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第四章 意地悪な同期 (千晴side)

21.いけ好かない野々原

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「ねー、パパ♡ なるべく大口契約してくれそうな大企業の社長を紹介してよー♡」
 繁華街を歩きながら僕はパパの腕にすり寄った。
 髪も薄くてお腹の出たこの中年おやじに内心僕は好意なんて全く持っていない。それどころか嫌悪感さえ抱いているけど、なにしろこのパパは色々な業界に顔が広いから客を紹介してもらうのに都合がいい。

「はは、そんな人いるかな? 正直そういう人はもう君に紹介しつくしてるんだけどな」
「えー、そんなこと言わないで♡ いい人紹介してくれるなら僕、今夜いっぱいサービスするから♡」
 僕たちがホテルに向かって歩いていた通りにある高級レストランから、なにやら見覚えのある人物がイケメンの男性と出てきた。

 まさかこんなところで見かけると思わなかったから、一瞬誰だかわからなかったが、それは同期の野々原蒼だった。
「げ、野々原……」
 なんであいつがあんないいレストランから出てくるわけ!?
 しかも連れのイケメンといい雰囲気っていうのも生意気だ。

「あ、藤崎社長だ……」
 野々原の連れのイケメンを目配せして、パパが僕に耳打ちした。
「え?」
「あの人、藤崎麗夜って言って、美麗クリエイションっていうアダルトグッズの会社の社長だよ」
「美麗クリエイション……?」
 どこかで聞いた名前だ……。
「知らないの? どんどん事業拡大して今、乗りに乗ってる会社だよ」

「あ、そうか。野々原が大口契約取った会社だ!」
「ふーん、じゃああの子も枕営業してるんだね? 藤崎社長は遊び人だから。あのムードで手を出していないはずがないよ」
 パパはにやりと僕に笑いかけた。
 あの地味な野々原に限ってまさか……。

 でも、そういえば入社以来ずっと同じ安物のリクルートスーツで仕事をしていたあいつがさり気なく新しいスーツを着て来たり、雑用の残業を頼まれたときに「今日は約束がありますから」とそそくさと帰って行ったり、なんかおかしいとは思っていたんだ。

***

 翌日、僕は営業二課のほとんどの人間が外回りに出て、課長が会議で席を外すタイミングで、課長の机の引き出しに保管しているファイルをこっそりと手に取った。野々原の契約取得履歴が収められているファイルだ。
 それを見ると、なんとあいつが今まで取ってきた契約は、全てあの藤崎社長からの紹介だと記されていた。

 社長からの紹介で契約を取ることは全然悪いことじゃない。僕だって今までほとんどの契約をパパからの紹介で取っているから。
 でもあの地味で貧乏な野々原が僕と同じようにうまく立ち回るなんて生意気で腹立たしい。おまけにその相手が若くて格好良くてお金持ちな藤崎社長ってことも気に食わない……。
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