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第2章*放課後の図書室に
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ことさらゆっくりとカウンターに近づいていくと、マルが緊張するのがわかった。
そんなマルの視線を、余裕の笑みで受け止めてカウンターの横を通り過ぎる。
カウンターに向かって右は出入り口、左には奥の本棚が並んでいる。
カウンターの裏にある準備室の、ちょうど隣のスペース。
あんま来たことがないから、どんな本があるのかと見て回る。
古い新聞やら、雑誌のバックナンバーやら…あとは、いろんな作家の全集が並んでいる。
つまり、あまり人が来ないというわけだ。
なかなか居心地がいい。
こっちには、冷気があんまり来ないようだけど、暑いって程でもない。
適当な雑誌をとって、左奥の死角になった通路までいって腰をおろした。
ちょっとホコリっぽいけど、本の匂いはそうイヤじゃなかった。
まぁ…10分くらいで寝たけど。
いつの間にか眠ってしまって、声をかけられるまで気がつかなかった。
「…篠原くん」
こんなにも心地いい声があるなんて。
もう一回呼んで欲しくて、寝たフリを試みた。
「篠原くん…起きて」
そっと肩に触れた手が、俺を揺り起こす。
………イイッ!!
名前を呼びながら、揺り起こしてくれるなんて。
すぐに起きなくて良かったと、愚かにもそう思った。
ゆっくりと目を開くと、思ってたよりもマルの瞳が近くてびっくりした。
「あのね、話があるの」
顔を赤らめて彼女が密やかにささやいた。
「…全員帰った?」
どれくらい寝てたんだろう。
二人きりで緊張して、ちょっと声が震えた。
「あ、うん。いつも5時半にはだいたいみんな帰るから」
“仕事もあるし、部活の生徒が帰りに本借りたりするから…”そういいながら、ちょっと間をあけて隣に座る。
「仕事終わるまで一応開けてるの。夏だと、7時くらいまで」
その近さと、マルの香りに落ち着かなくなる。
この間よりずっと離れてるけど、それでもあの日と同じ位置。
それだけでマルの方を見ることができない俺は、とりあえず“そっか”としかいえなかった。
「で、何?」
マルが何を話したいのか、当然わかってるけどわざと聞く。
「この間のこと…」
もちろんそうだろう。でも、その後に続いたのは、あまりに意外な言葉だった。
「その、ごめんなさい」
「………………は?」
たっぷり時間をかけてまで、まぬけな声を出してしまった。
「あの、意識がしっかりしてなかったみたいだから、やっぱり処置できる教員を呼べば良かったと思って…」
ずっと考えてたといわんばかりの台詞を、いっきに吐き出した。
俺が黙ってると、さらにその声で続ける。
「私も気にしないようにするし…篠原くんも」
「あの日の俺は、確かに自分でもおかしかったと思うけど!!」
続きなんて言わせたくなかった。
言わせる気なんてなかった。
図書室にふさわしくない大きな声が、それに慣れていないだろうマルを震わせた。
でも、気遣ってはあげられなかった。
気にしないで
忘れて
たぶん、そんな言葉。
絶対に、聞きたくない。
「…なかったことにはしない」
嫌がられてるかなとか、おびえさせたかなとか、そんな風に思ったりしてたけど…
本気にしてもらえないのも、覚悟の上だったけど…
まさか、なかったことにされるなんて。
俺の胸はマルの言葉に一喜一憂して、ちゃんとはずんでる。
痛みもするし、いらだちもする。
これはもう…恋だって、覚悟も決めた。
まさか、マルも同じ想いだなんて、そんな都合良く思っちゃいなかったけど。
「なかったことには、しない。俺は!!」
もう一回いってマルをみた。
びっくりして、目を見開いている。
「でも、あの…」
あの日みたいに、右手で彼女の左手をつかんだ。
びくっと手を引っ込めようとしたけど、そんなこと許さなかった。
「あの日は意識が…」
それでも、何か言おうとしたその唇を…
緊張でちょっと乾燥した自分のそれで、ふさいだ。
空いた手でマルの後頭部を押さえて、絶対逃げられないようにして。
あの日と同じ柔らかな唇。
ただ、違ったのは、俺の聞きたくない言葉を紡ごうとしていたから…
最初から、誘うように開かれていた。
柔らかい唇を感じたとたん、なにも考えられなくなる。
気づいたときには、舌を差し入れて、甘い口内を味わっていた。
マルが右手で俺の胸を押し返したけど、引き離せるわけがない。
マルがやめて欲しいって思う気持ちなんて、俺の唇を味わいたい気持ちに勝てるわけない。
なかったことにしたい気持ちだって、俺の忘れて欲しくない気持ちに、絶対勝ててない。
マルを困らせたくないけど…
そんなマルの視線を、余裕の笑みで受け止めてカウンターの横を通り過ぎる。
カウンターに向かって右は出入り口、左には奥の本棚が並んでいる。
カウンターの裏にある準備室の、ちょうど隣のスペース。
あんま来たことがないから、どんな本があるのかと見て回る。
古い新聞やら、雑誌のバックナンバーやら…あとは、いろんな作家の全集が並んでいる。
つまり、あまり人が来ないというわけだ。
なかなか居心地がいい。
こっちには、冷気があんまり来ないようだけど、暑いって程でもない。
適当な雑誌をとって、左奥の死角になった通路までいって腰をおろした。
ちょっとホコリっぽいけど、本の匂いはそうイヤじゃなかった。
まぁ…10分くらいで寝たけど。
いつの間にか眠ってしまって、声をかけられるまで気がつかなかった。
「…篠原くん」
こんなにも心地いい声があるなんて。
もう一回呼んで欲しくて、寝たフリを試みた。
「篠原くん…起きて」
そっと肩に触れた手が、俺を揺り起こす。
………イイッ!!
