10 / 21
10.王子の噂
しおりを挟む
翌朝、私は町の中心部にある小さな教会へ行った。
高い位置にある丸いステンドグラスから朝日の射し込み、静かで凛とした空気の中お祈りを捧げ、神父様や礼拝に来ていた町の人々とお話をして過ごした。
そこで私は思いがけず、町の人々からダニエル王子に関する話を聞くことができた。
午後になってお城を訪れた。
王子は相変わらず部屋で絵筆を握っていたけれど、私の顔を見ると少し驚いて、
「また来たの? もう二度と来ないと思っていたのに」
と意地悪く言った。
「悪魔の呪いを解くまで私は何度でも来ますわ」
毅然とした声で答え、私は背後に隠していたミニバラとカスミ草の花束を彼に見せた。
昨日美しいバラを私が台無しにしてしまったのは事実だから、さっき教会を訪れた後、近くの市場へ行ったのだ。
「あいにくこの部屋にあったようなゴージャスな大輪のバラは手に入らなかったのですが」
苦笑いする私に王子は呆れたような顔を向けた。
「あれだけひどい目にあわされたというのに、君は……。俺に腹を立てていないのかい?」
私はふふ、と微笑んでみせた。
悪魔の呪いに苦しんで生きてきた彼の苦労に比べたら、あれぐらいのこと何でもないのだ。
空になったまま置いてあった昨日の花瓶に、私は花を生けた。
そして彼の描いていた絵を覗いた。
「きれいな人ね……」
そこに描かれていたのは褐色の肌の美しい女性だった。
「おい、勝手に見るなよ」
彼は白い目元をぽっと赤くした。
どうやら教会で聞いた話の通りらしいと私は思った。
「ダニエル王子は幼馴染みの隣国ザハーのエレーナ姫という許嫁がいるはずなのにどうして婚姻の儀を行わないのだろう。それどころか最近は公の場に姿も見せないし、何か病気にでもかかっているのか。聖女様、王子様をお助けください」
その話を聞いたとき、私の中にあった疑問の答えが見つかった。
王子は部屋で絵ばかり描いているはずなのに、城の中には彼が描いたとみられる絵は一枚も飾られていなかったのだ。昨日、玄関の間へ飾るよう彼が指示したバラの絵が、ここへ来るとき玄関の大階段の踊り場の額へ飾られていただけだ。
だからもしかして、彼はずっとエレーナ姫のことを想い、部屋にこもって彼女の絵を描いているんじゃないかと思ったのだ。
呪いなど解いてほしくない、結婚したい相手などいない、と言いながらも、心の底では呪いを解かれエレーナ姫と結ばれることを望んでいるのではないかと。
「王子様、本当は呪いを解いてほしいのではないでしょうか」
「……なぜそう思う?」
「だって王子様はずっとエレーナ姫のことを……」
王子はどうしてそのことを知っているんだと、目を丸くした。
「呪いを解くには私とセックスして私の体内で呪われた性器を清める方法しかないのですが、嫌じゃなければ……」
私は顔を熱くしながら言った。
「おいおい、俺は悪魔の呪いにかかっているんだ。セックスなんてしたら君はサキュバスになってしまうんだぞ」
「私は聖女ですから大丈夫です。信じてください」
ポカンと開けた口を閉じて、彼は肩をすくめた。
「どうやら俺は君を誤解していたようだ。今まで俺の呪いを解きに来た者で危険を冒してまで呪いを解こうと試みたものは一人もいなかった。君はなんて慈悲深いんだ。本物の聖女だったんだな」
彼はふっと微笑んだ。なんて美しい人なんだろう、と私はドキッとした。
高い位置にある丸いステンドグラスから朝日の射し込み、静かで凛とした空気の中お祈りを捧げ、神父様や礼拝に来ていた町の人々とお話をして過ごした。
そこで私は思いがけず、町の人々からダニエル王子に関する話を聞くことができた。
午後になってお城を訪れた。
王子は相変わらず部屋で絵筆を握っていたけれど、私の顔を見ると少し驚いて、
「また来たの? もう二度と来ないと思っていたのに」
と意地悪く言った。
「悪魔の呪いを解くまで私は何度でも来ますわ」
毅然とした声で答え、私は背後に隠していたミニバラとカスミ草の花束を彼に見せた。
昨日美しいバラを私が台無しにしてしまったのは事実だから、さっき教会を訪れた後、近くの市場へ行ったのだ。
「あいにくこの部屋にあったようなゴージャスな大輪のバラは手に入らなかったのですが」
苦笑いする私に王子は呆れたような顔を向けた。
「あれだけひどい目にあわされたというのに、君は……。俺に腹を立てていないのかい?」
私はふふ、と微笑んでみせた。
悪魔の呪いに苦しんで生きてきた彼の苦労に比べたら、あれぐらいのこと何でもないのだ。
空になったまま置いてあった昨日の花瓶に、私は花を生けた。
そして彼の描いていた絵を覗いた。
「きれいな人ね……」
そこに描かれていたのは褐色の肌の美しい女性だった。
「おい、勝手に見るなよ」
彼は白い目元をぽっと赤くした。
どうやら教会で聞いた話の通りらしいと私は思った。
「ダニエル王子は幼馴染みの隣国ザハーのエレーナ姫という許嫁がいるはずなのにどうして婚姻の儀を行わないのだろう。それどころか最近は公の場に姿も見せないし、何か病気にでもかかっているのか。聖女様、王子様をお助けください」
その話を聞いたとき、私の中にあった疑問の答えが見つかった。
王子は部屋で絵ばかり描いているはずなのに、城の中には彼が描いたとみられる絵は一枚も飾られていなかったのだ。昨日、玄関の間へ飾るよう彼が指示したバラの絵が、ここへ来るとき玄関の大階段の踊り場の額へ飾られていただけだ。
だからもしかして、彼はずっとエレーナ姫のことを想い、部屋にこもって彼女の絵を描いているんじゃないかと思ったのだ。
呪いなど解いてほしくない、結婚したい相手などいない、と言いながらも、心の底では呪いを解かれエレーナ姫と結ばれることを望んでいるのではないかと。
「王子様、本当は呪いを解いてほしいのではないでしょうか」
「……なぜそう思う?」
「だって王子様はずっとエレーナ姫のことを……」
王子はどうしてそのことを知っているんだと、目を丸くした。
「呪いを解くには私とセックスして私の体内で呪われた性器を清める方法しかないのですが、嫌じゃなければ……」
私は顔を熱くしながら言った。
「おいおい、俺は悪魔の呪いにかかっているんだ。セックスなんてしたら君はサキュバスになってしまうんだぞ」
「私は聖女ですから大丈夫です。信じてください」
ポカンと開けた口を閉じて、彼は肩をすくめた。
「どうやら俺は君を誤解していたようだ。今まで俺の呪いを解きに来た者で危険を冒してまで呪いを解こうと試みたものは一人もいなかった。君はなんて慈悲深いんだ。本物の聖女だったんだな」
彼はふっと微笑んだ。なんて美しい人なんだろう、と私はドキッとした。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる