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13.何しに来たっ!

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 憎きリヒトをどうしてくれようか。ひっ捕らえて牢獄で拷問刑か、いっそのこと我ら魔族が本気を出してサムガリア王国の全土を一気に焼き払い王国の全ての人間を滅ぼしてやるか。

 仕事に集中出来ず、我は自室のバルコニーで赤ワインを飲みながら三日月と星の輝く夜空を眺めているうちにそんなことを考えていた。

 心臓がドクン、ドクンッ、と激しく脈打ち、体の奥が痺れ、ペニスが焼けるように熱い。相変わらず発情が続いている。
 少し横になるかと部屋に戻ろうとした時、

「おーい、ルシファーッ!」

 とバルコニーの下で声がした。この声は忘れもしない……。

「リヒト……?」

 目を凝らして見ると、地上で黒髪の剣士がこちらに手を振っていた。
 どうしてだ。なぜ奴が再び魔王城へ来たのか。

「貴様、なぜっ!」

 ブライアンたちが騒いでいないということは、どうやら警備が手薄な裏から侵入したようだ。しかしいくら警備が手薄でも、塀の外は先の尖った杭が無数に立てられた谷になっていて、並の人間には上がって来られるはずがない。なんて身体能力の高い奴なんだ。

 しかしそんなことは後だ、見回りの者に見つかれば大変なことになる。我はロープを投げて、奴をバルコニーに引き上げた。

「おい、貴様っ。再び我が城に侵入するとはどういうつもりだっ!」

 他の者に見られないうちに急いで奴を部屋にかくまい、バルコニーの扉とカーテンを閉めた。

「あ、やっぱりこの前の首飾りは偽物かぁ」

 我の首元に光る赤い魔石の首飾りを見て奴は言った。

「フン、あれが偽物だと気づいて本物を奪いに来たのか?」

「ううん、違う。今日はルシファーに渡したいものがあって来たんだよ」

 奴のそばによると妙に胸が騒いでしまう。ついさっきまで裏切られたことに対する怒りに狂っていたというのに、奴のニコッと笑う顔を見るともう睨みつけるのが精一杯だ。こいつの不思議なオーラにまた我は調子を狂わされてしまう。

「……渡したいもの、だと?」

 我が睨みつけると奴は背負っていたリュックを床に下ろして、包みを取り出した。

「じゃーん。ほら、早く開けて、開けてっ」

 包みを開けると、我が腰につけていた鎧とよく似たものが出てきた。

「この前、俺が鎧を壊しちゃったから、お詫びにと思って」

「なんだと……?」

 驚いた。リヒトは我に詫びがしたくて、トラップだらけの危険な魔王城にやって来たというのか。途中で命を落とすことだってありうるのに。

「俺もホストしてたとき、客にゲロかけられてスーツ台無しにされたこと何回かあったけど、そういうときしらばっくれられると嫌な気持ちになったからね。金を払ってるんだからホストに対して何してもいいって思ってる客って結構いるからさ……。でも俺はひどい扱いを受けてもいい人なんてこの世にいないと思うんだよね」

 魔王の子として生まれた我は、物心つく前から人間に見つかれば石を投げつけられたり罵倒されたりしてきた。彼らは自分たちの過去の行いを棚に上げ「魔族=悪」と決めつけていた。
 リヒトのように人間も魔族も公平に想う人間がいるなんて。

「同じものは見つからなかったけど、似てるやつ探して来たんだ。ねぇ、さっそくつけてみてよ」

「くっ、いいだろう……」

 リヒトを待たせ、浴室で黒い皮のズボンを脱いで鎧をつけて見せた。

「おお、いいじゃん」

 嬉しそうに奴は微笑んだ。
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