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4.ミカちゃんとご近所さん
10.世話焼き検定と大感謝祭
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「うわマジか卯原! ミカちゃんよかったなあああ!」
「ちょ、竹井さん! 大袈裟ですって!」
「ミカちゃんをあんなに生殺しにしてたお前がとうとう腹括ったんだぞ。全然大袈裟じゃないだろ」
「生殺しって……」
あの温泉プロポーズから帰るなり、さっそく「指輪を作りに行きましょう」とミカちゃんに連れられて宝石店に向かった。そんなに急がなくてもという私に、ミカちゃんは「気が変わってはいけませんから」と有無を言わせなかった。
行ったのは、私だけならとても入る気にはなれないようなすごい宝石店だった。その店で、ミカちゃんは嬉しそうにあれこれと指定して納得の行く品を注文した。私はただぽかんとしたまま、「できれば会社であんまり目立たないシンプルなのを……」と言っただけだ。
ミカちゃんのテンションがすごい。
そして指輪のダイヤもすごい。
大きさだけじゃなく、4Cとかいうもので値段が決まることくらいはさすがの私も知ってはいるが、怖いのでそこらへんは敢えて聞いていない。
そうやってようやく出来上がったすごい婚約指輪を贈られた翌週……出社した私の薬指にはまった指輪を目敏く見つけて、竹井さんがさっそく騒ぎ出したのだ。
慌てた私は、もちろんすぐに休憩コーナーへと竹井さんを引っ張った。
「だって、前にお前のこと居酒屋に迎えに来た時、ミカちゃん絶対彼氏のつもりだって顔してたじゃないか。なのに肝心のお前がオカンとか言うし、そのあとも同居してるくせに本気で何もないとか言うし、それが生殺しじゃなくて何なんだよ。ミカちゃん鋼の理性の人かよ。
よし、週末ミカちゃん連れてこい。祝杯あげるから。絶対だぞ」
竹井さんが私の背中をバシバシ叩きながら、涙ぐむ。
だからなんでそんなに竹井さんが騒ぐのだ。たった一回、居酒屋に迎えに来たミカちゃんと顔合わせたことがあるだけなのに。
それに。
「鋼の理性って……」
ミカちゃんはその真逆にいると思うんだけどなあ。そういう私も、人のことは言えないけど。
「だって好きな女と同居してて、そいつにオカンとか言われたうえに本気でなんもないとか、俺だったら首吊るレベルだぞ?」
「そんなに、ですか」
「そんなに、だよ。まあでもこれで、ようやくミカちゃんと収まるとこに収まったんだ。いいじゃないか」
「そうですけど」
妙に力説する竹井さんに、私はあははと苦笑いを浮かべた。
竹井さんはそんな私に、はあっと溜息を吐く。
「そういや、仕事とかどうすんだ? 国際結婚になるんだろ?」
「ミカちゃんもこっちで仕事してますし、私も続けるつもりですよ。籍はまだどうするとか決めてないんですけど」
「え? ミカちゃんて仕事してるの? 日本で? なんか有閑マダムの男版みたいなイメージあったけど」
「なんですかそれ」
「だってなあ。ミカちゃんに働いてるイメージがないんだよな」
ああなんかわかる気がする。
どことなく浮世離れしてる雰囲気はあるし、そもそも貴族だったのだ。庶民のような労働とは無縁だったはずだ。
そう考えるとよく家事雑事なんてやってたなあ、本当に。
「考えてみたらミカちゃんてブルジョワだしなあ」
「じゃ、卯原は働かなくてもいいんじゃないのか?」
「えー……仕事辞めたらたぶん暇すぎて死にますね。家事もそんなに好きじゃないですし、だったら仕事してるほうがいいです。
だいたい、そのほうが気兼ねなく使えるお金もできるじゃないですか」
「そういうもんか」
「そうですよ」
竹井さんは、「なるほどなあ」と感心しつつも、ミカちゃんとの祝杯の予定を忘れず、しっかり決めて行った。
「そういうわけで、竹井さんが今度ぜひミカちゃんのお祝いしたいって」
「竹井さんが、私のお祝いを、ですか」
