【R18】君に長寿と繁栄を~淫紋を解呪するたったひとつの冴えたやりかた~

テキイチ

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01. 出発 ①

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 私には特出したものがない。私にできることで、何かを手に入れられたら。リリアンはずっとそう思っていた。

「決めた。私は王都に出る。いい仕事を見つけて報酬を送るから、お店の足しにして」
「姉ちゃん。家のためじゃなくて、もっと自分のために生きなよ……」

 リリアンは父マルセルと三歳下の弟オーレルの三人で田舎の小さな村に暮らしている。母はオーレルを産んだ時にそのまま亡くなったので、リリアンは幼いながらも自分が母親代わりにならなければと思い、しっかり者に育った。

 マルセルはかたな鍛冶かじの職人だ。リリアンが接客や会計を手伝うことはあるが、一人で店を営んでいる。言葉が少なく、技術に厳しいため、弟子入りした職人達はみんなすぐに辞めてしまうのだ。以前と比べればずいぶん丸くなった気がするが、そんなことを知っているのはリリアンとオーレルだけである。

 マルセルは以前、国軍の刀剣作製を任されていた。だが、一人で打てる量には限度がある。マルセルを推していた貴族が失脚したのもあり、薄利多売の工房に受注先が変更され、店の経営状態はかなり悪化した。

 本来は刀鍛冶だが、マルセルは刃物ならばなんでも扱う。刀剣を作ることではなく、生活に根ざした道具を作ることに誇りを持っているのである。村の家庭用の刃物はマルセルの作ったものが半分ほどを占めていた。ただ、出来がよすぎたため、なかなか買い替えられることはない。粗雑な安いものを使い捨てる貧しい若者も増えていた。

 刃物を使う業者の受注で生き延びていたのだが、先日、大口の取り引き先である材木問屋が「卸値を下げるか取り引きをやめるか、どちらか選んでくれ」と言ってきたのである。先方が提示してきた卸値だと、材料費だけでほとんどが消えてしまい、儲けが出ない。

 マルセルが廃業を考えていると二人に告げたので、リリアンは王都に出ると言い出したのだ。

「私のためよ。できることは全てやらないと悔いが残るから。私がいない間、お店の手伝いはあんたに任せたから」
「だから、俺は継がないって……」

 弟のオーレルは基本的に覇気のない人間だ。自分にも他人にも厳しいマルセルと相性があまりよくないように見えるし、鍛冶屋も継ぐ気はないと明言している。
 リリアンはマルセルの工房が好きで、本当は自分が刀鍛冶職人になって跡を継ぎたかった。だが、マルセルから「お前には無理だ」と言われ、諦めざるを得なかったのである。

 マルセルは妥協を許さず厳しいが、能力と根性さえあれば、性別を問わず認める人間だ。田舎の村で女性に対してそのように判断する人間は珍しい。リリアンも期待に応えるべく必死に努力したのだが、彼女には刀を打つ腕力が決定的に足りなかった。マルセルの作る刀剣類は、薄く頑丈で切れ味が鋭く、力がなくても楽に切れる。刃のしなやかな強さを生み出すためには、打ち込みが肝なのだ。砥ぐ技術は父にも褒めてもらえるほど上達したものの、それだけだった。

 刀鍛冶職人になる夢は諦めざるを得なくても、せめて店の為にできることはないだろうか。リリアンはずっと考え続け、王都で働いて送金するという結論を出した。村では女性が稼げるような職がほとんどなかったし、毎日工房を眺めていると諦めたはずの夢が脳裏をかすめて苦しかったのもある。
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