家出少年と錬金術師

ぎんげつ

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3.僕の欲しいもの

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 ケリーから薬学と錬金術を学び始めて、あっという間に1年が過ぎた。あの屋敷を出てから半年はひとりだったから、僕はあと半年経てば17になる。
 18になれば、この世界のどこへ行っても成人として扱われるようになるのだ。西の大国でも、東の諸国でも、南の蛮国でも。

 1年かけて座学と実践の両方を並行で続け、「早く戦力になってくれないと困るんだよ」とどやされながら必死で学んできた。
 僕の頭の出来は、ケリーの期待していた程度には良かったらしい。
 あれもこれもと次々積み上げられる書物の内容を必死に覚え、薬草の見分け方や薬のレシピを頭に叩き込むうちに、1年経ってようやく、簡単な薬程度の調合なら任されるくらいになっていた。

「エヴは飲み込みが早くていいね。わたしが思ってたより頭の出来が良いんだろうな。この分なら、一人前になるのも早そうだ」
 頭を抱き締められぐりぐりと髪を搔き回すように撫でられて、僕は慌てる。
「師匠、ちょっと」
「ん? いいじゃないか。よくできた子はちゃんと褒めてあげないとね」
 楽しそうに笑いながら僕を抱き締めるケリーの腕に力がこもる。

 ケリーは厳しい教師のようであったり、弟を可愛がる姉のようでもあったりと、いろいろな態度で僕に接する。

 けれど、僕が望むものは、その中にはない。

 ここへ来た頃はケリーと同じくらいだった身長も、頭半分ほど僕のほうが高くなった。
 肩幅も身体の厚みも増したと思う。
 薬草を集めるためにしょっちゅう森に入るから、陽にも焼けた。薬品を扱うせいで、手もすっかり荒れてガサガサだ。髪だって邪魔にならない程度の長さに切っただけで、きちんと整えるようなこともやらなくなった。
 もう、僕を見て貴族だと思うような者はいないだろう。
 身体も丈夫になって、力もついた。

 ケリーは相変わらず、注文が立て込むと夜遅くまで調合をしては、椅子の上で寝てしまう。ベッドへと移されて起きた後、身に染み付いてしまった習慣なんだと肩を竦めて言い訳をするケリーに、僕は苦笑だけで答える。

 ──その習慣は無くさなくていい。

 口ではしかたないですねと言いながら、心の中ではそう呟いた。ケリーの身体の重さや匂いを存分に味わえるのは、ほんの一時、その時だけなのだ。
 ケリーを抱き上げた時にふわりと漂う薬と肌の匂いが混じったものは、僕の劣情を刺激するようにもなっていた。
 何度、このままケリーと、と考えたことだろうか。

 ……そうなったとしても、ケリーは怒らない気はする。

 けれど、受け入れたように見えて、決して本当の肝心なところは与えてくれないんだろうとも思う。
 どうしたって、ケリーが僕のものになることはないのか。



 いつものように、椅子で眠ってしまったケリーを見つけてベッドへと運ぶ。
 すっかり馴染んだ重みと匂いに、自然と腕に力がこもった。降ろすのをほんの少しだけためらって……ゆっくり時間を掛けてベッドへ寝かせ、そのまま抱き締める。
「ケリー」
 小さく囁いて、頭にキスをして……いつものようにケリーの頬を撫でる。

 このまま、ケリーと……。

 ケリーの首に顔を埋めたまましばし想像する。それからケリーが目を覚まさないようにと、そっと身体を起こす。
 早くケリーから離れて部屋を出なければ。

 ……なのに、今日に限って、ケリーは小さな声とともに身じろぎをし、ぱちりと目を開けてしまった。
「エヴ?」
 少し寝ぼけたような眼差しで、とても近いところから僕を見つめる。

 とうとう気付かれてしまった。

 心臓が口から飛び出しそうなくらい、激しく鼓動を打つ。
 カッと頭に血が上る。
 うまく頭が働かない。
 どうしたらと考えて……僕はとっさに抱きついた腕に力をこめて、そのままケリーを抑え込んでしまう。

「エヴ、何?」
「師匠……ケリー」
 ぽかんと目を見開いて僕を見つめるケリーを見返すこともできず、僕はそのままただ抱きついていた。頭の中にはいろいろなものがぐるぐると渦巻くばかりだった。
「エヴ」
 ケリーの漏らした微かな吐息に、僕の肩がびくりと震える。ケリー、と掠れた声で何度も呟いて、ただ抱き締める腕の力だけが増していく。 

 ケリー、僕を、拒まないで。

 とても身勝手なことを考えながら、ケリー、と呼ぶ。は、は、と短く忙しない呼吸と、どくどく脈打つ鼓動の音だけが耳に入る。

 ……不意に、ケリーは大きく息を吐くと、僕の背に腕を回した。
「いいんだよ、エヴ」
 僕を抱き締めて、ケリーが優しく頭を撫でる。

 ここまで来ても、ケリーにとって僕はただの子供でしかない。
 顔を伏せたまま、僕は唇を噛む。

「ケリー」
 顔を上げた僕は、いきなりケリーの唇を塞いだ。
「んっ」
 唇を割り、舌を差し込み、夢中でケリーの口の中を舐る。
「っ、ふ」
 ケリーを抱く腕に感じる、ケリーの身体がとても柔らかい。
 片手でケリーの腰帯を解き、長衣の前を開いていく。どうしようもない欲望に張り詰めた部分を押し付けながら、ケリーの身体に手を滑らせる。
 唇を離し、熱のこもった息を吐いて、僕はまた「ケリー」と呼んだ。

