神様につかれまして

紫夜の宴に未来図を

未熟な少女と神楽舟

「ごめんね。游泉さん…」

「火斑様の言う通り、気長に待とうじゃないか。もう数日で咲くだろうさ」

「………うん」



火斑の部屋を出ると、優しい笑みを浮かべる游泉の姿があった。
火斑の部屋は池からも見える位置にあり、彼に頼んでみると言った陽凪を心配していたのだろう。
話を聞いていたにも関わらずただ笑って仕方ないさと私を慰めてくれた。
花見の中止ももちろんだが、私が謝りたいのは火斑が游泉を亀と呼んだこと。聞かれたこと。
亀になってまた挟まれても嫌だからと彼女は人の姿をとっていることが多い。
游泉にとってそれだけ辛い出来事だったのだろう。
だから聞かれてしまったことが悔しいし、何より自分の未熟さに嫌になる。


「お嬢ー！舟見つけたー！」

「お花見、楽しみですね」

陽凪と梳には蔵で使えそうな舟を見つけてくれたらしい。
見た目の割に力持ちな梳が舟を、その横を漕ぐための艪をもった暖吉が歩いてくる。
私には二人の嬉しそうな顔が見れなくて、黙って俯いた。

「陽凪様？」  「お嬢？」

心配そうに見つめる二人はまだ知らない。

「じゃあいつでも出来るね！あー早く咲かないかなぁ」

「陽凪……」


私は精一杯の笑顔で二人に顔を上げる。
そこでふと、梳が持ってきた舟に目をやる。
随分と立派な舞台のようなものがある舟だった。

「これ……神楽舟だ…」

「神楽舟？」  「なんだい？それは」


神楽舟かぐらぶね、文字通り神楽を舞う舞台のついた舟。
神束の巫女は神楽を舞うことで神々に願いを届け、恩恵を賜る。
春の神楽はこの池での花見の最中、この舟上で行われてきたと聞いている。


私は巫女としては半人前だが、神楽の技術だけなら歴代の巫女に負けない自信がある。
神様が私の願いを聞き届けたなら、満開とはいかずとも少しだけでも花を咲かせることができるかもしれない。




「游泉さん。お花見、出来るよ」