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06. ギルドに入れない ③
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「先日の案件が一段落したので来たのだが。……申し訳ない、先客がおられたか」
「ジェラール様ぁ! お待ちしておりましたぁ! いいんです! もう話は終わっていますから!」
受付嬢は満面の笑みを浮かべ、嬉しそうな声を上げる。私と対応全然違うよね? と正直リリアンは思う。振り向くと、黒髪の若い男性が立っていた。長身で、一目見ただけでも鍛えられているとわかる、がっちりした体型をしている。冒険者ギルドだから武人なのだろう。彼は手に長い槍を携えていて、リリアンは思わず目で追う。槍は使い込まれた古いものだが、彼は丁寧に握っていて、大切にしていることがうかがい知れた。
「おすすめした鍛冶屋さん、どうでしたぁ?」
「それが……」
彼は槍の鞘をゆっくり取り外し、受付嬢に見せようとする。気になってそっと覗き見たリリアンは思わず声を上げた。
「駄目ですよ! そんな砥ぎの甘い得物では!」
男性が振り返り、同時に受付嬢がものすごい目つきで睨んできたので、リリアンは我に返る。
「も、申し訳ありません……。失礼しま……」
「俺はジェラールと申す。失礼だが、あなたの名は?」
「リリアンです……」
「リリアン嬢、あなたは刀剣の目利きか?」
「目利きというほどではありませんが……」
ここまで言いかけて、リリアンははたと気づく。鍛えられた身体。鋭い眼光。使い込まれた槍。ジェラールという名。
「も、もしかして、『一本槍のジェラール』?」
田舎のリリアンの村でも知れ渡っている勇者の名だ。どんな獲物も一本の槍で仕留めるところから、この二つ名がついたという。
ジェラールは困ったように眉を寄せ、リリアンの問いに答える。
「そのような呼び名があるのは確かだが、普通にジェラールと呼んでほしい。話を戻すが、リリアン嬢、あなたは砥ぎの心得がおありか?」
「父が刀鍛冶なので、手伝っていました」
「そうか。リリアン嬢、この槍を見てほしい」
ジェラールから槍を差し出されたので、リリアンは丁寧に両手で受け取り、今度はじっくり観察する。全体的に作業が雑だ。刃の部分はなまくらだし、先端は逆に鋭すぎる。槍は突いた時の強度を保つために、砥ぎ方に工夫がいるのだ。マルセルがこの槍を見たら「修行をやり直せ」と言うに違いない。リリアンが顔を上げると、ジェラールと目が合った。彼は淡々と言う。
「リリアン嬢、今からこの槍を砥いでいただくことは可能だろうか? もちろん報酬はお支払いする」
「四半刻……余裕を持って半刻いただければ、砥げます」
「今、刃物を砥ぐための道具はお持ちか?」
「はい」
「申し訳ないが、水場をお貸しいただけるか?」
ジェラールが受付嬢に問うと、彼女はリリアンを無言で案内した。
四半刻と少しして、リリアンは槍を砥ぎあげた。作業前にある程度仕上がりを計算するが、最終的には勘で決める。意識を研ぎ澄ませば、神が憑依したかのように、これだと必ずわかる。リリアンはその瞬間がとても好きだ。
王都に出てきても、全然上手くいっていない。けれど、今日はいい経験を積めた。丁寧に使い込まれた勇者の槍を砥げる機会なんて、そんなにないだろう。このことを励みにもう少しだけがんばってみよう。もう少しがどこまで持つかは、わからないけれど。
そんなことをリリアンが考えていると、受付嬢が仮面を貼り付けたような笑みで扉を開けた。後からジェラールもついてきている。
「ジェラール様。槍は砥ぎ終えております」
ジェラールはリリアンから差し出された槍を丁寧に受け取った。遠目には髪と同じ黒に見えたジェラールの瞳は焦げ茶色で、槍をとても優しく愛おしそうに見つめるのだなとリリアンは思う。ジェラールは穏やかな笑みを浮かべ、頷いた。
