくて、小躍りしています!!!
大好きと言っていただけるのは本当に格別に嬉しいです。メインの二人も、話も、周りの人達も、とても愛されている……!この話には私自身もとても思い入れがあるので、愛されていることがとてもありがたくて、嬉しくて……もう全然言葉が出ないし、ちっとも冷静になれなくて申し訳ないです……。お話を大切にしてくださって、とても感謝しています。
再読していただけるのはとてもとても嬉しいのです!これからも再読しても楽しめるようなお話を書けたらと思います。
いつも見守ってくださり本当にありがとうございます!とても励まされています!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
他サイトで読んで久しぶりに再読したけど、やっぱり空気感がとても良いなぁ。
表紙の素敵なイラストが、とっても二人っぽい!!
応援しています。
待鳥園子 様
感想ありがとうございます!めちゃくちゃ励まされました!!!ヾU・ェ・U(*´∀`*)ノ キャッキャッ
空気感!よくしたいけどものすごく難しいと思っている部分……!とてもうれしいです!!!
表紙は本当に最高に最高で最高ですよね!!!こんなに素敵な表紙を描いていただいて感動と感謝でいっぱいです!!!
応援ありがとうございます!引き続きがんばります!