最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第○章**私の心を乱さないで

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私の世界は、とても狭い。
小さい頃から本が好きで、本に囲まれて仕事をするのが夢だった。
司書の資格と、国語の教員免許を取得したら、司書教諭の資格もついてきた。
学生の時は公立の図書館しか考えてなかったけど、いざ仕事を探す時になったら学校図書館もいいなって思えた。
まだ本の面白さを知らない子たちを本の世界に誘惑しちゃうのだ。

そうして、就職したのがこの学校の図書室。
図書室には珍しく、3階にあるから朝から階段が少し辛い。
新刊を運んでくれる宅配業者さんにいつも申し訳ないなって思う。
特別教室しかないし、3階にあるせいか、昼休み以外に来るのは本当に本が好きな子たちが多い。
その昼休みも、冷暖房目当てで、それ以外は雑誌の新刊が出るあたりに少し人が増えるくらい。

地味で根気が必要で、周りが思うよりも仕事が多くて、帰りもなかなか遅い。
でもとても楽しい。
私だけの世界に、時々お客さんが来て、接待しては帰していく。
そんなお客さんの中には、たまにすごく近くまで歩みよる子がいて、私もたくさんのことを学ぶ。

でも、こんなに悩んで、困って、どうしたらいいかわからなくなったのは初めてで…やめて…欲しい。
私の心を、乱さないで欲しい。
のんびりしてるように見えてたって、私だって傷つくのに。
ただからかってるだけとか、一時的な感情とか…そんなので、振り回さないで欲しい。
あんなこと…きっと、彼にはなんでもない気まぐれ。
でも、私には大事なことなのに…!!

最初のキスは、ただただびっくりした。
最後に唇をペロッてされて、驚いて心臓が跳ねた。
その日は、何も考えられなくて、どうやって帰ったかもよく覚えてない。
気づいたらアパートにいたけど、思い出すのは…彼の匂いと、唇の感触。それから瞳の色と、笑顔と、声。

しかたないでしょ!?初めてだったんだから!!
そうっ!!そうだ!!「彼 」じゃない!!生徒だもの「あの子」で十分!!

なにを一人の男の人として考えてるの?
ただの、生徒。生徒の気まぐれだ。
そこまで思って、ますますムーっとした。
そう、ただの気まぐれなんだ。
気まぐれで、あんなことをするなんて!!
乱れてる!!そう、篠原くんの女性関係は、噂通り乱れてる!!

私が名前を言い当てたらびっくりしてたけど、先生方で彼を知らない人はまずいない。
去年色々あって、ちょっとした騒ぎだった。
そう、女性関係…で。
私には無縁の話だったから、どこか上の空で聞いてたけど…まさか、こんなことになるなんて。

いっぱいいっぱいの頭で色々考えて…
そのたび彼の、いや、あの子の、声や笑顔に邪魔されて、結局眠れなかった。
次の日、篠原くんが初めて昼休みにやってきた。
脅す気なのか、それともからかう気なのか。
すっごく緊張した。
オススメの本を受け取るときに、手が触れて…指の熱が、なかなか引いてくれなかった。
あの子がいたのはそんな長い時間じゃなかったけど、気になって、心臓がバクバクして。
結局、昼休みからあとは仕事が手につかなくて…いっぱい、間違えた。

数日間は、ただ昼休みに来ては、ふらっと帰って行くだけ。
篠原くんが来るたびに、緊張して息苦しかった。
特に話しかけたりはしなかったから、少しだけ余裕ができた。
その間、考え抜いた結論は…
「やっぱり、ただの、気まぐれ」
他の子と一緒で、ただからかったり、ぷにぷにしたお肉に、勝手に癒されたり、そんな感じ。
うん。きっと、篠原くんにとっては、なんでもないことだ。
他の子は、まさかあそこまで…ペロッとか、くちゅっとか…
また思い出して、頬が熱くなる。
ごほん。
他の子はあそこまでしないけど、あの篠原くんならもしかして、平気でしちゃうのかもしれない。
そう、からかってるだけだ。

もしそうなら、それは先生らしくない私にも非がある。
もしくは、体調悪かったから…正常な判断ができなかったんじゃ!?だとしたら、やっぱり私のせい。
やっぱり私の判断が甘かったんだ。
そう思って謝ったら、篠原くんはすごく怒って…
前にも吸い込んだその匂いを、意識したときにはもう遅くて。
頭の後ろにおかれた手が、おっきくてびっくりした。
突然だったのと、怖かったのとで、少しも動けなかった。
二回目のキスは…映画とかでよくみる、口を開けるやつ。
ほらね。キス一つ説明するのに、経験が乏しいから…
こんなお粗末な伝え方。
し…舌が入ってくるやつ。
映画でも、本でも、ニュアンスしか伝わってこないから…

びっくりした。息できなくて。
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