寿命が来るまでお元気で

ゆれ

文字の大きさ
31 / 57

31

しおりを挟む
 
「契約を結ぶとね、お互いの力を高め合う代償に離れられなくなるんだよ」

 人間のほうは精気を奪われる一方かと思っていたが、黄麻曰くそうではないらしい。傷を負っても治りが早かったり来良のように病を克服したり、顕著な変化としては契約時の身体で成長も老化も止まる。来良にも多分に心当たりはあったのだが改めて聞かされると信じがたい。急に「だって綺麗になったもん来良」と言われたのには同意しかねるし渋面にもなる。男なのだからそんな筈はない。
 強大な力を得たこともそのひとつだろう。それはまあ、シンプルに感謝しているが他にやり方があったのならそうしてほしかった。閨の相手は相当疲れるし、精神面でズタズタにされる。きもちいくせにと言われるともう死にたくなった。

「来良」

 どんな表情をしていたのだろうか。黄麻がにっこりと猫らしい笑顔になって言葉を継ぐ。

「あいつは帰ってくるよ」
「え?」
「心配しなくても絶対また会うことになるから。むしろ覚悟しなよ」
「……どういう意味だ?」

 励ましではなく揺るぎない確信に裏打ちされている気がして、来良は黄麻をじっと見た。それはそれはじーっと見つめ続けた。

「ちょ、顔で圧かけないでよぉ」
「俺にも言わせたんだから黄麻も言えよ。何か隠してねぇ?」
「もー美人なのに横暴!」

 ぶうぶう文句をしながらも、黄麻は自分も居待月と半身の契約を結んでいると教えてくれる。まるでそんな素振りがなかったので来良はびっくりした。こんなに女の子が好きでたった今もそんな話をしたばかりなのに。しかしふたりとも黄麻の寿命まで生き、恐らく黄麻のほうが朱炎より年上だという。その言葉を信じるならば今度は自分がこのあやかしを見送る側になったかもしれないのだ。来良の想像力はもう限界で、首をかしげる。
 狐の尾の数はそのまま強さを表していて、年月を重ねることで増す。朱炎はあれで最高位の九尾だったのだが、それより上となると黄麻はこう見えて相当のご長寿らしい。否だからこそ幼い容姿にこだわっているのかもしれない。居待月の年齢にはさらに驚かされた。改めて不自然というか、不思議な現象なのだと思い知る。

 まだ黄麻が人を恨むあやかしだった頃、来良達の父である先代門番につけられた傷がかなりの深手で、追いつめられて、契約して回復しなければ消滅していたらしい。そんなに強かったんだな、と実の息子でも知らない話を聞くことができて嬉しい。まだ来良の生まれるまえだ。それまではどんなに永く生きていようとつがいなど持つつもりは一切なかったので、「運命って不思議だね」と遠い目をして黄麻は言う。

 先代の話を聞くと思うがやはり子どもを持つと力は幾らか衰えるものなのかもしれない。しかし何があるかわからない身で、後世のためにも適齢期になれば一日でも早く跡継ぎを作らなければならない事情も理解できる。来良は実際に死にかけたので必要性が痛いほどよくわかった。
 18を過ぎたあたりから分家の人達が縁談を世話しようとこの屋敷にもよく訪れていたが、体調を崩してからはまったく姿を見なくなったのは見限られたのだろう。それに弟達はまだ年齢が達していない。あからさまな態度は呆れたものだったがこうなった以上、来良もそちらへ協力しなければならない。

 その気配を感じたのはほんの一瞬だった。

「――!」

 目のまえに下駄履きの素足、濃紺のひとえを身に着けた白い少年が立っている。

「えっ……」
「うわあああああ!!!」

 家の中から凄まじい悲鳴が聞こえてきたが少年に抱きつかれて身動きが取れない。代わりに様子を見にいった黄麻が「はあ?!」とキレ気味に叫ぶ声までして、余計混乱しただけだったが来良もすぐにそれどころではなくなる。少年の輪郭が揺らぎだしたからだ。
 結界はまじない程度のごくかるいものとはいえ易々破って入ってきたらしい。見慣れた青年体の朱炎が来良の肩を押して背後に倒すと覆いかぶさるようにくちでくちを塞いできた。

「んっ、ふ、ンむ……ぁめろ、」

 喋らせないまま合わせをはだけて忍び込んできた手が胸を撫で、裾を割られて腰を押し付けられる。それどころか脚を持ち上げて挿れてこようとしているのがわかって来良はさすがに朱炎を頭の向こうへ投げ飛ばした。

「ちょっと待てぇい!!」

 急いで浴衣を整え、あがって見ると寝ていた筈の新良が冬青そよごにまとわりつかれていて、幸良が激怒し五六八をかまえていた。

「……ってえなァ」
「オイ……どういうことだ」
「奴も婚活してぇんだと。邪魔してやるなや」
「婚……っつかなんでうちの弟なんだよ。やめろ。よそ行け」
「そりゃあいつの好みだわ。俺様がくち出す問題でもねえ」
「ぐっ……」

 あやかしのくせにこんな時だけまっとうな言い分を返してくるのが腹立たしい。
 というか、本当に来た。

「俺を呼んだだろ」

 ここにいる。

「来良」

 手を伸べられて、引き寄せられるみたいに近づいていく。壁を背に畳に脚を伸ばす男の膝のあわいに座り込むと来良は恐る恐る白い袷の肩に触れる。感触がある。来良よりはやや低いが体温も、ちゃんと、幻ではない。くすぐったいというように笑って朱炎がすうっと目を細める。来良の腰に手を添え、自分の身体に押しつけるように抱き寄せる。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...