リリアンの就職活動はあっけなく終わった。勇者ジェラールのパーティーに入れてもらえることになったのである。
「ジェラール様ぁ! お待ちしておりましたぁ! いいんです! もう話は終わっていますから!」
受付嬢は満面の笑みを浮かべ、嬉しそうな声を上げる。私と対応全然違うよね? と正直リリアンは思う。振り向くと、黒髪の若い男性が立っていた。長身で、一目見ただけでも鍛えられているとわかる、がっちりした体型をしている。冒険者ギルドだから武人なのだろう。彼は手に長い槍を携えていて、リリアンは思わず目で追う。槍は使い込まれた古いものだが、彼は丁寧に握っていて、大切にしていることがうかがい知れた。
「おすすめした鍛冶屋さん、どうでしたぁ?」
「それが……」
彼は槍の鞘をゆっくり取り外し、受付嬢に見せようとする。気になってそっと覗き見たリリアンは思わず声を上げた。
「駄目ですよ! そんな砥ぎの甘い得物では!」
男性が振り返り、同時に受付嬢がものすごい目つきで睨んできたので、リリアンは我に返る。
「も、申し訳ありません……。失礼しま……」
「俺はジェラールと申す。失礼だが、あなたの名は?」
「リリアンです……」
「リリアン嬢、あなたは刀剣の目利きか?」
「目利きというほどではありませんが……」
ここまで言いかけて、リリアンははたと気づく。鍛えられた身体。鋭い眼光。使い込まれた槍。ジェラールという名。
「も、もしかして、『一本槍のジェラール』?」
田舎のリリアンの村でも知れ渡っている勇者の名だ。どんな獲物も一本の槍で仕留めるところから、この二つ名がついたという。
ジェラールは困ったように眉を寄せ、リリアンの問いに答える。
「そのような呼び名があるのは確かだが、普通にジェラールと呼んでほしい。話を戻すが、リリアン嬢、あなたは砥ぎの心得がおありか?」
「父が刀鍛冶なので、手伝っていました」
「そうか。リリアン嬢、この槍を見てほしい」
ジェラールから槍を差し出されたので、リリアンは丁寧に両手で受け取り、今度はじっくり観察する。全体的に作業が雑だ。刃の部分はなまくらだし、先端は逆に鋭すぎる。槍は突いた時の強度を保つために、砥ぎ方に工夫がいるのだ。マルセルがこの槍を見たら「修行をやり直せ」と言うに違いない。リリアンが顔を上げると、ジェラールと目が合った。彼は淡々と言う。
「リリアン嬢、今からこの槍を砥いでいただくことは可能だろうか? もちろん報酬はお支払いする」
「四半刻……余裕を持って半刻いただければ、砥げます」
「今、刃物を砥ぐための道具はお持ちか?」
「はい」
「申し訳ないが、水場をお貸しいただけるか?」
ジェラールが受付嬢に問うと、彼女はリリアンを無言で案内した。
四半刻と少しして、リリアンは槍を砥ぎあげた。作業前にある程度仕上がりを計算するが、最終的には勘で決める。意識を研ぎ澄ませば、神が憑依したかのように、これだと必ずわかる。リリアンはその瞬間がとても好きだ。
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そんなことをリリアンが考えていると、受付嬢が仮面を貼り付けたような笑みで扉を開けた。後からジェラールもついてきている。
「ジェラール様。槍は砥ぎ終えております」
ジェラールはリリアンから差し出された槍を丁寧に受け取った。遠目には髪と同じ黒に見えたジェラールの瞳は焦げ茶色で、槍をとても優しく愛おしそうに見つめるのだなとリリアンは思う。ジェラールは穏やかな笑みを浮かべ、頷いた。
リリアンの就職活動はあっけなく終わった。勇者ジェラールのパーティーに入れてもらえることになったのである。
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