最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第5章*その言葉をかんたんに

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本来、自分だって許される立場じゃないくせに止まらない。
焦りとシットが頭ん中を渦巻いて、さらに、マルの困った顔が胸を騒がせた。
「私が…」
マルが一生懸命言葉を探してる。
「わた…しが、自意識過剰なっ、だけで…」
たどたどしく話す姿がかわいい。
そっと手の力をゆるめると、白い肌に赤みが残ってる。
ずっと跡が残ればいいのに…と意地悪なことを思いながら、優しくなでた。
泣かせたくないのに、泣き顔がみたい。
続きを聞きたいのに、言って欲しくない。
のびのびと笑って欲しいのに、閉じこめていたい。
心をかき乱す。マルが…マルだけが。

「あのっ…ただ、私がっ」
「うん。聞いた。“自意識過剰”って。…なんで?」
赤い顔でうつむくから、のぞきこんで聞いた。
「向こうにとっては…きっと、たいしたことなくて」
乱暴な手から逃がして、優しく聞いたから、マルも少し落ち着いてきた。
「でもっ私っ…男の人に…免疫がないのっ!!」
涙目で、最後は怒ったように言い切った。
あ…ちょっとスネた顔。めずらしい。
だめだ。俺って単純…あんま見れない表情に、口元がゆるむのをとめられない。
スネた顔のその目に、涙がたまっていく。
「なのに…なんでっ、二人ともっ、私をっ…からかうの」
赤くなった手首を、そっとなで続ける。
「勝手にっ、キッ…キスしたり」
…うん。それはごめんなさい。
「本にっ…口づけしたりっ」
…はっ!?あんのキザヤロー!!
「なんでっ、きゅっ急にっ」
マルが、しゃくりあげながら続ける。
そっと、涙に張り付いた横髪をなおしてやる。
肩までの髪に触れるとき、バカみたいに緊張した。
「………っ」
それ以上言葉が続かなくなって、ついには…
「………ばかぁっ!!」
他になんにもいえなくなったマルは…最終的には、長く使い古された悪口に落ち着いた。

「…ごめんね」
まいったなぁ。かわい過ぎて、どうしたらいいかがわかんなくて。
とりあえず謝ってみる。ちょっと迷って…頭をポンポンしてみた。
離れがたくて、そのままおずおずとなでる。
こんなに、おびえながら女に触るのは初めてかもしれない。
しゃくりあげながらも抵抗はなかったからホッとした。
今日は、目の前のマルにキスをがまんしなくてすんだ。
なんか、これだけで幸せで。
中学生みたいな気恥ずかしさが襲ったけど、それすらも心地よかった。
あぁ、俺って…好きな女の前では、ずいぶんとヘタレだったんだなって思った。
やっと落ち着いてきたマルは、鼻をズズッと言わせながらもまだ顔をあげない。
耳が真っ赤だ。これは…もしかして。
「マ~ルッ?」
「…あ…あのっ…」
照れてるのかな?なでていた頭を、再びポンポンしながらのぞき込んだ。
耳も、顔も、目も真っ赤。さっきまで保たれていた俺の理性は、早くもグラグラと揺らぎだす。
「顔、洗う?」
そう聞いたら、コックリとうなづいた。幼稚園児みてぇ。

図書準備室には水道もある。
そっと、背中に手をあててうながすと、マルはゆっくりと動き出した。今関係ないけど…背中もぷにっぷに!!
カウンターの中に、準備室へのドアがあって、そこまで来たとき、マルが身じろぎした。
「ひ、一人でっ、…へーきっ」
深追いせず、名残惜しい手を、言われるまま離した。
肉厚の背中を堪能していた手が、急に淋しい。
準備室に想い人が消えていく。
…あーぁ。もっと、触れてたかった。
水道の音が聞こえる。その間、じっと自分の手を見てた。
次、こんなにもマルに触れられるのはいつだろう。
ぱちゃぱちゃと、かすかに水音が響いた。
自分の手をみていて、ふとマルの手首を思う。
もっと、感情をコントロールしなきゃ…シットにかられて、最低なことをした。
マルは、いつも俺を狂わせる。
そのすべてが、俺を。
こんなの、いつもの俺じゃない。
でも、それでマルを傷つけるなんて…最低だ。
ただの、シットで。ただの、対抗心で。
マルの柔らかな手首に跡をつけてしまった。

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