帰ってさっそくその話をすると、ミカちゃんもちょっと首を傾げる。
「うん、なぜか今度の土曜日にってことになっちゃった」
「では、瑠夏さんのお祝いの品を選びに行くのもその日にしましょうか」
「そうだね」
ちょうど出かける予定もあったし、まあいいかということにする。
そう、瑠夏さんの結婚も近いのだ。天使の地元の教会で式をした後、こちらではゴールデンウィーク過ぎの大安吉日に披露宴だけをするのだと連絡があった。招待もされてるから、そろそろ実家から振袖送ってもらわなきゃなあと考える。
それに、五月か。そうか、ミカちゃんを拾ってからもう一年か。
「ねえ、ミカちゃん。ゴールデンウィーク、どーんとどこか旅行に行こうか」
「旅行ですか?」
「うん、海外でもいいよ。今年は休みもぎ取ってくるから」
くすりとミカちゃんが笑う。
「どこか行きたいところでもありますか?」
「んん、ルーブル美術館とか、大英博物館とか行ってみたいなあ。ベルサイユ宮殿とか、ノイシュヴァンシュタイン城とかも。
でも、一番行ってみたいのはミカちゃんの出身地かな。たしか北欧のあたりって言ってたよね」
ミカちゃんは軽く目を瞠って、それからにっこり笑った。
「では、手配しましょう」
「うん……あ、でも予算! 予算気をつけてね!」
笑うミカちゃんに、私は慌てて付け加える。
「気になさらずとも、大丈夫ですよ」
「いや、それよくない! 絶対よくないから!」
「はいはい」
黙ってたら絶対お高いところにするつもりだったんだ。ミカちゃんの顔にそう書いてあるし。
週末、瑠夏さんのお祝いも無事決まって竹井さんとの待ち合わせ場所に行くと、なんと彼女連れだった。
最近金髪美人と言わなくなったのはこのせいだったのか。
「竹井さんこんにちは」
「よう、卯原。ミカちゃんも久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。こちらの方は?」
「あー……その、俺の連れの、杉本麻子さんだ」
「あの、初めまして……その、竹井くんの後輩の結婚祝いをするからと呼ばれて。お邪魔します」
「わざわざありがとうございます。竹井さんにはお世話になってます、卯原です。こっちは、ミカちゃんです」
少し照れ臭そうに笑う杉本さんに、慌ててぺこりと挨拶をする。
「ミカ・エルヴァスティと申します。以後、お見知りおきを」
杉本さんは、なんと竹井さんの学生時代からの友人だったという。最近仕事が落ち着いて友人同士の飲み会が復活した結果、なんだかくっついてしまったんだと照れながら話してくれた。
竹井さん、実は彼女自慢したかっただけではないのか。
予約していたというちょっとおしゃれな居酒屋であれこれと飲みながらのおしゃべりは、その半分くらいは惚気と取れるような内容だった。
まあ日ごろお世話になってるし、惚気くらいは聞いてやるさという寛大な気持ちで、私も話を続けた。
「で、いや、実はさ、なんというか、俺たちもそういう話が出てな」
「うわ! マジですか! おめでとうございます!」
どことなく目を泳がせるようにして、竹井さんがぼそりと白状する。
「では、私どもの祝いと言ってる場合じゃないのでは?」
「あ、いや、その……なんていうか、麻子とそういうことになったきっかけが、実は久しぶりの飲みでミカちゃんと卯原の話をしたことでさ」
「へ?」
竹井さんと杉本さんが、あははと笑いながら目を合わせる。
「こんな後輩がいてさ、って話をしてたら盛り上がっちまって、そこから一緒に出かけたりするようになってな」
ミカちゃんもこれには少し驚いたようで、目を丸くしていた。
「だから、個人的に、お礼も兼ねてお祝いしたかったんだよ」
「……縁というのは、わからないものですね」
もっともらしく頷く竹井さんに、ミカちゃんもしみじみ呟いた。確かに、去年の今頃はこんな状況になるなんて想像もしなかったしなあ。
「卯原は、ミカちゃんとはどういう縁で知り合ったんだ?」
思わずちらりとミカちゃんに目をやる。
縁か。うーん、あれもたしかに縁か。
