寿命が来るまでお元気で

ゆれ

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 求められているのは精気だけだ。来良と交わることで朱炎は力を高められる。体液を啜るのもそのため。そこに人間くさい感情は存在しない。何故なら人間ではないから。

「来良」
「……ん」
 まだなかにいる朱炎が、敏感になっている壁をゆるりとこすって出たり入ったりする。遊びのように水音を響かせている。

「呼べ」

 森がざわめいている。すこし落ち着くと、どこか覚えのある色と匂いを感じて来良は目を凝らした。

「なあ、来良」
「ぁ……っん、朱炎」
「もっと」
「あ、び、……ン、あびッ」
「もっと……」

 子どもみたいにあまえたになった朱炎にずっと名前を呼んでやりながら、来良は、この森が二年前ふたりが顔を合わせる切っ掛けになったあの森だと確信してごくりと息を呑んだ。散策の目的をようやく知った気分だった。
 まえに見つけたいい沢が、次に行くとなくなっていたというのはあたりまえの話で、地上の森という森は絶えず動いている。偶然またここへ来たのか、それとも朱炎は最初から来良をここへ連れてきていたのか、わからないが何の魂胆もないわけではやはりないらしい。散々腹を暴かれた挙句、因縁のこの場所で、八つ裂きにでもされるかなと思ってそっと青い息を吐く。

(まあ無理もないか)

 俺だけの命で済むならむしろ上々だ。何故今日まで生かされていたかのほうがずっと謎だった。自分が殺しかけていた人間を拾って手元に置く気持ちは来良にはわからない。対峙したあの時、あんなにも苛烈な怒りと憎悪でいっぱいだった朱炎の双眸は、もう別人か幻だったと思ってしまいそうなほどお目にかかってなかった。
 ずるーっと抜き出されたものがことさら時間をかけ、内側を抉るように割り入ってきて来良は悩ましく喘いだ。長着の下で肌がさあっと粟立っていく。地面について支えているほうの足が限界で、朱炎に合図を送るとひょいと抱え上げられてしまい一気に根元まで咥えこまされた。

「ああっばか、よせ、……っく、」
「来良」
「は、……ア、……んん、ふ」

 ちゅう、とえらく可愛らしい音を立てて唇に吸い付かれる。近寄ってきたので手を持ち上げて髪を撫でてやると朱炎は眩しそうな眼をして来良の掌に自分からすり寄った。体を撫でられたり、名前を呼ばれるのが好きなのは、彼がまだ無害でちいさなけものだった頃の名残なのだろう。憧れがあったのかもしれない。
 担がれて宙ぶらりんになった来良の足から草履が片方脱げて落ちる。いっぱいまで捩じ込まれたまま揺すられるとなかで動くのがわかって気恥ずかしくなる。朱炎の白い手が来良の襟をくぐってつんと尖った乳首を捉えた。きゅうっと強く捻られびくっと身体が跳ねる。爪で優しく掻かれるとぴりぴり疼いた。連動してなかがうねり朱炎を締めつける。

 何をしているのか杳として知れないが朱炎は薄暮の時間からふらりと出掛け、朝になると外の匂いをさせて来良の床にもぐり込んでいる。目を覚ますと来良を抱き、気が向けば同居人とお喋りなどしているが、基本的に人間のような食事はする必要がないらしく煙管を咥えているくらいだ。まれに酒を飲んでいることもあるので手製の毒薬を仕込んでみたが、人の毒はあやかしには効果がなかったうえに手酷く仕置きされてしまったため二度試す勇気は出なかった。人形ひとがたを取っている時は効くかと一縷の望みをいだいたのだ。

 寛大なのか何なのかそれで命を取られるということもなく、逆に来良が暮らしに飽いてきているのを悟ってか、それ以降いろいろ土産を持ち帰ったり今日のように外へ連れ出したりされるようになった。数日に一度はこうして日がな一日交歓し、いっぱいまで妖気が満ちるとまた屋敷から出ていく。特に何をせよと言い渡されているでもない来良は本当に朱炎の言うように暇を持て余して、これなら本来のお役目を果たしたいのだが朱炎はただひとつ、屋敷を出ることだけは厳しく禁じているため籠の鳥でいるしかなかった。

 弟達のもとを離れてからずっとそんな生活をしている。どのくらい時間が経ったのか曖昧で、ひょっとするともう誕生日を過ぎているのではないかとぼんやり思う。それなのに身体はすこぶる調子がいい。どれだけ長いこと耽っていても必ず回復するし傷の治りも滅法早い。熱も吐血もなく、顔色も特に悪くないとくればわけがわからない。あれだけ痩せ細っていたのが最もいい時とおなじまでに戻っている。

 そこだけ注目すれば幸運のように思われるが、来良は言わばかどわかしに遭ったのだ。
 或いは神隠しに。

「来良」
「はぁ、朱炎……っ」

 状況を把握したい。事態を打開せねばと思うのに、殆ど快楽漬けにされて頭がちっとも働かない。ひたひたに濡れて、とけて、もういいと言っても溢れるまで注がれる。永いこと家族以外の触れ合いを知らなかった、生まれつき知る必要さえなかった来良にはこれが致死毒のように覿面に効いて、きっと誰の目にも恥知らずに溺れているのだろうと自分でも思っている。
 この上はこんな堕落した姿を人に見られるまえに、ひと思いに殺して欲しかった。どうせもうあと幾許も無い命だった。



     ゜+*。.*。‥+゜

 
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