寿命が来るまでお元気で

ゆれ

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 餌を横取りされないための仕組みだと朱炎は言っていた。冬青は、来良の精気の匂いもわかれば姿も見えているようなのでやはり上級のあやかしなのだろうと知れる。同胞はまずくて喰えないし動物達の精気では量が足りない。となると人間を、それも上質のものを見つけなければならないのでここにいる時はいつも朱炎に愚痴っている。
 いけないと禁じられると却って気を惹かれる天邪鬼はあやかしでもおなじらしい。折に触れ来良に手を伸ばしては、パリッと結界に撥ね付けられてニヤニヤしている。

「そうだ」
 引き寄せた煙草盆に煙管を打ち付けて朱炎がわざとらしく言う。ちらりと一瞥投げてきたので、来良はいやな予感がして眉を寄せた。

「こいつ、弟がいるらしいぜ」
「!」
「本当か」
「ああ、そいつらも上玉らしい」
「えっなんで、」
「そういうことはもっと早く教えろ色ボケ野郎」

 すわ、とばかりに冬青が屋敷を飛び出し社をあとにする。

「――待ってくれ、それだけは!」

 追い縋ろうとする来良を朱炎は羽交い絞めにして引き倒した。振りほどこうにも凄い力で、ただの人間とおなじくらい無力になってしまった来良には太刀打ちできない。苦しい息を吐くと、やっとすこし腕をゆるめてくれた。
 膝枕を勝手にやめたことも面白くなかったらしい。襟を乱すと無遠慮に手を突っ込んで、見つけだした乳首をくにくに弄ってくる。痛むほど指と指で潰されて来良は声を呑んだ。

「っもうよせ」
「追ったところでてめえにゃどうもできねぇよ」

 そうかもしれないが、だからと言って平静でいられるわけもない。朱炎の腕を振り払うと今度はあっさり離れた。重い足を引きずるように歩いて濡れ縁へ出る。周囲は石庭がぐるりを巡り竹林で目隠しされて、訪ねる者など誰もいない。ごくたまに雨宿りする人間がいるが賽銭を投げれば通り過ぎていく。裏の屋敷はかなり広いが、表向きはごくちいさな社らしい。
 日々成長する幸良と新良の力量を正しくはかったわけではない。しかしこの白い妖狐が、それほど自分より劣る者を傍らに置いているとも思えない。心配で顔を覆っているとどこからか数羽の雀が飛んできた。慰めようとでもしているのかチュルチュルと愛らしい声を聞かせてくれる。

 来良はちいさく歌ってもっとたくさん雀を寄せた。力がなくともそれくらいはできる、弟達の様子を見てきてほしいと頼む。五六八を置いてきてしまったから、恐らくさがされているだろうと思う。できればこの森が戻ってきていることを突き止めないでほしかった。二年前とおなじ場所だと幸良と新良もわかるだろう。わかればきっと足を踏み入れる。朱炎に見つかってしまう。

「それだけは……」

 歌に惹かれてだろうか、まだあやかしになれない若い狐までひょこりと顔を覗かせる。つい白い歯がこぼれてしまうような可愛らしい姿だ。おなじ顔をした子どもまで二匹連れていて、さわるのは匂いが移ってかわいそうなのでそっと見つめる。
 この男が化け物になるまえも、こんな感じだったのだろうかと思う。母と妹と身を寄せ合い束の間の家族生活を送っていた。父親に対する情がうすいのは子育てに参加しない種が多いからなのかもしれない。偉大な先代であった父を心から尊敬している来良のことを、朱炎は気に入らないようだった。

(何だろう)

 門番は他者と交わると力を失うと言われている。跡取りを生す時も身体を交わらせないと聞いていた。だから来良にはもう法力も斥力も使えない。すべて力をなくした筈なのに、何かが胎内で息づいている感覚がある。初めてのことなので自信はないが、何か変だと訝る。

「……なあ」
 来良は濡れ縁にしゃがみ込んだまま、背後の男に尋ねる。

「あやかしって男でも孕ますことができるのか?」
「は?」

 そんなことは聞いたことがなかったので訊いただけだった。生来特別な力を持った動物が長く生きてあやかしになる。もはや生物としての輪廻からは外れているため、あやかしに繁殖力はないしその機能もない。性別すら然程意味を持たなかった。朱炎も交合する時は必ず人形ひとがた変化へんげしている。ちゃんとぬくみも感じるし反応としても人間のそれなのには最初甚く驚いた。ここまで似せられればそう簡単には見破れないだろう。
 何をしたわけでもないのに、ときどきここが熱くてたまらない。うつむいて腹に手をあてていた来良はふっと影がかかるのを感じて顔を上げた。肩を掴まれ、勢いよく背後に押し倒されて強かに身体を打ちつけた。呼吸が刹那止まった気さえする。

「っオイ、てめ」
「どこでンな誘い方覚えた?」
「はあ? 誘ってなんか、……わああ何してんだやめろバカ!!!」

 膝裏に手を入れられぐっと押し込まれると局部が全開になった。幾らふたりきりでもこれはない。恥ずかしさに胸元まで真っ赤にした来良に圧し掛かると、朱炎は既に復活を遂げ、さらに凶悪さを増したような自身をゆっくりと食い込ませてくる。すこし裾を割れば全部脱がさなくても事足りるのはまったく便利がよかった。

「あ、ああ、んんんん……っ」
 さっきまでしていたとはいえいきなり深くまで挿れられて身体がびっくりしている。ずるずると壁が顫動して咥えた朱炎をしゃぶっているようで、浅ましさに憤死しそうだった。腕で顔を覆うが邪魔だとばかりにどけられ、来良は狼藉者をキッと睨む。
 
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