「ええと……去年のすっごく暑い日に、バテてフラフラだったミカちゃん見つけて、ご飯食べさせてあげたのがきっかけですね」
「……卯原、お前意外に女子力あったんだな」
「えっ、竹井さんそれどういう意味」
「いや、お前がそんなことするとはなあって」
真剣な顔でそんなこと言い出す竹井さんに、ミカちゃんまでくっくっと笑い出して、私は憮然とする。
「竹井さんこそ、もう残業やりすぎないよう気をつけたほうがいいですよ」
「うっ」
痛いところを突かれたと、竹井さんはビールをぐいっとあおる。
じゃあまた月曜日に、と竹井さんたちと別れて、夜の街を歩き出した。楽しくてついつい飲み過ぎた私を、ミカちゃんが抱えるように歩く。
「律子さんはいつも通りですね」
「んー、ミカちゃんと一緒だから大丈夫かなって」
腕にしがみついてふらふら歩く私に、ミカちゃんはちょっと呆れ顔だ。
「タクシーを使いましょうか」
「んん、ちょっと冷まさないと危険かも」
へらっと笑って返すと、「わかりました」と肩を竦めたミカちゃんが、どこかへ電話をする。
「どしたの?」
「今夜は近くで泊まって、明日の朝帰りましょう」
「え?」
「さ、近くに部屋を抑えましたから」
それ以上有無を言わせず、ミカちゃんは私を抱きかかえるようにしてホテルへと運んでいった。
「ね、ミカちゃん。なんか部屋が立派なんだけど」
「ここしか空いてないとのことでしたから」
この広さとか、スタンダードじゃなくてそのひとつかふたつ上のグレードなんじゃないかと考えながら訊くと、ミカちゃんはなんてことないというようににっこりと微笑む。
最近、ミカちゃんは本気を出しにかかってるんじゃないだろうか。
「あ、あんまり無駄遣いとかしちゃ、だめだよ」
「無駄なことになど使っておりませんよ」
微笑むミカちゃんの顔が近づいたと思ったら、ちゅうっとキスされた。
「酔いはどうですか」
「なんかびっくりして冷めちゃった」
「では、風呂に入りましょうか」
「え、うん」
荷物を置くと、ミカちゃんはさっさと私をバスルームに運び込んでしまった。いつものようにするする脱がして、抱え上げる。
いつもながら、姫待遇だ。
立たせて寄りかからせたままシャンプーして身体を洗って……ミカちゃんの手際の良さに、ついくすくす笑ってしまう。
「どうしました?」
「ミカちゃんは、律子世話焼き検定あったら満点だね」
「世話焼き検定ですか」
ミカちゃんもくすりと笑った。
「そ。律子のニーズに合わせていろんな世話を焼いてくれるの」
「では、こういうニーズはありますか?」
ミカちゃんが唇を塞いで、つうっと背中を撫で下ろした。ぞくぞくとする感覚が背中を昇って、思わずミカちゃんに抱きついてしまう。
「んふぅ」
差し入れられた舌に絡め取られて、返事ができない。下に降りたミカちゃんの手のひらがお尻の形を確かめるようにゆっくり滑って、脚の間をそっと撫でる。
「ん、っ、ニーズ……ある、よ」
はあ、と息を吐きながら、唇がちょっと離れた隙に囁く。
「では、それに応えませんとね」
ちゅく、と指がわずかに沈む。
身体がひくんと跳ねて、抱きついた腕に力がこもる。
見上げると、ミカちゃんの目が赤い。
「ん、ミカちゃん、あの、ね」
「なんですか?」
顔のあちこちを啄ばみながら、ミカちゃんの目が優しく細まる。
私もなんだか嬉しくなって、あは、と笑う。
「大好き」
ミカちゃんはちょっとだけ目を瞠って、それからすぐに蕩けるように微笑んだ。
「私もですよ」
また唇を合わせて舌を吸う。
そのまま浴槽のふちに腰掛けたミカちゃんを跨ぐように座らせられて、ぎゅうっと抱き締められる。
「今日は、どうにも我慢できそうにありません」
ぐいっと腰を抱き寄せられて、ミカちゃんの固くなったものが当たる。
いつも冷んやりのミカちゃんの、そこだけがすごく熱く感じられる。
「ね、ミカちゃん……私も、我慢できない」
は、とミカちゃんが吐息を漏らす。
私を抱えたままバスルームを出ると、濡れた身体をタオルで拭くのもそこそこに、ベッドに横たえて伸し掛かった。
