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第5章*その言葉をかんたんに
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扉から一歩はいって、そこから動けなかった。
経験のない沈黙に、先に耐えられなくなったのは自分だった。
「…………こんちゎ」
初めて自分から挨拶した。
いつも、マルの笑顔と挨拶のお出迎えがあるから。
「…こ、こんにちわ」
マルは、珍しく下を向いたまま挨拶を返した。
こっち…見ないかな。いつもの、かわいい顔で。
そう思って見つめる俺とは視線をあわせず、作業を続けるフリをしている。
そう、フリだって、バレバレ。マルはとってもわかりやすい。
棚から抜いた本を手の中で持て余しながら、迷うように言葉を紡いだ。
「あの…ごめんね」
小さな声で、相手の目も顔も見ずに謝罪するなんて、実にマルっぽくない。
何がっ!?って、不安がよぎる。
謝るような何をしたんだ?って心配になる。
楽しんでこないでっていう、俺の子供じみた願いかなわず…すんごい楽しかったとか?
でも、その先は想像より軽い内容だった。
「いつもより…その、早く帰らせて」
ああ、そこね。ホッとした。
「いーよ。別に」
口を開いて、楽しかった?って言おうとしたけど…
声が出なかった。
きっと体が拒否してるんだ。返事によっては立ち直れないし。
「玉木さんは、よく来るの?」
代わりにそう聞いた。
聞きたくてしょうがなかったことだけど、どうかさりげなく響きますように。
でも、結果は最悪だった。
玉木さんの名前を出したとたん…ずっと伏せていたその顔を、ぱっとマルがあげた。
その顔が、見る間に赤くなる。
あぁ…最悪だ。
これは、何かあった顔だ。
だってキスした時、こんな顔をしていた。
床に縫いつけられていた足は、あっさりその呪縛を解いた。
マルまでほんの数メートル。
近づいただけで、マルが軽く後ろに下がったけど…手首をつかまえた。
それだけで、マルまでつかまえたとは思わないけど。
見開くマルの瞳が、おびえるように揺れた。
ずっとさわりたかった、マルの柔らかな肌。
頭の中で警告がなる。一気に熱くなった血をおさめて、暴走しないようにと自分を戒めた。
「なんかされたの?」
わかってる。ムリヤリ唇を奪った俺がいっていいセリフじゃない。
「…隙が多いんだよ」
マルの目がちょっとうるんだ。
しまった。つい責めるような気持ちを隠せなかった。
だって、本屋で見せてたあのかわいい角度のマル。
俺はいつでもキスをがまんしている。
まだ、玉木さんがマルを好きだって決まってないけど…
卒業して2年もたつのに…マルを食事に誘って、俺への最初の質問は“チョビが好きなの?”だ。
何とも思ってないなんてこと、あるんだろうか?
そんな玉木さんが、俺が思うに1番かわいいマルの仕草を見て俺と同じことをしてしまったら?その唇の誘惑に抗えなかったとしたら?
責められないけど。でも耐えられない。
「いつも無防備なんだよ」
いらだちが募っていく。マルは、悪くない。
俺が…焦ってるだけだ。
「…どっちが良かった?」
違う。こんなこと聞きたいんじゃない。
言っていることがわからなかったらしく、マルの瞳に困惑の色が浮かぶ。
でも、もう止められなかった。
「キスされたんでしょ?」
マルの目が見開かれる。
「ちがっ…」
「俺と、どっちが良かった?」
捕まえて腕に力がはいる。
マルが手を引っ張ろうとしてるけど、離してやらない。
「ち…がうっ」
「じゃあ、赤くなるようなナニされたの?」
素知らぬ顔をしてくれたらいいのに。そしたらだまされたフリをするのに。
なにかされましたと言わんばかりの困った顔。
クソッ!!こんな時でもかわいい。
「それとも…なんか、言われたの?」
知らずに、手に力が入った。
俺がまだマルに伝えてない一言。
それを、玉木さんが先に伝えたんだろうか?
