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紫夜の宴に未来図を
「願い」と「想い」
しおりを挟むどこからとも無く笛の音が聞こえてくる。
夕闇の中から池を切り裂き向かってくる舟にぼんやりと浮かび上がる姿。
薄紅色の巫女装束を纏った陽凪だった。
繊細なのに力強く、豪快なのに儚さを感じさせる舞。
ひらひらと桜色の扇をはためかせ、不安定な舟の上で軽やかに身を翻し舞い踊る。
かつて同じように花見を企てた巫女が、桜の一番近くで神に願いを届けようと思い立ったのがこの方法だった。
「((火斑に頼らずにやるならこれしかない。お願い、花を咲かせてっ!))」
土地神がダメなら桜の木の神に届くよう願い、必死に舞う。
しかし一向にほころぶ気配を見せない蕾。
徐々に焦りと不安が募る。
不安定な舟の上でいつもの倍以上に神経を使っているのに加え、数体の式神を使って舟を動かし笛を奏でている。
そう長くは続かず体力も気力も限界が近づいていた。
視界が、ぐるりとまわる。
意識が遠のき、体は支える力を失いゆっくりと傾く。
だが、倒れる衝撃を受けることはなくなにかに抱きとめられた。
「陽凪!! 」
「火、斑……((やっぱり、ダメだったかぁ。游泉さんに、桜見せてあげたかったな…))」
「もういい、これ以上はお前の身が危ない。桜なら俺が」
その時だった。
「その願い、聞き届けた」
凛、と澄んだ声が直接耳に響くような感覚。
桜の木の周りを風が渦巻くのが見えた。
陽凪を庇うように包み込まれた火斑の腕の隙間からは、陽凪の着物と同じ薄紅色の長髪の美しい男の姿。
風が止むと、ひらりと小さな何かが宙を舞い陽凪の頬に降りた。
ぼやけた視界では大粒の雪のようにも見えたそれは冷たくもなければ溶けて消えることもなく舟の中にも降り積もっていく。
「やりやがったな……。陽凪!見てみろ」
「え…?………っ!」
珍しく嬉しそうな声を上げる火斑が指さす先には、満開の花を咲かせていた。
はらはらと花びらが舞い、池を桜色の絨毯のように埋めていく。
意識を手放す直前、月明かりのスポットライトに照らされ堂々たる姿を見せるそれは、幻想的に美しかった。
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