【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第二章 バレた後

20.

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 しかし老婆は肩をすくめるとひょうひょうと次の言葉を継いだ。

「だがね、お嬢ちゃん。あんたのことだ。もし初めから正直にお兄さんがそう明かしていればあんたならちゃんと応じただろう? 現実でもきちんと結ばれて、リングも何の問題もなくすぐにはずれたはずなんだ。──それを言わなかったってことは、たぶんそんな不自然な状態であんたと結ばれたくなかったんだろう。お兄さんは素の状態であんたに好いて欲しかったんだよ」

 みのりはきつく唇を噛んだ。
 たしかにそれは雄基らしい、生真面目とも取れる考えだ。しかしその心づかいが行きすぎて、結局極限状態におちいって相手を押し倒してしまったら、一体何になるというのだ。
 天をあおいだみのりの様子に老婆は首をふりふり言った。

「いいかい、優しいお嬢ちゃん。今だったらまだ間に合うよ、すぐにお兄さんを助けておやり。あんたしかできないことなんだ。もしこのままお兄さんがあんたと結ばれることができなければ……」

 すごみを増した老婆の口調に、みのりはごくんと息をのんだ。

「できなければ……?」
「不能になる」

 みのりは前につんのめった。
 老婆はきっぱり言い切った。

「そうなったらもうおしまいだ。立つものが立たなきゃヤるも何もない。……でも、お兄さんはもうあきらめてるよ。指輪を使った罰だとね。後はあんたが何とか言いくるめて、あのカタブツのお兄さんをどうにかその気にさせるんだね」

 みのりは頭がくらくらした。

──なんだ、この処女にはやたらとハードルの高いミッションは!?

 話は猥褻この上ないが、失敗したらまぎれもなく悲劇だ。しかしそれを成功させなければ彼の人生が確実に変わる。みのりは自分に課せられた使命の過酷さにめまいを覚えた。
 それにしても──と、みのりはあらためて目の前にいる老婆をながめた。こんなおかしなまねができるこの人物は何なのか。

「お婆さん、一体なにもの?」

 思わずみのりがたずねた言葉に老婆は苦笑いしたようだった。

「そうだねえ。まあ、『災厄』──とでも言っておくよ。本来だったら、お嬢ちゃんには私が見えなかったはずさ。あんたのような人間にはまったく関係ないものだ」

 みのりは大きく目をみはり、再度老婆を見下ろした。豪華な花かごを前にした老婆は、しわだらけの口元だけを見せた。くっくっと笑ってつげる。

「私は心に迷いがあってすきができた人間に見えるんだ。もし迷いごとができた時にはここを通らない方がいい。……今度私の姿が見えても、もう声をかけちゃいけないよ。お兄さんにも伝えておくれ」
「お婆さん、本当にありがとう!」

 みのりは深く礼を言い、くるりと老婆に背を向けた。
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