「ちが…う」
かすれた声で、マルが言った。
「じゃ、…なに?」
頭の中で、警報が鳴り響く。マルを…マルを、追いつめちゃダメだって。
そんな権利、俺にはない。
いや…そんな価値なんて、俺にはないんだから。
経験のない沈黙に、先に耐えられなくなったのは自分だった。
「…………こんちゎ」
初めて自分から挨拶した。
いつも、マルの笑顔と挨拶のお出迎えがあるから。
「…こ、こんにちわ」
マルは、珍しく下を向いたまま挨拶を返した。
こっち…見ないかな。いつもの、かわいい顔で。
そう思って見つめる俺とは視線をあわせず、作業を続けるフリをしている。
そう、フリだって、バレバレ。マルはとってもわかりやすい。
棚から抜いた本を手の中で持て余しながら、迷うように言葉を紡いだ。
「あの…ごめんね」
小さな声で、相手の目も顔も見ずに謝罪するなんて、実にマルっぽくない。
何がっ!?って、不安がよぎる。
謝るような何をしたんだ?って心配になる。
楽しんでこないでっていう、俺の子供じみた願いかなわず…すんごい楽しかったとか?
でも、その先は想像より軽い内容だった。
「いつもより…その、早く帰らせて」
ああ、そこね。ホッとした。
「いーよ。別に」
口を開いて、楽しかった?って言おうとしたけど…
声が出なかった。
きっと体が拒否してるんだ。返事によっては立ち直れないし。
「玉木さんは、よく来るの?」
代わりにそう聞いた。
聞きたくてしょうがなかったことだけど、どうかさりげなく響きますように。
でも、結果は最悪だった。
玉木さんの名前を出したとたん…ずっと伏せていたその顔を、ぱっとマルがあげた。
その顔が、見る間に赤くなる。
あぁ…最悪だ。
これは、何かあった顔だ。
だってキスした時、こんな顔をしていた。
床に縫いつけられていた足は、あっさりその呪縛を解いた。
マルまでほんの数メートル。
近づいただけで、マルが軽く後ろに下がったけど…手首をつかまえた。
それだけで、マルまでつかまえたとは思わないけど。
見開くマルの瞳が、おびえるように揺れた。
ずっとさわりたかった、マルの柔らかな肌。
頭の中で警告がなる。一気に熱くなった血をおさめて、暴走しないようにと自分を戒めた。
「なんかされたの?」
わかってる。ムリヤリ唇を奪った俺がいっていいセリフじゃない。
「…隙が多いんだよ」
マルの目がちょっとうるんだ。
しまった。つい責めるような気持ちを隠せなかった。
だって、本屋で見せてたあのかわいい角度のマル。
俺はいつでもキスをがまんしている。
まだ、玉木さんがマルを好きだって決まってないけど…
卒業して2年もたつのに…マルを食事に誘って、俺への最初の質問は“チョビが好きなの?”だ。
何とも思ってないなんてこと、あるんだろうか?
そんな玉木さんが、俺が思うに1番かわいいマルの仕草を見て俺と同じことをしてしまったら?その唇の誘惑に抗えなかったとしたら?
責められないけど。でも耐えられない。
「いつも無防備なんだよ」
いらだちが募っていく。マルは、悪くない。
俺が…焦ってるだけだ。
「…どっちが良かった?」
違う。こんなこと聞きたいんじゃない。
言っていることがわからなかったらしく、マルの瞳に困惑の色が浮かぶ。
でも、もう止められなかった。
「キスされたんでしょ?」
マルの目が見開かれる。
「ちがっ…」
「俺と、どっちが良かった?」
捕まえて腕に力がはいる。
マルが手を引っ張ろうとしてるけど、離してやらない。
「ち…がうっ」
「じゃあ、赤くなるようなナニされたの?」
素知らぬ顔をしてくれたらいいのに。そしたらだまされたフリをするのに。
なにかされましたと言わんばかりの困った顔。
クソッ!!こんな時でもかわいい。
「それとも…なんか、言われたの?」
知らずに、手に力が入った。
俺がまだマルに伝えてない一言。
それを、玉木さんが先に伝えたんだろうか?
「ちが…う」
かすれた声で、マルが言った。
「じゃ、…なに?」
頭の中で、警報が鳴り響く。マルを…マルを、追いつめちゃダメだって。
そんな権利、俺にはない。
いや…そんな価値なんて、俺にはないんだから。
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