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第三章 夜の道で、僕を呼び出した君は。
6.
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「今まで何も知らなかった。あなたに何があったのか……何も知らないで、そばにいるあなたに甘えてた。──本当にごめんね、史郎君」
むせびながら言うその声に、僕はただ混乱するだけだった。
「なんで──」
なんで笑香が僕の腕の中にいるのだろう。
「私、史郎君のことが好きよ」
このうえ、まだ僕に関わろうとするのか。
「自分でも馬鹿だと思う。でも、やっぱり史郎君が好きなの」
僕はこれからどうすればいいのか。
「今度は私が考えるから。あなたと一緒に、私ができることを」
「──あ」
僕はこわばりきった舌を無理やり動かしてたずねた。
「僕……を」
僕の腕の中にいる笑香は、僕を見上げると涙でぐしゃぐしゃの笑顔を見せた。
「そう。あなたと一緒にいる。今度は私が、ずっとあなたのそばにいる」
これはきっとあの夢の続きだ。僕が悪夢を見た後で、必ず夢見る笑香の笑顔。再び悪夢に落ちる前、一瞬だけ見る幸せな夢。
首に回された笑香の腕。シャンプーのにおい。感じる重み。──気が狂いそうだ。
「君は……。自分で、何を言ってるかわかってんのか」
僕は大きくあえいで言った。
「僕が今まで、君に何をして来たかわかってるんだろう? なのに、そんな──」
笑香は涙にまみれた顔で、再び僕に微笑んで見せた。
「うん。いいの、それで。……私はあなたが好き。今ここにいる史郎君が好きなの」
涙に濡れた笑香の頬を、僕は震える指でさぐった。
本当なのか。
これは、本当に現実に起きたことなのか。
僕は笑香の華奢な体を力いっぱい抱きしめた。
「史郎君……」
甘く切ないささやきに、僕は思わずつぶやいた。
「うそだ。信じない」
「史郎君……!」
笑香が答える。
「嘘じゃない。私は史郎君が好き。本当よ」
「うそ……じゃない──」
思わず口から漏れた言葉に、笑香が苦しそうに笑った。
「ごめん、しろうくん、くるしい」
はっと気づいて、腕をゆるめる。伸ばされた笑香の手のひらが、そっと僕の頬に触れた。
「明日また話そう。今日はもう帰らないと。……明日十時に迎えに行くから、ちゃんと着替えて待っててね」
笑香の胸がするりと離れる。まだ肌に残る感触に、僕の体はあからさまに反応した。
「え……」
涙の残る双眸で笑香はくすりと笑って言った。
「そんなちっちゃい子みたいな顔しないで。絶対に明日また来るから」
再び胸に頭をよせて、そっとおでこを押しつける。
「今日は来てくれてありがとう」
名残を惜しむ間も与えずに笑香の髪の香りが消えた。僕は放心したままで、点滅する光に照らされた門が開くのを見送った。振り返り、手を振る笑香に反射的に右手を上げる。
「お休みなさい」
「──ああ」
遠くに聞こえる自分の声。笑顔を残して、笑香が消える。
その夜、僕は悪夢を見られなかった。
むせびながら言うその声に、僕はただ混乱するだけだった。
「なんで──」
なんで笑香が僕の腕の中にいるのだろう。
「私、史郎君のことが好きよ」
このうえ、まだ僕に関わろうとするのか。
「自分でも馬鹿だと思う。でも、やっぱり史郎君が好きなの」
僕はこれからどうすればいいのか。
「今度は私が考えるから。あなたと一緒に、私ができることを」
「──あ」
僕はこわばりきった舌を無理やり動かしてたずねた。
「僕……を」
僕の腕の中にいる笑香は、僕を見上げると涙でぐしゃぐしゃの笑顔を見せた。
「そう。あなたと一緒にいる。今度は私が、ずっとあなたのそばにいる」
これはきっとあの夢の続きだ。僕が悪夢を見た後で、必ず夢見る笑香の笑顔。再び悪夢に落ちる前、一瞬だけ見る幸せな夢。
首に回された笑香の腕。シャンプーのにおい。感じる重み。──気が狂いそうだ。
「君は……。自分で、何を言ってるかわかってんのか」
僕は大きくあえいで言った。
「僕が今まで、君に何をして来たかわかってるんだろう? なのに、そんな──」
笑香は涙にまみれた顔で、再び僕に微笑んで見せた。
「うん。いいの、それで。……私はあなたが好き。今ここにいる史郎君が好きなの」
涙に濡れた笑香の頬を、僕は震える指でさぐった。
本当なのか。
これは、本当に現実に起きたことなのか。
僕は笑香の華奢な体を力いっぱい抱きしめた。
「史郎君……」
甘く切ないささやきに、僕は思わずつぶやいた。
「うそだ。信じない」
「史郎君……!」
笑香が答える。
「嘘じゃない。私は史郎君が好き。本当よ」
「うそ……じゃない──」
思わず口から漏れた言葉に、笑香が苦しそうに笑った。
「ごめん、しろうくん、くるしい」
はっと気づいて、腕をゆるめる。伸ばされた笑香の手のひらが、そっと僕の頬に触れた。
「明日また話そう。今日はもう帰らないと。……明日十時に迎えに行くから、ちゃんと着替えて待っててね」
笑香の胸がするりと離れる。まだ肌に残る感触に、僕の体はあからさまに反応した。
「え……」
涙の残る双眸で笑香はくすりと笑って言った。
「そんなちっちゃい子みたいな顔しないで。絶対に明日また来るから」
再び胸に頭をよせて、そっとおでこを押しつける。
「今日は来てくれてありがとう」
名残を惜しむ間も与えずに笑香の髪の香りが消えた。僕は放心したままで、点滅する光に照らされた門が開くのを見送った。振り返り、手を振る笑香に反射的に右手を上げる。
「お休みなさい」
「──ああ」
遠くに聞こえる自分の声。笑顔を残して、笑香が消える。
その夜、僕は悪夢を見られなかった。
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