いつもよりちょっと乱暴にキスをして、それでもあちこちしっかり蕩かして、ゆっくり中へと入ってくる。
「ん……、あ、ミカちゃん……」
湧き上がる快感で深く息を吐く私に、ミカちゃんはキスをする。
「ふ、ん……っ」
「律子さん」
「ん、んっ、あ……なに、あっ」
「律子さん」
「あ、あっ、ミカちゃん、っ、ああっ」
深いところを突きながら、ミカちゃんが何度も私を呼ぶ。
「律子さん」
掠れた声で、あちこちにキスをしながら、手を這わせながら、何度も何度も穿ちながらミカちゃんが呼ぶ。
「あ、ミカちゃん、ああ、んっ、もう」
は、は、と浅く荒く息を吐いて、ひくひくと中が痙攣を始める。もう少し。だからもっと。もっともっととミカちゃんを求める。
「あ、あ、ミカちゃん、ミカちゃん……っ、ん」
脚を絡めて抱き締めて、つ、と身体を汗が伝う。
「く、は、律子さん……っ」
ミカちゃんがむしゃぶりつくように、私の首を吸う。舌が這う感触に期待が高まり、身体が震える。
「あ、ああっ……ミカちゃん、も、いく、だめ、もう」
「っ、律子さん……愛して、ます」
ずぶ、とミカちゃんの牙が埋まって、そこから波が押し寄せる。
「あ」
何かに押し流されるように頭の中が真っ白になって、自分がはあはあと息を切らせる音ばかりが聞こえてくる。
それから、ぎゅうぎゅうに抱き締められてることに気付いて、なんだか幸せな気持ちになって。
「ミカちゃん」
頭の中がふわふわしたまま呼ぶと、ミカちゃんもふんわり微笑んで、ちゅ、とキスをした。
「ね、もいちど、言って」
今度は私からキスをしながら、ねだるように言う。
くすくす笑いながらキスをして、ミカちゃんが耳元に口を寄せた。
「律子さん、愛してます」
耳に触れる吐息がなんだかいつもよりくすぐったくて、自分でねだっておきながら少し恥ずかしくて、つい身体を捩ってしまう。
「ミカちゃん、私も、大好き。愛してる」
改めて言うと、やっぱり恥ずかしい。
耳まで真っ赤になった私に、ミカちゃんは「今日の律子さんは、ミカ・エルヴァスティ大感謝祭なんですか?」と笑った。
「ちょ、竹井さん! 大袈裟ですって!」
「ミカちゃんをあんなに生殺しにしてたお前がとうとう腹括ったんだぞ。全然大袈裟じゃないだろ」
「生殺しって……」
あの温泉プロポーズから帰るなり、さっそく「指輪を作りに行きましょう」とミカちゃんに連れられて宝石店に向かった。そんなに急がなくてもという私に、ミカちゃんは「気が変わってはいけませんから」と有無を言わせなかった。
行ったのは、私だけならとても入る気にはなれないようなすごい宝石店だった。その店で、ミカちゃんは嬉しそうにあれこれと指定して納得の行く品を注文した。私はただぽかんとしたまま、「できれば会社であんまり目立たないシンプルなのを……」と言っただけだ。
ミカちゃんのテンションがすごい。
そして指輪のダイヤもすごい。
大きさだけじゃなく、4Cとかいうもので値段が決まることくらいはさすがの私も知ってはいるが、怖いのでそこらへんは敢えて聞いていない。
そうやってようやく出来上がったすごい婚約指輪を贈られた翌週……出社した私の薬指にはまった指輪を目敏く見つけて、竹井さんがさっそく騒ぎ出したのだ。
慌てた私は、もちろんすぐに休憩コーナーへと竹井さんを引っ張った。
「だって、前にお前のこと居酒屋に迎えに来た時、ミカちゃん絶対彼氏のつもりだって顔してたじゃないか。なのに肝心のお前がオカンとか言うし、そのあとも同居してるくせに本気で何もないとか言うし、それが生殺しじゃなくて何なんだよ。ミカちゃん鋼の理性の人かよ。
よし、週末ミカちゃん連れてこい。祝杯あげるから。絶対だぞ」
竹井さんが私の背中をバシバシ叩きながら、涙ぐむ。
だからなんでそんなに竹井さんが騒ぐのだ。たった一回、居酒屋に迎えに来たミカちゃんと顔合わせたことがあるだけなのに。
それに。
「鋼の理性って……」
ミカちゃんはその真逆にいると思うんだけどなあ。そういう私も、人のことは言えないけど。
