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38. 先に立つもの ④
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※犬が死んでいます
不意に鼻を刺す腐臭が漂い、四人は顔をしかめる。臭いの元を辿ると、たくさんの矢に射られた雌の魔犬の死骸が横たわっていた。ジェラールはそっと矢を抜く。狩猟用の矢ではない。もっとちゃちな細工の、玩具じみた矢だ。
「今、この町では、質の悪い遊びが流行っているそうだよ」
ブノワの声が静寂を破る。
「弱い魔獣を見つけて、数人で少しずつ嬲る。一思いに殺すよりも苦しんでいる姿を見るのが楽しいんだってさ」
「ブノワ、あんた、どこでそんな話……」
「酒場で、品のない若い男達が話してたよ。なかなかいい酒を出す店だったけど、一気に不味くなって、出てきた」
被害者達の「何もしていないのに急に襲われた」という言葉は、「シリウスには」という意味だったのだろう。後ろめたいことをしていたからこそ、あえて「何もしていない」と言ったのかもしれない。人は何か隠したいことがある時、却って饒舌になる。
魔犬は理性的な動物で、よほどのことがない限り自ら攻撃してこない。リリアンはそのことを思い出し、胸が苦しくなった。
「ごめん……ごめんなさい……痛かったし、苦しかったよね……」
ぽろぽろと涙をこぼすリリアンの背を、アニエスがそっとさする。
ヒスヒスと弱々しい鳴き声がした。リリアンが声の方を見ると、子犬がいる。泥にまみれ、薄汚れて、弱った子犬が。
子犬の周りには湿ったパンが散乱している。おそらく、まだ椀から飲むことができない子犬のために、シリウスはパンに山羊の乳を浸し、吸わせていたのだろう。
ジェラールは右手の槍を子犬に向けて構え直す。だが、振りかぶったまま、止まってしまった。
「こんな弱い個体、俺なら一瞬で息の根を止められるけど?」
ブノワが上目遣いでジェラールを見る。ジェラールは右手の槍を振り下ろせずにいる。リリアンはジェラールの表情をそっと見て、胸が詰まり、思わず叫ぶように言った。
「ね、ねえ! この子、飼っちゃ駄目かな? 魔犬は小さい時からきちんと躾ければ、いい相棒になってくれるんだよね? みんなが狩りに行ってる時、いい番犬代わりになってくれると思うの……!」
リリアンは三人に呼び掛ける。思わず腰巻をつかんだ手が震えていると、リリアンは自分でもわかった。
四人が請け負ったのは魔犬の駆除だ。子犬に手を掛けようとしているジェラールの判断は正しいし、リリアンも彼に逆らいたい訳ではない。だが、リリアンは、苦しそうなジェラールを見ていられなかった。
不意に鼻を刺す腐臭が漂い、四人は顔をしかめる。臭いの元を辿ると、たくさんの矢に射られた雌の魔犬の死骸が横たわっていた。ジェラールはそっと矢を抜く。狩猟用の矢ではない。もっとちゃちな細工の、玩具じみた矢だ。
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ブノワの声が静寂を破る。
「弱い魔獣を見つけて、数人で少しずつ嬲る。一思いに殺すよりも苦しんでいる姿を見るのが楽しいんだってさ」
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魔犬は理性的な動物で、よほどのことがない限り自ら攻撃してこない。リリアンはそのことを思い出し、胸が苦しくなった。
「ごめん……ごめんなさい……痛かったし、苦しかったよね……」
ぽろぽろと涙をこぼすリリアンの背を、アニエスがそっとさする。
ヒスヒスと弱々しい鳴き声がした。リリアンが声の方を見ると、子犬がいる。泥にまみれ、薄汚れて、弱った子犬が。
子犬の周りには湿ったパンが散乱している。おそらく、まだ椀から飲むことができない子犬のために、シリウスはパンに山羊の乳を浸し、吸わせていたのだろう。
ジェラールは右手の槍を子犬に向けて構え直す。だが、振りかぶったまま、止まってしまった。
「こんな弱い個体、俺なら一瞬で息の根を止められるけど?」
ブノワが上目遣いでジェラールを見る。ジェラールは右手の槍を振り下ろせずにいる。リリアンはジェラールの表情をそっと見て、胸が詰まり、思わず叫ぶように言った。
「ね、ねえ! この子、飼っちゃ駄目かな? 魔犬は小さい時からきちんと躾ければ、いい相棒になってくれるんだよね? みんなが狩りに行ってる時、いい番犬代わりになってくれると思うの……!」
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