 ケリーはじっと僕を見つめて、そっと背を撫でる。しばらくそうして背を撫でた後、頭の後ろに手を回し、僕の顔を引き寄せた。
 ケリーは笑むように目を細め、僕に優しくキスをする。

「ケリー、僕……」
 ケリーがほんのりと微笑んだ。
 何もかもをわかっているような微笑みに、僕は居た堪れなくなる。
「ケリー、欲しいんだ。ケリー、僕は、ケリーが欲しいんだ」
 僕がいつも想像していたように、ケリーはしかたがないなと笑った。また、よしよしと宥めるように頭を撫でて、「いいよ、おいで」と手を差し伸べる。



 お互いの衣服を取り払い、ベッドの上に座って抱き合った。
「そんなに怖がるな」
 そう囁くケリーの指先が触れた場所から、じんと痺れるような快楽が這い上がってくる。く、と声が出そうになって歯を食いしばる。

 ケリーが無言で僕の喉をぺろりと舐めた。
 ケリーの吐息が僕の身体にかかる。
 ケリーの背に回した手で、彼女の身体を撫で回す。
 ケリーが、僕の熱く固く勃ち上がったものに触れる。
「……う、あ、ケリー」
 息はますます荒くなる。身体に汗が浮かび、腰が動いてしまう。
「エヴ、わたしのも触って」
 頷いて、おそるおそる下へと手を伸ばす。そっと指を這わせると、ケリーが小さく吐息を漏らす。
 その吐息を、嬉しいと思う。

 指先に、ぬるりとした粘液が纏わりついた。
 ぬるぬると滑らせるようになぞり、見つけた突起をくるくる撫でると、ケリーがまた吐息を漏らした。
「エヴ……その、下」
「した?」
 ケリーの声は、少し上擦っていた。
 僕は啄むように軽くキスをする。
「そこに、君の、入る場所が、あるよ」
「入る……」
 僕の、入る、場所……どきん、と心臓が跳ね上がる。
「ケリー……」
「待って、エヴ。最初は、指で、慣らして」
 そっとなぞっていくと、確かにそこには入り口があった。触れた途端にひくりと震えるそこに指先を少し沈めると、短く声を漏らして、ケリーの身体がぴくりと跳ねる。
「エヴ、爪を立てないように、ゆっくり入れて」
 ケリーの言葉に従って、ゆっくりゆっくり、指を深くへと入れていく。中はとても柔らかくぬらぬらと濡れていて、複雑に蠢いている。
 まるで、ここだけが別な生き物のようだ。
 まったくの未知のその場所に、なぜだか入りたいという衝動が湧き上がる。
「ケリー、動いてる」
「ああ……」
 ケリーが僕を抱き竦めるように腕を回し、ぐいと引き寄せる。
「そのまま、中を、掻き回して……優しく、そう」
 指を動かすとケリーの息が少しずつ荒くなっていった。少しぬるぬるとする程度だった入り口から、今でははっきりと粘つく音が聞こえてくる。
 ケリーの求めで中に入れる指を増やす。
 ひくひくと蠢くだけだった中は、ときどき指に吸い付くようにきゅうっと締め付けるようになった。
 やんわりとケリーの手で撫で続けられた僕の昂ったものも、もう痛いくらいに膨れ上がっている。
「ケリー……もう」
 指を動かしながら、熱に冒されたような頭のままケリーに囁く。乞い願うように、懇願するように、ケリーにキスをして入りたいと繰り返す。
 とうとうケリーが伸し掛かるように僕を押し倒した。
 中に入れていた指が抜けて、ケリーの身体がわずかに震える。
 僕の昂り切った楔の上に跨り、覆いかぶさるようにキスをする。
 舌を絡め、吸いながら、ケリーは僕をあてがうといっきに腰を落とした。

「あ、あ……っ」

 痛いほどに張り詰めたものが、熱く柔らかく蠢くものに包まれて、僕はたまらず背を反らす。奥へ奥へと吸い込むように締め付ける快感に、口をぱくぱくと動かして喘ぐことしかできない。
 根元までを収めたケリーは天井を仰ぐように喉を反らし、はあ、と溜息のような息を吐いた。それから僕を見下ろし、微笑んで、もう一度キスを落とす。

 その間も、ケリーが僕を締め付け続ける。
 そのあまりの心地よさに、僕のすべてが囚われてしまう。

「う、あ、ケリー……っ」
 両手でケリーを自分に擦り付けるように押さえ、突き上げるように腰を動かすと、ケリーが「あ」と小さく声を上げた。
 突き上げながら、揺れる小ぶりな胸を包むように片手を当てて、張りのある柔らかさを味わうように捏ねる。
 立ち上がった先を摘むように指で挟むと、ケリーがわずかに眉を寄せる。
「っう、ケリー、ケリー」
 けれど、ケリーの締め付けで、堪えられないほどの衝動が僕を襲う。
 出る、という感覚に、背が震える。
 ケリーの奥へと叩きつけるように腰を押し付け、僕は爆ぜてしまう。
「あ、ああ……」
 心臓がどくどく脈打ち、全身に汗が浮かんだ。
 はあはあと激しく喘ぎながら、僕は呆然とケリーを見上げる。
 ケリーは優しく微笑んで、僕の頬を撫でた。
 ただ、優しく微笑んで……。

 僕は震える手を伸ばし、ケリーの身体をぐいと引き寄せ、少し乱暴にキスをする。
 そのまま強く抱き締めて、腰を突き上げる。
 喘ぐような声が、ケリーの喉から漏れる。

 ケリーを抱いても、僕の欲しいものが手に入らない。
 こんなに欲しているのに、ケリーは僕のものにならない。

「ケリー、ケリー……」

 きつくきつく抱き締めて、僕は貪るようにケリーを穿つ。


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