「だって好きな女と同居してて、そいつにオカンとか言われたうえに本気でなんもないとか、俺だったら首吊るレベルだぞ?」
「そんなに、ですか」
「そんなに、だよ。まあでもこれで、ようやくミカちゃんと収まるとこに収まったんだ。いいじゃないか」
「そうですけど」
妙に力説する竹井さんに、私はあははと苦笑いを浮かべた。
竹井さんはそんな私に、はあっと溜息を吐く。
「そういや、仕事とかどうすんだ? 国際結婚になるんだろ?」
「ミカちゃんもこっちで仕事してますし、私も続けるつもりですよ。籍はまだどうするとか決めてないんですけど」
「え? ミカちゃんて仕事してるの? 日本で? なんか有閑マダムの男版みたいなイメージあったけど」
「なんですかそれ」
「だってなあ。ミカちゃんに働いてるイメージがないんだよな」
ああなんかわかる気がする。
どことなく浮世離れしてる雰囲気はあるし、そもそも貴族だったのだ。庶民のような労働とは無縁だったはずだ。
そう考えるとよく家事雑事なんてやってたなあ、本当に。
「考えてみたらミカちゃんてブルジョワだしなあ」
「じゃ、卯原は働かなくてもいいんじゃないのか?」
「えー……仕事辞めたらたぶん暇すぎて死にますね。家事もそんなに好きじゃないですし、だったら仕事してるほうがいいです。
だいたい、そのほうが気兼ねなく使えるお金もできるじゃないですか」
「そういうもんか」
「そうですよ」
竹井さんは、「なるほどなあ」と感心しつつも、ミカちゃんとの祝杯の予定を忘れず、しっかり決めて行った。
「そういうわけで、竹井さんが今度ぜひミカちゃんのお祝いしたいって」
「竹井さんが、私のお祝いを、ですか」
帰ってさっそくその話をすると、ミカちゃんもちょっと首を傾げる。
「うん、なぜか今度の土曜日にってことになっちゃった」
「では、瑠夏さんのお祝いの品を選びに行くのもその日にしましょうか」
「そうだね」
ちょうど出かける予定もあったし、まあいいかということにする。
そう、瑠夏さんの結婚も近いのだ。天使の地元の教会で式をした後、こちらではゴールデンウィーク過ぎの大安吉日に披露宴だけをするのだと連絡があった。招待もされてるから、そろそろ実家から振袖送ってもらわなきゃなあと考える。
それに、五月か。そうか、ミカちゃんを拾ってからもう一年か。
「ねえ、ミカちゃん。ゴールデンウィーク、どーんとどこか旅行に行こうか」
「旅行ですか?」
「うん、海外でもいいよ。今年は休みもぎ取ってくるから」
くすりとミカちゃんが笑う。
「どこか行きたいところでもありますか?」
「んん、ルーブル美術館とか、大英博物館とか行ってみたいなあ。ベルサイユ宮殿とか、ノイシュヴァンシュタイン城とかも。
でも、一番行ってみたいのはミカちゃんの出身地かな。たしか北欧のあたりって言ってたよね」
ミカちゃんは軽く目を瞠って、それからにっこり笑った。
「では、手配しましょう」
「うん……あ、でも予算! 予算気をつけてね!」
笑うミカちゃんに、私は慌てて付け加える。
「気になさらずとも、大丈夫ですよ」
「いや、それよくない! 絶対よくないから!」
「はいはい」
黙ってたら絶対お高いところにするつもりだったんだ。ミカちゃんの顔にそう書いてあるし。
週末、瑠夏さんのお祝いも無事決まって竹井さんとの待ち合わせ場所に行くと、なんと彼女連れだった。
最近金髪美人と言わなくなったのはこのせいだったのか。
「竹井さんこんにちは」
「よう、卯原。ミカちゃんも久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。こちらの方は?」
「あー……その、俺の連れの、杉本麻子さんだ」
「あの、初めまして……その、竹井くんの後輩の結婚祝いをするからと呼ばれて。お邪魔します」
「わざわざありがとうございます。竹井さんにはお世話になってます、卯原です。こっちは、ミカちゃんです」
少し照れ臭そうに笑う杉本さんに、慌ててぺこりと挨拶をする。
