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本編
12 秋の進行 ①
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秋は夕暮れなんて言うけれど。私は夕暮れより夜がいい。深更って呼び方が好きだ。静かに深まっていく感じで。夜の静寂。
翼を誘って映画を見ている。家で。
家で見る映画のいいところは、のんびりできることと、好きなものを食べながら見られること、そして途中で感想を言えることだ。後半二つは翼がいるから成立している。
映画を見る時、翼は甘いものを作ってくれることが多い。最初に作ってくれたのは、キャラメル味のポップコーンだった。「映画といったらこれだろ」とか言って。家でこんなものを作れるとは思っていなかったし、ポップコーンは塩味だと思っていたので、新鮮な気持ちで食べた。おいしかった。
今日はスイートポテト。「食べやすいし秋らしいだろ」とか言って。まあ、確かに。
翼は、正直、ちょっと面倒な人間だと思う。多数派の感性の持ち主だからか、自分の感覚にあまり疑問を持っていない。ステレオタイプなパターンを何も言わずに期待している。
映画もそう。最初は私が一人で見ていたけど、なんだか気にしているようなので、一緒に見る? と訊ねたら、嬉しそうに頷かれた。
翼が普段読んでいる本や漫画の傾向から、最初は恋愛ものを選んだ。流行りのものは私が興味を持てなかったから、少し古いヒューマンドラマ寄りのやつを。
妹夫婦が事故で亡くなって姪を引き取ることになったヒロイン。何事にもかたくなだった彼女が、姪との暮らしと同僚のイタリア人シェフとの関わりで、少しずつ変わっていく。
私は面白いと思った。ただ、恋愛ものの気だったけど、あんまり恋愛部分なかったな、申し訳ない。そう思って翼の方を見ると、にこにこしていた。
「面白かった!」
「そう? それならよかったけど」
「でも次回からは、俺に合わせなくていいよ」
「え」
バレてた。
「俺、はっきりした好みが特にないから、流行りものを選んでるだけで、純粋に美羽の好きなものを紹介してもらえたら嬉しい」
次に一緒に見たのは、病気で死を間近にした男性二人が、車を盗んで海に行こうとする話。バディもの。偶然出会った二人が「海を見に行く」という目的のためだけに少しずつなかよくなっていく様子もよかったし、ギャングに追いかけられたり、銀行強盗をしたり、どたばたしているのに、最後はしんみり感動的で。
翼が二度目の涙を流した日に、私が見ていた映画だ。これは私達のお気に入りの一本になって、それから何度も見ている。
生きるためにお金が必要だから働く。私にとって労働はそういう認識。「やりがい」とか「自己実現」とかを仕事に求めることは、おそらく一生ないと思う。
最低限の労力で済ませよう。そう思って就職活動に臨んでいたけれど、最初はお祈りだらけだった。
翼は最低限しかかまわないと、拗ねて、面倒なことになる。逆に一手間かけると必ず気づいてくれて、すごくごきげんになるし、何倍にもして返してくれようとする。ああ、最低限と思っていたラインに一手間かけた方が、却って面倒じゃない。
翼を相手にする時の要領で、就職活動に臨み直したら、内定が出た。
これはなんとなく、人生の縮図のように思えた。
気遣いすぎると、あたりまえのように消費され、つけ上がられる。
それは半分正しくて、半分誤りだ。
確かにつけ上がる人間はいる。でも、みんながみんな、そうなる訳じゃない。つけ上がった人間を相手にしなければいいだけの話。
「このスイートポテト、おいしい。なめらかで」
「裏ごし何度もしたし」
おいしくなるように、一手間掛けてくれている。翼はそれをあたりまえだと思っている。
「俺の分も食べていいよ」
「いいの?」
「うん。作ってると、それだけで腹一杯になるし」
私の分のビールを飲んだ人間の台詞とは思えない。でも、今は、こっちの方が翼らしいなと感じる。
「美羽、本当に旨そうに食うね」
「うん。おいしい」
「欠片。ついてる」
「どこ?」
