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第十章 タイムリミット3年の妊活(蓮side)
52.僕のじいちゃん
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実は僕には一つだけ朋美さんに正直に話していないことがある。
それは結婚式の数日前、急に祖父母の家に呼ばれて僕が仕事帰りに一人で行ったときのことだった……。
祖父は僕に不動産の運用と始めたばかりのサロンの経営がうまくいっているのか聞きたかったようだった。きっと心配だったのだろう。
どちらも思った以上にうまくいき僕自身驚いていると伝えると嬉しそうだった。
「なにもかも全部じいちゃんのおかげだよ。不動産やサロンの経営がうまくいっているのも、淳士から朋美さんを取り返して、僕が彼女と結婚できるのも……」
本当にそうだった。祖父がいなかったらと考えるとぞっとする。
「そうかい、わしのおかげかい……」
祖父はしわの深い顔で笑った。
そういえば最近祖父はずいぶん痩せたような気がする。肩や腰を揉むと骨ばっているのがよくわかる。
それを本人に聞いてみても、「わしも年を取ったからのぉ」と言うだけだった。
「うん、本当にじいちゃんのおかげ。僕はずっとじいちゃんに恩返しがしたいと思っていたんだ」
「はは、そうかの? 恩返しなんて大げさじゃが……。まあ、ひ孫の顔は見せてもらいたいもんじゃのぉ。なるだけ3年以内に……」
どうして3年以内なんて言うのだろう……、と僕は不思議だった。
けれど祖父の家を後にすると、間近に迫った結婚式のことなどで頭がいっぱいになり、そのことはとりあえず深く考えることなく日々が過ぎた。
結婚式を終えてしばらく経ったある夜、僕は自分の部屋で一人、パソコンに向かって資料をまとめていた。
ああ、目が疲れた……。椅子に座ったまま伸びをして、一息つこうと机の上のコーヒーの入ったカップへ手を伸ばしたとき、不意に先日、祖父の言っていた言葉が脳裏に蘇った。
「うーん……、子供かぁ……」
正直、僕はまだ子供のことは考えていなかった。
そりゃ将来的には子供がいれば楽しいと思っている。僕と彼女の愛の結晶なわけだし、もちろん興味がないわけじゃない。
だけど、結婚してすぐに、子供ができて朋美さんが子供に付きっきりで、僕の顔も見ずに「今忙しいのよ、その辺にあるもの適当に食べて」なんて冷たくあしらわれたら、それだけで僕はきっと寂しくて泣いてしまうだろう……。
僕は異常なほど朋美さんが好きで好きでどうしようもない人間なんだから。大好きな朋美さんと結婚できたんだから、しばらくは彼女を独占してイチャイチャしていたい、それが僕の本心だった。
***
新しい店舗を工事の進み具合を見に行ったとき、たまたま祖父母の家が近いことに気がついて寄ってみることにした。
電話もせずに急に訪ねてきた僕に祖母は驚いていた。
「たまたま仕事で近くを通ったからね。新店舗がここから割と近いんだよ」
「せっかく寄ってくれたのに残念ね、おじいさんは今ちょっと出かけてるのよ」
祖母にお茶を淹れてもらって、僕が駅前の和菓子屋で買ってきた豆大福を二人で食べた。
そして僕は祖母の肩をマッサージしながら、
「ねえ、ばあちゃん……。じいちゃんが早くひ孫の顔を見せろって言うんだ。でも僕は朋美さんとの甘い新婚を満喫したくてね」
と相談してみた。
「ふふ、そりゃ新婚はいいものだものね」
「って言ってもここしばらくお互い忙しくて家でのんびり過ごせてないんだけどさ……」
僕はあの疑問をこっそり祖母に聞いてみることにした。
「そういえば、じいちゃんはひ孫をなるだけ3年以内にって言ったんだ。……どうして3年以内に、なんて言うんだろう?」
祖母は困った顔で苦笑いした。
「ああ、蓮が揉んでくれてばあちゃんの肩ずいぶん楽になったわ。そうだ、さっき炊いたおこわがあるの。おにぎりにして持たせてあげようかしらね」
エプロンをつけて台所へ向かう祖母を僕は追った。
「ばあちゃん、なんか知ってそう……」
ラップ越しにおにぎりを握る祖母の慣れた手つきを見ながら僕は詰め寄った。
「……なんかって何を?」
「その3年以内にって話だよ……」
祖母は黙り込んでしばらく言うのを躊躇っていたけど、とうとう僕に打ち明けてくれた。
「実はね、おじいさんは癌なのよ……」
「えっ……!?」
寝耳に水だった。言われてみればここ数年でずいぶんと痩せたとは思っていたけれど……、まさか、そんな……。
「癌って、どこの癌? もしかして余命が3年なの? 嘘だ、そんなの、嫌だよ!」
「……ねえ、嘘ならよかったのにねぇ……」
おにぎりをビニール袋に入れて、彼女は指先で目尻の涙を払った。
