神様につかれまして

ニコ

文字の大きさ
6 / 11
少女の日常

女神様の住まう池

しおりを挟む


「おや?今日は随分と大荷物だねぇ」




池の女神「游泉ユウセン

正確にはこの池で200年生きる亀だという。




のんびりとした性格でいつも眠たそう。
表情がなく何を考えているのか分からないが、そこが人間とは違う神秘的で独特の雰囲気を感じさせる。
翡翠色の短い髪を揺らしながら同じ色の瞳でこちらを見ている。
游泉曰く、池の石の上で遊んでいて足を滑らせて溺れかけたことがあったらしい。
その時に石がズレて游泉は隙間から抜け出し、私は自由になった游泉に助けられた。
今でも底まで透き通る綺麗な池と水辺の生き物のお世話係としてまたのんびり暮らしている。



敷地の中心部の大きな池の、そのまた中心の石の上でひらひらと手を振りながらこちらを見ている。
張り切って収穫しすぎてしまい、キャベツやふきのとう、菜の花などの春の野菜が溢れんばかり。


「游泉さんは甲羅干しですか?」

「日向ぼっこと言っておくれ。陽凪もこっちにおいで、あったかいよ」

「是非。あ、でもお野菜届けてからまた来ます」


「そうかい。囲炉裏の坊も一緒においで?待ってるから」

「こ、断る!!」

先程から私の後ろに隠れている暖吉がまたしても早く早くと急かしている。
なんでも体温調整のできない游泉は冬の間暖吉を抱えて離さなかったのだとか。
私もやったことがあるが、真っ赤になって怒っていた。
游泉は大人だから余計になのだろう。


「おやおや、即答とはね。………寂しいよ」


そう言って目を細め空を眺める游泉。
200年も暗い水底に捕われた孤独を味わった彼女の「寂しい」という一言には重みがある。




「………暖吉も、梳も、他のみんなも連れてきます。全員はその石に乗れないから、池に舟を浮かべて、そんでみんなでお花見しましょう!」



私にはきっと游泉の孤独を理解することはできない。
それでも私はいつか、游泉の心からの笑顔が見たい。
そのために出来ることは隣にいて、精一杯に笑うことだけだ。



「っ…ふふっ、楽しみにているよ」


游泉は、少しだけ笑ってくれた。
花がほころぶような、朗らかな笑顔で。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...