名前を呼びながら、揺り起こしてくれるなんて。
すぐに起きなくて良かったと、愚かにもそう思った。
ゆっくりと目を開くと、思ってたよりもマルの瞳が近くてびっくりした。
「あのね、話があるの」
顔を赤らめて彼女が密やかにささやいた。
「…全員帰った?」
どれくらい寝てたんだろう。
二人きりで緊張して、ちょっと声が震えた。
「あ、うん。いつも5時半にはだいたいみんな帰るから」
“仕事もあるし、部活の生徒が帰りに本借りたりするから…”そういいながら、ちょっと間をあけて隣に座る。
「仕事終わるまで一応開けてるの。夏だと、7時くらいまで」
その近さと、マルの香りに落ち着かなくなる。
この間よりずっと離れてるけど、それでもあの日と同じ位置。
それだけでマルの方を見ることができない俺は、とりあえず“そっか”としかいえなかった。
「で、何?」
マルが何を話したいのか、当然わかってるけどわざと聞く。
「この間のこと…」
もちろんそうだろう。でも、その後に続いたのは、あまりに意外な言葉だった。
「その、ごめんなさい」
「………………は?」
たっぷり時間をかけてまで、まぬけな声を出してしまった。
「あの、意識がしっかりしてなかったみたいだから、やっぱり処置できる教員を呼べば良かったと思って…」
ずっと考えてたといわんばかりの台詞を、いっきに吐き出した。
俺が黙ってると、さらにその声で続ける。
「私も気にしないようにするし…篠原くんも」
「あの日の俺は、確かに自分でもおかしかったと思うけど!!」
続きなんて言わせたくなかった。
言わせる気なんてなかった。
図書室にふさわしくない大きな声が、それに慣れていないだろうマルを震わせた。
でも、気遣ってはあげられなかった。
気にしないで
忘れて
たぶん、そんな言葉。
絶対に、聞きたくない。
「…なかったことにはしない」
嫌がられてるかなとか、おびえさせたかなとか、そんな風に思ったりしてたけど…
本気にしてもらえないのも、覚悟の上だったけど…
まさか、なかったことにされるなんて。
俺の胸はマルの言葉に一喜一憂して、ちゃんとはずんでる。
痛みもするし、いらだちもする。
これはもう…恋だって、覚悟も決めた。
まさか、マルも同じ想いだなんて、そんな都合良く思っちゃいなかったけど。
「なかったことには、しない。俺は!!」
もう一回いってマルをみた。
びっくりして、目を見開いている。
「でも、あの…」
あの日みたいに、右手で彼女の左手をつかんだ。
びくっと手を引っ込めようとしたけど、そんなこと許さなかった。
「あの日は意識が…」
それでも、何か言おうとしたその唇を…
緊張でちょっと乾燥した自分のそれで、ふさいだ。
空いた手でマルの後頭部を押さえて、絶対逃げられないようにして。
あの日と同じ柔らかな唇。
ただ、違ったのは、俺の聞きたくない言葉を紡ごうとしていたから…
最初から、誘うように開かれていた。
柔らかい唇を感じたとたん、なにも考えられなくなる。
気づいたときには、舌を差し入れて、甘い口内を味わっていた。
マルが右手で俺の胸を押し返したけど、引き離せるわけがない。
マルがやめて欲しいって思う気持ちなんて、俺の唇を味わいたい気持ちに勝てるわけない。
なかったことにしたい気持ちだって、俺の忘れて欲しくない気持ちに、絶対勝ててない。
マルを困らせたくないけど…
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