「ミカ・エルヴァスティと申します。以後、お見知りおきを」
杉本さんは、なんと竹井さんの学生時代からの友人だったという。最近仕事が落ち着いて友人同士の飲み会が復活した結果、なんだかくっついてしまったんだと照れながら話してくれた。
竹井さん、実は彼女自慢したかっただけではないのか。
予約していたというちょっとおしゃれな居酒屋であれこれと飲みながらのおしゃべりは、その半分くらいは惚気と取れるような内容だった。
まあ日ごろお世話になってるし、惚気くらいは聞いてやるさという寛大な気持ちで、私も話を続けた。
「で、いや、実はさ、なんというか、俺たちもそういう話が出てな」
「うわ! マジですか! おめでとうございます!」
どことなく目を泳がせるようにして、竹井さんがぼそりと白状する。
「では、私どもの祝いと言ってる場合じゃないのでは?」
「あ、いや、その……なんていうか、麻子とそういうことになったきっかけが、実は久しぶりの飲みでミカちゃんと卯原の話をしたことでさ」
「へ?」
竹井さんと杉本さんが、あははと笑いながら目を合わせる。
「こんな後輩がいてさ、って話をしてたら盛り上がっちまって、そこから一緒に出かけたりするようになってな」
ミカちゃんもこれには少し驚いたようで、目を丸くしていた。
「だから、個人的に、お礼も兼ねてお祝いしたかったんだよ」
「……縁というのは、わからないものですね」
もっともらしく頷く竹井さんに、ミカちゃんもしみじみ呟いた。確かに、去年の今頃はこんな状況になるなんて想像もしなかったしなあ。
「卯原は、ミカちゃんとはどういう縁で知り合ったんだ?」
思わずちらりとミカちゃんに目をやる。
縁か。うーん、あれもたしかに縁か。
「ええと……去年のすっごく暑い日に、バテてフラフラだったミカちゃん見つけて、ご飯食べさせてあげたのがきっかけですね」
「……卯原、お前意外に女子力あったんだな」
「えっ、竹井さんそれどういう意味」
「いや、お前がそんなことするとはなあって」
真剣な顔でそんなこと言い出す竹井さんに、ミカちゃんまでくっくっと笑い出して、私は憮然とする。
「竹井さんこそ、もう残業やりすぎないよう気をつけたほうがいいですよ」
「うっ」
痛いところを突かれたと、竹井さんはビールをぐいっとあおる。
じゃあまた月曜日に、と竹井さんたちと別れて、夜の街を歩き出した。楽しくてついつい飲み過ぎた私を、ミカちゃんが抱えるように歩く。
「律子さんはいつも通りですね」
「んー、ミカちゃんと一緒だから大丈夫かなって」
腕にしがみついてふらふら歩く私に、ミカちゃんはちょっと呆れ顔だ。
「タクシーを使いましょうか」
「んん、ちょっと冷まさないと危険かも」
へらっと笑って返すと、「わかりました」と肩を竦めたミカちゃんが、どこかへ電話をする。
「どしたの?」
「今夜は近くで泊まって、明日の朝帰りましょう」
「え?」
「さ、近くに部屋を抑えましたから」
それ以上有無を言わせず、ミカちゃんは私を抱きかかえるようにしてホテルへと運んでいった。
「ね、ミカちゃん。なんか部屋が立派なんだけど」
「ここしか空いてないとのことでしたから」
この広さとか、スタンダードじゃなくてそのひとつかふたつ上のグレードなんじゃないかと考えながら訊くと、ミカちゃんはなんてことないというようににっこりと微笑む。
最近、ミカちゃんは本気を出しにかかってるんじゃないだろうか。
「あ、あんまり無駄遣いとかしちゃ、だめだよ」
「無駄なことになど使っておりませんよ」
微笑むミカちゃんの顔が近づいたと思ったら、ちゅうっとキスされた。
「酔いはどうですか」
「なんかびっくりして冷めちゃった」
「では、風呂に入りましょうか」
「え、うん」
荷物を置くと、ミカちゃんはさっさと私をバスルームに運び込んでしまった。いつものようにするする脱がして、抱え上げる。
いつもながら、姫待遇だ。
立たせて寄りかからせたままシャンプーして身体を洗って……ミカちゃんの手際の良さに、ついくすくす笑ってしまう。
