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ソマリの朝
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しおりを挟むこのダガーはなんでこいつの手元にあるんだったかな。たしか、身体が鈍ると訴えられた時にたまたま手入れがあって、事務所から持ち帰っていた武器を勝手に物色したとか聞いたか。最初はいうて素手だろとナメていたのだが、それ以来本気で殺そうとしてくるので、いい鍛錬になっていた。
もう帰さないと告げた時の顔は忘れない。最大級の絶望に打ちのめされたかと思いきや、次の瞬間には早くも瞳の奥に獰猛な炎を灯していた。関係を持ったという甘さなどなかったように忘れ、こうして訪れるたび葵の命を狙うようになったし定期的に住み替えないとすぐ脱走を図る。億斗が来る前はものぐさをして事務所に泊まり込んだり舎弟のところに入り浸ったりしていたけれど、今や彼が気掛かりで特別なことがなければほぼまっすぐ帰宅する有り様だ。
「陣兄すっげえ」
そう言ってくれるのは嬉しいが、こちらは丸腰なうえに反撃を封じている。億斗が疲れるか諦めるのを待つしかないのでどこからどう見ても不利だった。裸の手足が傷まないよう注意も払わなければならない。なんせ彼が身に着けているのは朱い首輪と、オーバーサイズの白いドレスシャツ一枚きりなのだ。
足繁く通われるとよろしくないのはそれもある。億斗は知ったことかと自然体に過ごす。最初は脱走しづらさを考えて全裸にしていたがどちらも青少年の教育上アウトだ。嵐世が来る時だけでも服を着せるかと考えたが、或いは自分からそうするかとも思っていたのだが今いくらかやり合ってそうじゃないのは肉眼で確認してしまった。ばっちり穿いてない。
そもそも全裸でも億斗は頓着せず逃げ出そうとしている。なるほどそのほうが逆にひと目でも誰かに見られたら即犯罪と気づいてもらえるか。職業柄他人に肌を見られる機会がすくなくなかった所為か、自信もあるからか裸をあまり非日常と感じないのもあるようだ。
「どこが、すげえんだよ、こんな奴っ」
飛んでくる刃は力が乗って厳しいが動きに無駄が多い。振ることで威力を増そうとしているのだろう。単調なので避けるのは容易い。感情的になっているぶん先も読める。億斗は目に見えてイライラしていた。ボタンをゆるめた胸元にあかく引っ掻いた痕がちらつく。彼にそんなものを残せるのは葵か、本人しかいない。
待遇の良さと最低限の尊厳を約束し、話し合いの末ここにとどめている。毎度のこの格闘はもうレクリエーションのひとつにしても、何がそんなに苛立つのだろう。
「わあっ」
「――え、」
遠心力任せの動きから直線的な突きの仕種で向かってきたダガーがずぐっと葵の胴を貫いた。ように見えたのだろう、嵐世が声を上げ億斗も目を見開く。しかし刀身を脇に挟んだだけで怪我はなかった。手応えが返ったら反射的に得物を手放してしまうあたりは素人だ。そんなつもりじゃなかったとありありわかる。
そんなつもりだけの攻撃しか受けてこなかった葵にはぬるすぎて、思わずふっと笑ってしまった。あっさり奪い取れた武器を上峰に放り投げ、突き出されていた億斗の右手を掴んでダンスみたいに身体をまわすと、背面でごく優しく捻りつつラグの上に伏せさせた。念のため馬乗りになって封じ込める。
「……っ」
「クソ、放せ!」
往生際悪く脚をばたつかせているので魅惑的な尻が見えてしまったらしい。嵐世が真っ赤になったのを視界の端で捉えていた葵は、舎弟に命じて客人を送らせることにした。もとよりこの大仕事も億斗をおとなしくさせたらそこでお終いだ。
「そろそろ時間ですよ嵐世さん」
「……あ、う、うんっ」
「行きましょう」
「お前も昼まで自由にしとけ」
「ハイッ」
若様をここまで連れてきた者が待っているだろう。引き渡したら戻ってくるな、という言葉の意味を正確に把握して上峰も若干赤面すると嵐世を促して玄関へ向かう。「億斗くんまたね」の挨拶には、本人は応えなかった。むすっとふくれっ面をして毛足の長い敷物に顔を押しつけている。
今日もどうにか捩じ伏せられてよかった。髪をさくっと切られたことはあったが未だ血を流すような反撃は食らってない。凶器を挟んだ場所を確かめたが服も無事だった。突きの動作だけあって今までの攻撃よりキレがあったので危なかった。ふーっと長く息を伸ばす。煙草が喫みたい。
(あー、眠い……)
昼と発音したらドッと疲れに襲われた。しかしこのまま従順に抱き枕になっているとは思えない。情人なのに寛がせてもくれない。マウントを取られてなお億斗はじたばたともがいて今にも脱け出そうとしている。背後に手を這わせて、極上の尻を揉むとそれでもいくらかは気が安らかになった。すくなくとも葵はめちゃくちゃ癒される。
「えらくご機嫌ナナメじゃねえか。何かされたか」
「あんたが言うか」
「……ほーん」
原因は葵にあるらしい。ならば取り敢えず、腕をまとめた姿勢で立ち上がらせて寝室へ連れていく。大柄な男がふたりで寝ても狭くない広いベッドに横たえる。肌の淡さが際立つのでリネンはすべて黒に変えた。裾は太腿を半ばまで覆う泳ぐようなゆったりとしたシャツの白も、モノトーンの中で首の朱だけが異質だった。やたらと目を惹く。
快楽漬けにする夢はいつか叶う日が来るのだろうか。この調子では、いつかやわらかい檻を破って逃げそうで、結構な頻度で家の中を歩ける程度の長さの鎖を購入しようか悩んでいる。日に日に凶暴になるのくらい可愛いものだった。出ては行かないと約束するなら、閉じ込められてストレスが溜まるのだろうし血の気の多いのはたくさんいる。
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