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ソマリの朝
02
しおりを挟むまあいい。取り敢えず今からは自分を心配しなければ。肩越しにひらりと手を振った葵に「昼にお迎えに上がります」と若干消沈した中窪の声が飛んでくる。エントランスに入るまで見送って、車と共に運転手は消える。コンシェルジュの挨拶に目礼で返し、葵は高層階用のエレベーターに乗り込んだ。また欠伸が出る。
ようやく明るくなってきた街を見おろしながらゆったりと歩き、ファーコートのポケットから手を出して玄関のドアを開ける。中から賑やかな話し声がし、足元に見慣れないスニーカーがあっておやと眉を上げた。どうやらこんな早朝から客人のようだ。
「――あ、陣兄! おかえりなさい!」
「嵐世さん……」
「お疲れ様です!」
葵の胸あたりまでしか上背のない制服姿の少年がパタパタと奥から出迎えに駆けてくる。追って上峰も現れる。登校前のわずかな時間にも顔出すほど気に入られてんのかよ。いつの間にというか、選りに選ってという思いのほうが強かった。周囲の大半にはまだ理解を得られてないのにピンポイントで組長の一人息子を味方につけるとは。
しかもまだ中学生だ。情人などと爛れた概念を覚えさせようものならエンコさせられるので、葵との関係性はお友達という便利なオブラートでくるんでいる。
「億斗くん待ってるよ」
「そうすか……どうもすみません、うちのがお手を煩わせて」
「ううん、話してると楽しい!」
そうは言っても青年と少年。初めは一体どんな共通項があるのかと訝っていたが、どうも億斗は昔から子どもに好かれやすく弟がいるのもあって慣れているらしい。流行りのアニメやゲーム、芸能人にも子どもについていける程度に知識がある。嵐世はもとより葵に懐いて出入りしていたため、こうなるのに時間はかからなかった。
何せあれなので逆に寄りつかなくなるのでは、という懸念は懸念のまま終わった。この『待ってるよ』の言葉をストレートに受け取れていたのもほんの数日のことだ。とんでもないのは身体だけじゃなかった。懇ろになったあとでプロフィールを知る羽目になったのも、状況が状況なので致し方なかったと言えばそうだ。
一番厄介なのはそれを理由に手放そうという気にさらさらなれないことかもしれない。
「くっ……!」
リビングへ続くドアを開け放った途端、いい上段蹴りが飛んできて受け止めた左腕がみしっと鳴った。入ってきたのが客人だったらどうすんだと青褪めたが事前に何かしら打ち合わせがあったのかもしれないと思い直す。出迎えはそのためだった。チッと舌打ちは信じ難いことにふたつ重なる。無論もうひとつは対峙している相手のものだ。
「朝帰りかよ色男……」
「この野郎……、好きで遅くなったんじゃ、ねえッ」
今度は正拳突きの要領で飛んできた手にダガーが握られているのを見て、葵は避けながらコートを脱ぎ落とす。上峰が素早く回収する。レザーパンツは多少動きづらいが問題にするほどではなかった。どちらにせよ着替える暇は与えてもらえそうにないのでこれでいく。
億斗はギンと眼つきを鋭くすると武装した右手をブンと大きく振った。これも躱して陽動と見抜き、どてっ腹めがけて飛んできていた足を手で受ける。押しきってそのまま踏みつけられそうになったが跳ね返す葵の力のほうが勝って離れられた。この隙に下がって間合いをキープする。
片足立ちになってよろけていたが倒れることなくしなやかな身体は自力で均衡を取り戻した。ふ、と短く息を吐いて構えを取り直す。
「余所にあてがあんなら俺は帰せよ」
パキ、ペキ、と指を鳴らす億斗はにこりともしていない。今日はまた一段とお怒りのようだった。葵は苦笑し「いやだね」と返す。
これが彼の本性だ。チョロくて非力なオニーチャンはよくできた擬態に過ぎなかった。中学にあがるまで空手をしていたので多少武術の心得があり、ちょっとやそっとじゃ不覚を取らない。捕まえられた時は薬を嗅がされた所為で実力を発揮できなかったようだ。加えて容姿ゆえに変質者にも目を付けられやすく自ら撃退もしてきた。余程そこの自負を覆されたのが悔しかったらしく、囲った直後に下平と上峰は、多分に油断があったとはいえ億斗にボコ殴りにされている。
兄貴分の情人を分け与えてもらえるどころかろくにさわらせてももらえず激しく抵抗に遭う。過剰防衛のリンチだ。バチバチの筋者がふたりがかりでも失敗したらしい。御蔭でと言うのもなんだが、許可は出しているけれど現状億斗に触れているのは葵だけ。誰にでも好きにされるなんて杞憂もいいところだった。
(イヤでも)
何発かやったあとはその限りじゃないか。快楽に滅法弱く、ふにゃふにゃでされるがままのしどけない姿を想像したのがばれたみたいに低く蹴りを繰りだされて、見事脛を直撃したので泣くかと思った。うずくまったところへ無防備な背面を狙ってかぶさってきた相手の腕を正確に捉え、ぐうっと握り込みたい衝動を根性で堪えて解放する。
億斗は葵に傷をつけても、その逆は絶対にない。一生飼い殺しにされるつもりなどミリもない億斗は体型を保つためここにいる間も以前とおなじ生活を維持できるよう要求してきたし葵もそれに否やは無かった。欲しいと言われたものは何でも買い与えている。監禁生活にしては相当優雅だろう。肌に触れるものもくちに入れるものも気を遣いまくっている。
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