「どうしました?」
「ミカちゃんは、律子世話焼き検定あったら満点だね」
「世話焼き検定ですか」
ミカちゃんもくすりと笑った。
「そ。律子のニーズに合わせていろんな世話を焼いてくれるの」
「では、こういうニーズはありますか?」
ミカちゃんが唇を塞いで、つうっと背中を撫で下ろした。ぞくぞくとする感覚が背中を昇って、思わずミカちゃんに抱きついてしまう。
「んふぅ」
差し入れられた舌に絡め取られて、返事ができない。下に降りたミカちゃんの手のひらがお尻の形を確かめるようにゆっくり滑って、脚の間をそっと撫でる。
「ん、っ、ニーズ……ある、よ」
はあ、と息を吐きながら、唇がちょっと離れた隙に囁く。
「では、それに応えませんとね」
ちゅく、と指がわずかに沈む。
身体がひくんと跳ねて、抱きついた腕に力がこもる。
見上げると、ミカちゃんの目が赤い。
「ん、ミカちゃん、あの、ね」
「なんですか?」
顔のあちこちを啄ばみながら、ミカちゃんの目が優しく細まる。
私もなんだか嬉しくなって、あは、と笑う。
「大好き」
ミカちゃんはちょっとだけ目を瞠って、それからすぐに蕩けるように微笑んだ。
「私もですよ」
また唇を合わせて舌を吸う。
そのまま浴槽のふちに腰掛けたミカちゃんを跨ぐように座らせられて、ぎゅうっと抱き締められる。
「今日は、どうにも我慢できそうにありません」
ぐいっと腰を抱き寄せられて、ミカちゃんの固くなったものが当たる。
いつも冷んやりのミカちゃんの、そこだけがすごく熱く感じられる。
「ね、ミカちゃん……私も、我慢できない」
は、とミカちゃんが吐息を漏らす。
私を抱えたままバスルームを出ると、濡れた身体をタオルで拭くのもそこそこに、ベッドに横たえて伸し掛かった。
いつもよりちょっと乱暴にキスをして、それでもあちこちしっかり蕩かして、ゆっくり中へと入ってくる。
「ん……、あ、ミカちゃん……」
湧き上がる快感で深く息を吐く私に、ミカちゃんはキスをする。
「ふ、ん……っ」
「律子さん」
「ん、んっ、あ……なに、あっ」
「律子さん」
「あ、あっ、ミカちゃん、っ、ああっ」
深いところを突きながら、ミカちゃんが何度も私を呼ぶ。
「律子さん」
掠れた声で、あちこちにキスをしながら、手を這わせながら、何度も何度も穿ちながらミカちゃんが呼ぶ。
「あ、ミカちゃん、ああ、んっ、もう」
は、は、と浅く荒く息を吐いて、ひくひくと中が痙攣を始める。もう少し。だからもっと。もっともっととミカちゃんを求める。
「あ、あ、ミカちゃん、ミカちゃん……っ、ん」
脚を絡めて抱き締めて、つ、と身体を汗が伝う。
「く、は、律子さん……っ」
ミカちゃんがむしゃぶりつくように、私の首を吸う。舌が這う感触に期待が高まり、身体が震える。
「あ、ああっ……ミカちゃん、も、いく、だめ、もう」
「っ、律子さん……愛して、ます」
ずぶ、とミカちゃんの牙が埋まって、そこから波が押し寄せる。
「あ」
何かに押し流されるように頭の中が真っ白になって、自分がはあはあと息を切らせる音ばかりが聞こえてくる。
それから、ぎゅうぎゅうに抱き締められてることに気付いて、なんだか幸せな気持ちになって。
「ミカちゃん」
頭の中がふわふわしたまま呼ぶと、ミカちゃんもふんわり微笑んで、ちゅ、とキスをした。
「ね、もいちど、言って」
今度は私からキスをしながら、ねだるように言う。
くすくす笑いながらキスをして、ミカちゃんが耳元に口を寄せた。
「律子さん、愛してます」
耳に触れる吐息がなんだかいつもよりくすぐったくて、自分でねだっておきながら少し恥ずかしくて、つい身体を捩ってしまう。
「ミカちゃん、私も、大好き。愛してる」
改めて言うと、やっぱり恥ずかしい。
耳まで真っ赤になった私に、ミカちゃんは「今日の律子さんは、ミカ・エルヴァスティ大感謝祭なんですか?」と笑った。
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