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39. 先に立つもの ⑤
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「飼うなら、私が魔石を選ぶ。首輪につければ、魔力も制御できるでしょう」
「アニエス、お前、魔石選びしたいだけだろ! じゃあ、俺は護符を用意するか!」
「私は何もできないけど、ちゃんとお世話するから! ジェラール、お願い!」
アニエスがぼそりと言い、ブノワが楽しそうに続けるので、リリアンは必死に請うた。ジェラールは槍を下ろし、振り絞るように言う。
「……手伝ってくれ。母犬を弔いたい」
ジェラールは母犬の矢を全て抜き、一箇所にまとめた。四人で穴を掘り、母犬を埋めると、アニエスが弔いの祈りを捧げる。土がしばらく光に包まれ、静かに暗くなった。
「ブノワ、この矢を焼き払ってほしい」
「浄化は、あんまり得意じゃないけどね」
ブノワが真剣な表情で詠唱すると、矢は一瞬にして消え去る。
「俺はこれから依頼主へシリウスを渡しに行く。みんなはしばらくしてから、そいつを連れて宿に戻ってくれ」
「私達も一緒に行っちゃ駄目なの?」
「……そいつに見せたくない」
リリアンの問いにジェラールはぼそりと答え、そのまま洞窟の外へ出ていった。
子犬は男性陣に敵意をあらわにするので、宣言通りリリアンが世話をすることになった。アニエスには生活能力が全くないからである。宿では女性陣の部屋に一緒に泊まり、野営の時はリリアンと行動を共にすることが多かった。
子犬は最初リリアンにもいい反応を示さなかったが、パンに山羊の乳を含ませて口に宛がうと、弱々しく吸った。食べなければ生きていけないので仕方なくかもしれないが、リリアンはそれでもよかった。とにかく生きてほしかったから。
何回か山羊の乳を与えたところ、子犬の警戒心が解けたように感じたので、リリアンはそっと頭を撫でた。子犬は一瞬ぴくりと身体を震わせたが、ぺろりとリリアンの手を舐め、ぱたりとしっぽを振った。私に攻撃力がないことを野生の勘で見抜いたのかもしれないと思いつつも、リリアンは微笑んだ。
リリアンは灰色がかった薄茶の毛色と子犬の瞳の色に合わせ、やわらかな焦げ茶の革で首輪を縫った。ブノワが調達した護符を刻んだ銀の金具を取り付け、アニエスが選んだ曹灰長石も下げる。リリアンができあがった首輪をつけると、子犬は誇らしげな表情でぱたぱたとしっぽを振った。
「ねえ、この子の名前をどうしたらいいと思う?」
「そういえば、付けてなかったわね」
「俺達は威嚇されるから、近づけなかったしねえ」
「それは、プロシオンしかないんじゃないか? シリウスの前には、常にこいつがいたはずだから」
プロシオンはこいぬ座で最も強く光る星だ。おおいぬ座のシリウスが現れる前に空で輝くので、プロシオンの名がついた。
「プロシオン、いい名前ね!」
この子がみんなに心を開いて、私達の先頭に立ってくれる日が来るといいな。リリアンはそう思いながらプロシオンの頭を優しく撫でる。ジェラールは少し切ない表情を浮かべて、リリアンとプロシオンを見つめていた。
「アニエス、お前、魔石選びしたいだけだろ! じゃあ、俺は護符を用意するか!」
「私は何もできないけど、ちゃんとお世話するから! ジェラール、お願い!」
アニエスがぼそりと言い、ブノワが楽しそうに続けるので、リリアンは必死に請うた。ジェラールは槍を下ろし、振り絞るように言う。
「……手伝ってくれ。母犬を弔いたい」
ジェラールは母犬の矢を全て抜き、一箇所にまとめた。四人で穴を掘り、母犬を埋めると、アニエスが弔いの祈りを捧げる。土がしばらく光に包まれ、静かに暗くなった。
「ブノワ、この矢を焼き払ってほしい」
「浄化は、あんまり得意じゃないけどね」
ブノワが真剣な表情で詠唱すると、矢は一瞬にして消え去る。
「俺はこれから依頼主へシリウスを渡しに行く。みんなはしばらくしてから、そいつを連れて宿に戻ってくれ」
「私達も一緒に行っちゃ駄目なの?」
「……そいつに見せたくない」
リリアンの問いにジェラールはぼそりと答え、そのまま洞窟の外へ出ていった。
子犬は男性陣に敵意をあらわにするので、宣言通りリリアンが世話をすることになった。アニエスには生活能力が全くないからである。宿では女性陣の部屋に一緒に泊まり、野営の時はリリアンと行動を共にすることが多かった。
子犬は最初リリアンにもいい反応を示さなかったが、パンに山羊の乳を含ませて口に宛がうと、弱々しく吸った。食べなければ生きていけないので仕方なくかもしれないが、リリアンはそれでもよかった。とにかく生きてほしかったから。
何回か山羊の乳を与えたところ、子犬の警戒心が解けたように感じたので、リリアンはそっと頭を撫でた。子犬は一瞬ぴくりと身体を震わせたが、ぺろりとリリアンの手を舐め、ぱたりとしっぽを振った。私に攻撃力がないことを野生の勘で見抜いたのかもしれないと思いつつも、リリアンは微笑んだ。
リリアンは灰色がかった薄茶の毛色と子犬の瞳の色に合わせ、やわらかな焦げ茶の革で首輪を縫った。ブノワが調達した護符を刻んだ銀の金具を取り付け、アニエスが選んだ曹灰長石も下げる。リリアンができあがった首輪をつけると、子犬は誇らしげな表情でぱたぱたとしっぽを振った。
「ねえ、この子の名前をどうしたらいいと思う?」
「そういえば、付けてなかったわね」
「俺達は威嚇されるから、近づけなかったしねえ」
「それは、プロシオンしかないんじゃないか? シリウスの前には、常にこいつがいたはずだから」
プロシオンはこいぬ座で最も強く光る星だ。おおいぬ座のシリウスが現れる前に空で輝くので、プロシオンの名がついた。
「プロシオン、いい名前ね!」
この子がみんなに心を開いて、私達の先頭に立ってくれる日が来るといいな。リリアンはそう思いながらプロシオンの頭を優しく撫でる。ジェラールは少し切ない表情を浮かべて、リリアンとプロシオンを見つめていた。
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