34 / 55
34. すさんだ町 ③
しおりを挟む
ジェラールがもう一度概要をまとめてくれる。
被害は十数件。シリウスが出没するのはほとんど夜だ。被害者はほとんど若い男性で、噛みつかれ、火を噴かれ、大怪我を負っている。シリウスに襲われた心当たりを訊ねても、「何もしていないのに急に襲われた」と異口同音に言っているとのこと。リリアンはジェラールの言い方が気になって訊ねる。
「ほとんど?」
「一件だけ、昼に被害にあった人がいる。この方だけ女性だ」
「何が違ったのかしら?」
「わからない。この方はパンを奪われている」
「あら?」
アニエスが入口を見て声を上げるので、二人も振り向く。ブノワだ。
「ああ、ちょうどよかった。ジェラール、パンとおかずをくれない?」
食堂の前で別れてから、まだ四半刻程度しか経っていない。ジェラールは乞われるままに背嚢からパンと保存食を出し、ブノワへ渡す。
「これでいいか?」
「ありがとう」
ブノワは受け取るともそもそ食べる。酒場で過ごしたにしてはあまりにも早いので、思わずリリアンは訊ねた。
「ブノワ? 飲みに行ったんじゃなかったの?」
「行ったけど。不味かったから、出てきた」
「残念だったわね。次のお酒はあたりだといいけど」
「……いや、もういいかな」
酒好きなブノワにしては珍しい、とリリアンは思う。ブノワは食べ終えると、「部屋に戻ってもう寝るから、詳細は明日教えて」と言い、立ち去った。
「相変わらず自由だな……」
「ブノワは一を聞いて十を知るタイプだし、私と違ってすぐ的確に動けるから」
「リリアンは言われたことをきちんとこなしているし、細やかな気配りに助けられているわ」
アニエスに気配りと言われ、さっきまでブノワがいた席が少し気になった。他に人がいないとはいえ、持ち込んだものを食べてよかったのか、と。リリアンは受け付けにいる宿屋の主人をそっと見る。口の端を少しだけ上げた主人と目が合い、リリアンは思わずびくりとした。注意こそされないが、見られている。早く立ち去った方がいい、とリリアンは思い、気になった点を伝える。
「ありがとう。私は明日、聞き取り調査をした方がいいと思ったの」
「聞き取り調査? 誰に?」
「女性の被害者と道沿いの民家に。状況確認がしたいし、資料に書かれていない情報が得られるかもしれないから」
「確かに今のままだとシリウスがいつどこに出没するかわからないから効率が悪い。聞き取り調査をすれば情報を絞り込めるかもしれないな」
「あと、結構長居したから、もう解散した方がいいと思うわ」
三人は宿屋の主人に休憩所を使わせてくれた礼を言い、部屋へ戻る。主人は相変わらず口の端を少しだけ上げていた。
被害は十数件。シリウスが出没するのはほとんど夜だ。被害者はほとんど若い男性で、噛みつかれ、火を噴かれ、大怪我を負っている。シリウスに襲われた心当たりを訊ねても、「何もしていないのに急に襲われた」と異口同音に言っているとのこと。リリアンはジェラールの言い方が気になって訊ねる。
「ほとんど?」
「一件だけ、昼に被害にあった人がいる。この方だけ女性だ」
「何が違ったのかしら?」
「わからない。この方はパンを奪われている」
「あら?」
アニエスが入口を見て声を上げるので、二人も振り向く。ブノワだ。
「ああ、ちょうどよかった。ジェラール、パンとおかずをくれない?」
食堂の前で別れてから、まだ四半刻程度しか経っていない。ジェラールは乞われるままに背嚢からパンと保存食を出し、ブノワへ渡す。
「これでいいか?」
「ありがとう」
ブノワは受け取るともそもそ食べる。酒場で過ごしたにしてはあまりにも早いので、思わずリリアンは訊ねた。
「ブノワ? 飲みに行ったんじゃなかったの?」
「行ったけど。不味かったから、出てきた」
「残念だったわね。次のお酒はあたりだといいけど」
「……いや、もういいかな」
酒好きなブノワにしては珍しい、とリリアンは思う。ブノワは食べ終えると、「部屋に戻ってもう寝るから、詳細は明日教えて」と言い、立ち去った。
「相変わらず自由だな……」
「ブノワは一を聞いて十を知るタイプだし、私と違ってすぐ的確に動けるから」
「リリアンは言われたことをきちんとこなしているし、細やかな気配りに助けられているわ」
アニエスに気配りと言われ、さっきまでブノワがいた席が少し気になった。他に人がいないとはいえ、持ち込んだものを食べてよかったのか、と。リリアンは受け付けにいる宿屋の主人をそっと見る。口の端を少しだけ上げた主人と目が合い、リリアンは思わずびくりとした。注意こそされないが、見られている。早く立ち去った方がいい、とリリアンは思い、気になった点を伝える。
「ありがとう。私は明日、聞き取り調査をした方がいいと思ったの」
「聞き取り調査? 誰に?」
「女性の被害者と道沿いの民家に。状況確認がしたいし、資料に書かれていない情報が得られるかもしれないから」
「確かに今のままだとシリウスがいつどこに出没するかわからないから効率が悪い。聞き取り調査をすれば情報を絞り込めるかもしれないな」
「あと、結構長居したから、もう解散した方がいいと思うわ」
三人は宿屋の主人に休憩所を使わせてくれた礼を言い、部屋へ戻る。主人は相変わらず口の端を少しだけ上げていた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる