【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第一章 バレる前

10.

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──結局、あれは生理直前の欲求不満だったのか。

 どこか釈然としない思いにみのりは首をひねっていた。
 生理前でも生理の今でも、自身の感覚は変わらない。「もだえる」だとか「体がうずく」とか、熟女好きだった兄が見ていたDVDのあおりのような(進学のために家を出ている兄貴の部屋でたまたま見つけた。むしろロリコンだと思ってたのに)、そんなおかしな感じはなかった。

 ただ、今はやっぱり少し胸の奥底がさみしい気がする。体の欲求とかではなくて、深く好かれていた人間に急に去られてやるせない、といった複雑すぎる心境だ。

──やっぱり私はあいつのことが嫌いじゃなかったんだな。

 休み時間に教室の席で、みのりはぼんやり物思いにふけった。
 もちろん嫌いな人間に体を好きにさせるほど、自分は弱くないと思う。たとえ初めは快楽に体が流されていたとしても、自分が本当に嫌だったなら何度も許さなかっただろうし、現に最後はそういう形で影の執着をふりきった。
 ただ、それまで優しかった影がああいう激しい行動に出たのは、やはりそれなりの理由が彼にあったに違いないだろう。それを聞かずに拒否してしまい、すべてを責めてしまった事がなんとも後味が悪いのだ。

──ただの夢かもしれないのに。

 みのりは深くため息をついた。ただの夢かもしれないことに、ふりまわされている自分が馬鹿みたいだ。

「なに? 結局フラれたの」

 脇から鋭く指摘され、みのりはぎょっとして振り向いた。勢いあまって、すわっていた椅子の上から落ちかかる。

「あんた、わかりやすいのよ。ちょっと気になる相手ができてうまく行きかけたと思ったら、そう簡単にはいかなくて落ち込んでるって感じがまる見え」

 ぐさぐさ胸にささる言葉を横から投げた友人は、硬直しているみのりをながめた。

「てっきり彼氏ができたのかって思い込んでたんだけど、そんな単純な感じじゃなさそう。なにー、らしくなく片思いー?」

 面白そうな目つきの音々にみのりは頬をひくつかせた。「人の不幸はメープルシロップ」とは、こういうことを言うのかと思う。
 茶色い毛先をゆらゆらさせて隣の椅子に腰かけながら、音々はにんまり笑みを浮かべた。

「まあいいじゃない。言えるとこまででいいからさ、少し話してみなさいよ。自分の気持ちが整理できるし、気が楽になるって言うじゃない?」

──真っ昼間っから教室で、こんな危ない内容の話を?

 今まであった出来事のAV顔負けの内容に、めちゃくちゃ顔が熱くなる。
 だが、どうやら友人は照れているだけだと考えたらしい。にやにやしながら話をせかした。

「ほら、早く。出会いだけでも」

 強姦から和姦にクラスチェンジです。
 内心の思いを胸に押し込み、みのりは仕方なく口を開いた。

「あのー……。その、初めに、向こうからちょっと声をかけて来て……」

──声、一度も聞いたことないけど。

 自分で自分に突っ込んでいると、興味津々で音々が掘り下げた。

「え? つまりナンパ的な? どこで」
「え、あ、うちの近くで?」

 言葉を選びつつ、先を続ける。

「まあ挨拶くらいなんだけど……。それからよく顔を合わせるようになって」

 とんだ挨拶があったものだ。
 音々は考え深そうに顎に手を当ててつぶやいた。

「じゃあ近所の人ってこと? あ、でも、あんたんち駅に近いからそうとは限らないもんね。……それで、どんな人?」

 それを聞かれると一番困る。みのりは首をひねって答えた。

「若い……男の人? 後はよくわからない」
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