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少女の日常
囲炉裏と秀吉
しおりを挟む「あ、お嬢みっけ!」
囲炉裏の付喪神「暖吉」
家が建てられた当時から変わらず使われている囲炉裏。
一度も消えたことが無いという火は彼の加護があるからだとか。
栗色の猫っ毛とクリっとした大きな瞳、見た目は10歳位の元気いっぱいな男の子。
暖房として利用される囲炉裏の神様だけに温めることが得意な彼は、織田信長の靴を豊臣秀吉が懐で温めたエピソードを気に入っている。
きちんとした神名があるのだが長くて覚えにくく、秀吉から一文字取って暖吉と呼んでいる。
梳の長い講義をようやく終えた朝食後。
廊下の向こうから掛けてくる勢いそのままにぎゅっと腰元に抱きつく小さな子供をうぐっと小さな呻きを漏らしながら受け止めた。
「暖吉は今日も元気だね………ふぁ……」
「まだ眠いのか?お嬢は昔から寝坊助だからな。それより畑から野菜とってきてってばばが言ってた。行こ!」
子供の姿をしているが彼も神様、ずっと昔から存在している。
昔から、とはそのままの意味合いなのだろうが彼が言うと何だか不自然さを感じざるを得ない。
「春眠暁を覚えずっていうでしょ?それに今日はポカポカ暖かいから」
「なんでもいいが、早く行くぞ!」
早く早くと口を尖らせ手を引かれ玄関まで来ると、ほら、と懐から普段はいているサンダルを差し出した。
今日も程よく温めてくれていたらしい。
いつもありがとうと頭を撫でると、笑窪を作り得意げに笑う。
しかし申し訳ないが、サンダルでは畑には入れない。
「暖吉ごめん……悪いけど、今日はサンダルじゃない」
「えっ!………そか」
「((だってサンダルで畑に入ったら足汚れるじゃん?その足で家に上がったら間違いなく怒られるじゃん!))」
それでも子供の姿でそんな露骨に落ち込まれたら良心が痛む。
「…………あー、やっぱり履こうかな!足は洗えばいいんだから。ね?」
途端にぱぁっと表情を輝かせる可愛い神様と手を繋ぎ、畑への道を歩き出す。
キュッと握られた小さな手の温もりに、私の心をほっこりさせた。
外の水道から流れくる冷たい雪解け水で泥まみれの足を洗っている最中、私は気づく。
畑の近くで長靴に履き変えれば良かったのだと。
まあ、いっかと思わせたのはやはり、両手いっぱいの野菜を抱えた彼の笑顔だった。
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