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第一章 スパイダー
28.
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梅雨が明け、暑さが日ましに厳しくなる中、すべての期末試験が終わった。
僕の脅しが効いたのか、いつも憂鬱そうだった笑香は以前の笑香にもどっていた。タフで明るい笑香の振る舞いに、一時は不審を感じ取っていた大西や笑香のおばさんもどうやら安心したらしい。
あくまで外面の良い僕と陽気にふるまう笑香の姿は、表面上は仲の良い二人を演じきっていた。ただ、どこか物言いたげな新保の視線が気になったが、特に何かがあるわけでもなく、僕は次第に慣れてしまってそれを気にしなくなっていた。
試験の結果が発表されて、僕は何とか首位を守りきった。周囲の羨望のまなざしや教師の賞賛を受けながら、内心僕はほっとしていた。最近毎夜と言っていいほど後味の悪い夢に悩まされ、少し寝不足が続いていたのだ。
だが一方で笑香の結果は惨憺たるものだったらしい。
中間の際は(数学をのぞけば)学年の中でも上位にいたのに、今回の結果は担任でさえ眉をしかめるものだったようだ。大西がもらした話によると、笑香は成績の急落について二者面談を行うとのことだった。
原因を作った人間としては多少気になるところだったが、いくら僕が教えると言っても笑香は聞き入れはしないだろう。そう、僕は安易にかまえていたのだが。
*
「史郎君。ちょっと話があるんだけど」
いつものように夕食の後、僕が家にもどろうとすると、そっと笑香のおばさんが僕を手招いて別室に呼んだ。
笑香は勇人に連れられて、携帯ゲームにつき合うためにリビングへ姿を消している。玄関をはさんだ和室に入ると、おばさんは笑香の成績表を出して見せた。
「こんな感じであの子、どうも授業についていけてないらしいの。悪いんだけど、夏休みの間だけでもあの子に勉強を教えてくれない?」
僕はまばたきをくり返した。
ひょうたんから駒とはこのことだ。
はじめ、僕は自分から勇人の家庭教師を買って出た。ついでに笑香が僕の家に出入りすることを期待していたのだが、当の勇人にやる気がなくてその計画は頓挫していた。それがこんな楽な流れで実現することになるとは。
僕が喜んで依頼を受けると、明らかにほっとした顔でおばさんは言った。
「よかった。これで二学期は少しでも成績がもどるといいんだけど。どうしちゃったのかしらね。中間の時はそんなに成績が悪くなかったのに……」
頬に手を当てておばさんがつぶやく。僕はさりげなく笑って答えた。
「環境が変わってとまどっていたようですし、夏休みに入れば少しは落ち着くんじゃないかな。僕も一学期の復習ができるからちょうどいいですよ」
これで笑香が今以上に僕の家に来る口実ができた。後はそれをどううまく使うかだ。
「そうね。なんだか最近、元気がないみたいだったから。でも史郎君がついてれば一安心ね」
おばさんは安堵の表情であらためて僕に礼をのべた。
僕は愛想良く答え、その日はそのまま家に帰った。
僕の脅しが効いたのか、いつも憂鬱そうだった笑香は以前の笑香にもどっていた。タフで明るい笑香の振る舞いに、一時は不審を感じ取っていた大西や笑香のおばさんもどうやら安心したらしい。
あくまで外面の良い僕と陽気にふるまう笑香の姿は、表面上は仲の良い二人を演じきっていた。ただ、どこか物言いたげな新保の視線が気になったが、特に何かがあるわけでもなく、僕は次第に慣れてしまってそれを気にしなくなっていた。
試験の結果が発表されて、僕は何とか首位を守りきった。周囲の羨望のまなざしや教師の賞賛を受けながら、内心僕はほっとしていた。最近毎夜と言っていいほど後味の悪い夢に悩まされ、少し寝不足が続いていたのだ。
だが一方で笑香の結果は惨憺たるものだったらしい。
中間の際は(数学をのぞけば)学年の中でも上位にいたのに、今回の結果は担任でさえ眉をしかめるものだったようだ。大西がもらした話によると、笑香は成績の急落について二者面談を行うとのことだった。
原因を作った人間としては多少気になるところだったが、いくら僕が教えると言っても笑香は聞き入れはしないだろう。そう、僕は安易にかまえていたのだが。
*
「史郎君。ちょっと話があるんだけど」
いつものように夕食の後、僕が家にもどろうとすると、そっと笑香のおばさんが僕を手招いて別室に呼んだ。
笑香は勇人に連れられて、携帯ゲームにつき合うためにリビングへ姿を消している。玄関をはさんだ和室に入ると、おばさんは笑香の成績表を出して見せた。
「こんな感じであの子、どうも授業についていけてないらしいの。悪いんだけど、夏休みの間だけでもあの子に勉強を教えてくれない?」
僕はまばたきをくり返した。
ひょうたんから駒とはこのことだ。
はじめ、僕は自分から勇人の家庭教師を買って出た。ついでに笑香が僕の家に出入りすることを期待していたのだが、当の勇人にやる気がなくてその計画は頓挫していた。それがこんな楽な流れで実現することになるとは。
僕が喜んで依頼を受けると、明らかにほっとした顔でおばさんは言った。
「よかった。これで二学期は少しでも成績がもどるといいんだけど。どうしちゃったのかしらね。中間の時はそんなに成績が悪くなかったのに……」
頬に手を当てておばさんがつぶやく。僕はさりげなく笑って答えた。
「環境が変わってとまどっていたようですし、夏休みに入れば少しは落ち着くんじゃないかな。僕も一学期の復習ができるからちょうどいいですよ」
これで笑香が今以上に僕の家に来る口実ができた。後はそれをどううまく使うかだ。
「そうね。なんだか最近、元気がないみたいだったから。でも史郎君がついてれば一安心ね」
おばさんは安堵の表情であらためて僕に礼をのべた。
僕は愛想良く答え、その日はそのまま家に帰った。
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