翼は一瞬自身の唇の端を指したけど、そのまま顔を近づけて、私の唇の端を舌で舐めてきた。そのまま唇を奪われ、咥内を舌で探られ、唾液を軽く啜られる。
「ほんとだ。旨い」
翼を誘って映画を見ている。家で。
家で見る映画のいいところは、のんびりできることと、好きなものを食べながら見られること、そして途中で感想を言えることだ。後半二つは翼がいるから成立している。
映画を見る時、翼は甘いものを作ってくれることが多い。最初に作ってくれたのは、キャラメル味のポップコーンだった。「映画といったらこれだろ」とか言って。家でこんなものを作れるとは思っていなかったし、ポップコーンは塩味だと思っていたので、新鮮な気持ちで食べた。おいしかった。
今日はスイートポテト。「食べやすいし秋らしいだろ」とか言って。まあ、確かに。
翼は、正直、ちょっと面倒な人間だと思う。多数派の感性の持ち主だからか、自分の感覚にあまり疑問を持っていない。ステレオタイプなパターンを何も言わずに期待している。
映画もそう。最初は私が一人で見ていたけど、なんだか気にしているようなので、一緒に見る? と訊ねたら、嬉しそうに頷かれた。
翼が普段読んでいる本や漫画の傾向から、最初は恋愛ものを選んだ。流行りのものは私が興味を持てなかったから、少し古いヒューマンドラマ寄りのやつを。
妹夫婦が事故で亡くなって姪を引き取ることになったヒロイン。何事にもかたくなだった彼女が、姪との暮らしと同僚のイタリア人シェフとの関わりで、少しずつ変わっていく。
私は面白いと思った。ただ、恋愛ものの気だったけど、あんまり恋愛部分なかったな、申し訳ない。そう思って翼の方を見ると、にこにこしていた。
「面白かった!」
「そう? それならよかったけど」
「でも次回からは、俺に合わせなくていいよ」
「え」
バレてた。
「俺、はっきりした好みが特にないから、流行りものを選んでるだけで、純粋に美羽の好きなものを紹介してもらえたら嬉しい」
次に一緒に見たのは、病気で死を間近にした男性二人が、車を盗んで海に行こうとする話。バディもの。偶然出会った二人が「海を見に行く」という目的のためだけに少しずつなかよくなっていく様子もよかったし、ギャングに追いかけられたり、銀行強盗をしたり、どたばたしているのに、最後はしんみり感動的で。
翼が二度目の涙を流した日に、私が見ていた映画だ。これは私達のお気に入りの一本になって、それから何度も見ている。
生きるためにお金が必要だから働く。私にとって労働はそういう認識。「やりがい」とか「自己実現」とかを仕事に求めることは、おそらく一生ないと思う。
最低限の労力で済ませよう。そう思って就職活動に臨んでいたけれど、最初はお祈りだらけだった。
翼は最低限しかかまわないと、拗ねて、面倒なことになる。逆に一手間かけると必ず気づいてくれて、すごくごきげんになるし、何倍にもして返してくれようとする。ああ、最低限と思っていたラインに一手間かけた方が、却って面倒じゃない。
翼を相手にする時の要領で、就職活動に臨み直したら、内定が出た。
これはなんとなく、人生の縮図のように思えた。
気遣いすぎると、あたりまえのように消費され、つけ上がられる。
それは半分正しくて、半分誤りだ。
確かにつけ上がる人間はいる。でも、みんながみんな、そうなる訳じゃない。つけ上がった人間を相手にしなければいいだけの話。
「このスイートポテト、おいしい。なめらかで」
「裏ごし何度もしたし」
おいしくなるように、一手間掛けてくれている。翼はそれをあたりまえだと思っている。
「俺の分も食べていいよ」
「いいの?」
「うん。作ってると、それだけで腹一杯になるし」
私の分のビールを飲んだ人間の台詞とは思えない。でも、今は、こっちの方が翼らしいなと感じる。
「美羽、本当に旨そうに食うね」
「うん。おいしい」
「欠片。ついてる」
「どこ?」
翼は一瞬自身の唇の端を指したけど、そのまま顔を近づけて、私の唇の端を舌で舐めてきた。そのまま唇を奪われ、咥内を舌で探られ、唾液を軽く啜られる。
「ほんとだ。旨い」
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