うわ、本当なんだ……。
「今日出かけているって言ったのも……もしかして病院?」
祖母はゆっくりと頷いた。僕はあまりのショックでキーンと耳鳴りがして軽い立ちくらみを感じた。
それは結婚式の数日前、急に祖父母の家に呼ばれて僕が仕事帰りに一人で行ったときのことだった……。
祖父は僕に不動産の運用と始めたばかりのサロンの経営がうまくいっているのか聞きたかったようだった。きっと心配だったのだろう。
どちらも思った以上にうまくいき僕自身驚いていると伝えると嬉しそうだった。
「なにもかも全部じいちゃんのおかげだよ。不動産やサロンの経営がうまくいっているのも、淳士から朋美さんを取り返して、僕が彼女と結婚できるのも……」
本当にそうだった。祖父がいなかったらと考えるとぞっとする。
「そうかい、わしのおかげかい……」
祖父はしわの深い顔で笑った。
そういえば最近祖父はずいぶん痩せたような気がする。肩や腰を揉むと骨ばっているのがよくわかる。
それを本人に聞いてみても、「わしも年を取ったからのぉ」と言うだけだった。
「うん、本当にじいちゃんのおかげ。僕はずっとじいちゃんに恩返しがしたいと思っていたんだ」
「はは、そうかの? 恩返しなんて大げさじゃが……。まあ、ひ孫の顔は見せてもらいたいもんじゃのぉ。なるだけ3年以内に……」
どうして3年以内なんて言うのだろう……、と僕は不思議だった。
けれど祖父の家を後にすると、間近に迫った結婚式のことなどで頭がいっぱいになり、そのことはとりあえず深く考えることなく日々が過ぎた。
結婚式を終えてしばらく経ったある夜、僕は自分の部屋で一人、パソコンに向かって資料をまとめていた。
ああ、目が疲れた……。椅子に座ったまま伸びをして、一息つこうと机の上のコーヒーの入ったカップへ手を伸ばしたとき、不意に先日、祖父の言っていた言葉が脳裏に蘇った。
「うーん……、子供かぁ……」
正直、僕はまだ子供のことは考えていなかった。
そりゃ将来的には子供がいれば楽しいと思っている。僕と彼女の愛の結晶なわけだし、もちろん興味がないわけじゃない。
だけど、結婚してすぐに、子供ができて朋美さんが子供に付きっきりで、僕の顔も見ずに「今忙しいのよ、その辺にあるもの適当に食べて」なんて冷たくあしらわれたら、それだけで僕はきっと寂しくて泣いてしまうだろう……。
僕は異常なほど朋美さんが好きで好きでどうしようもない人間なんだから。大好きな朋美さんと結婚できたんだから、しばらくは彼女を独占してイチャイチャしていたい、それが僕の本心だった。
***
新しい店舗を工事の進み具合を見に行ったとき、たまたま祖父母の家が近いことに気がついて寄ってみることにした。
電話もせずに急に訪ねてきた僕に祖母は驚いていた。
「たまたま仕事で近くを通ったからね。新店舗がここから割と近いんだよ」
「せっかく寄ってくれたのに残念ね、おじいさんは今ちょっと出かけてるのよ」
祖母にお茶を淹れてもらって、僕が駅前の和菓子屋で買ってきた豆大福を二人で食べた。
そして僕は祖母の肩をマッサージしながら、
「ねえ、ばあちゃん……。じいちゃんが早くひ孫の顔を見せろって言うんだ。でも僕は朋美さんとの甘い新婚を満喫したくてね」
と相談してみた。
「ふふ、そりゃ新婚はいいものだものね」
「って言ってもここしばらくお互い忙しくて家でのんびり過ごせてないんだけどさ……」
僕はあの疑問をこっそり祖母に聞いてみることにした。
「そういえば、じいちゃんはひ孫をなるだけ3年以内にって言ったんだ。……どうして3年以内に、なんて言うんだろう?」
祖母は困った顔で苦笑いした。
「ああ、蓮が揉んでくれてばあちゃんの肩ずいぶん楽になったわ。そうだ、さっき炊いたおこわがあるの。おにぎりにして持たせてあげようかしらね」
エプロンをつけて台所へ向かう祖母を僕は追った。
「ばあちゃん、なんか知ってそう……」
ラップ越しにおにぎりを握る祖母の慣れた手つきを見ながら僕は詰め寄った。
「……なんかって何を?」
「その3年以内にって話だよ……」
祖母は黙り込んでしばらく言うのを躊躇っていたけど、とうとう僕に打ち明けてくれた。
「実はね、おじいさんは癌なのよ……」
「えっ……!?」
寝耳に水だった。言われてみればここ数年でずいぶんと痩せたとは思っていたけれど……、まさか、そんな……。
「癌って、どこの癌? もしかして余命が3年なの? 嘘だ、そんなの、嫌だよ!」
「……ねえ、嘘ならよかったのにねぇ……」
おにぎりをビニール袋に入れて、彼女は指先で目尻の涙を払った。
うわ、本当なんだ……。
「今日出かけているって言ったのも……もしかして病院?」
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