【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第二章 バレた後

3.

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 みのりはぐっと息を止め、そろそろと後ずさりした。
「なんでこんな所に」とか、「いつからこんな恥ずかしいことを」とか、色々疑問はつきないが、とにかく見つかったらヤバい。不審者のおかしな行動だけでなく、今の状況が全部ヤバい。昨日のお姉さま方の数とは比較にならないギャラリーの前で、校門の前で堂々と待っていた男子に声をかけられるなんて、もう「県立共栄女子高等学校」の生徒としては終わってる。
  
 冷汗をだらだらかきながら、回れ右をして背を向ける。裏の小さな通行門から逃げおおせようと思ったみのりは、そっとロータリーへ足をもどした。
 その時。

「あれ、みのり? まだ帰らなかったんだ」

 帰り支度をすませたらしい、小春達空手部の面々がそこに並んで立っていた。いつもと違う人の多さに不思議そうな顔をしている。

「なんか顔が赤いけど……お腹、大丈夫なの?」

 みのりがあわあわしている間に集団に前を邪魔されて、軽く逃げ道をふさがれる。小春がのんきな表情でみのりに近づいて来た。

「早く帰らなきゃダメじゃない。ほら、途中まで一緒にいこ?」

 手首をつかまれ、再び門へと押し出されそうになる。みのりはあわてて小春を押しもどした。

「まっ、まって、ちょっと──」

 小声でとがめたみのりの背後から、だいぶ聞きなれた声が響いた。

「一ノ瀬」

 びくん、と肩を震わせて、恐る恐る声の主を見る。
 塀から移動して来た雄基が真顔でそこに立っていた。制服姿の長身が、異様な迫力をかもし出している。
 蛇ににらまれたカエルのようになったみのりを見下ろすと、雄基は改めて口を開いた。

「一ノ瀬、ちょっと──」
「人違いです」

 みのりはぶんぶんかぶりを振って小春の腕を振り切った。突如現れた他校の男子に、小春がぽかんと口を開く。

「みのり、知り合い?」
「人違いだって‼」

 みのりの叫びに耳も貸さず、指をさされた当人ががしっとみのりの腕をつかんだ。その力強さに頬が引きつる。
 捕まえたみのりを凝視して、雄基は真剣な声で続けた。

「とにかく話を聞いてくれ。俺は……」
「ふッ、不審者ですううう‼」

 魂の底から絶叫する。ひるんだ雄基の手を払いのけ、みのりはその場から逃げ出した。
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