最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第5章*その言葉をかんたんに

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キュッと蛇口を閉める音ではっとした。マルが、バツ悪そうに出てきた。
でも、それ以上に気まずいのは俺の方で。
「本当に!ごめんっ」
先手必勝!!深々と頭を下げて謝った。
頭をあげたら、びっくりしたマルと目があった。見開かれて、まんまるの目。
うぅ…このまま連れ去りたい。
マルは、まだ赤い目をしていた。
でも、顔は洗って少しはすっきりしていた。
減ってた頬の赤みが…じっと見ているうちに、また戻ってきた。

「あ、の…私も…泣いたりして…」
マルが、しどろもどろ言葉を紡いだ。
「俺が怖がらせたからっ…本当ごめん」
許して…くれるだろうか?
頭の隅で、玉木さんならそもそも…マルを怖がらせたりしないんだろうなと、情けなくもそう悟った。
「…っち、ちがうの」
意外なくらい、しっかりとした声が響いた。
「私が、変に意識しちゃったから…」
語尾が小さく消えて行くマルを見て、その“意識しちゃった”って、俺もちゃんと入ってはるだろうかと心配になる。
あんのキザヤローこと、玉木さんだけじゃなくて、同じ顔でマルが戸惑った、俺とのキスも…ねぇ、ちゃんと入ってる?
…情けないことに、聞く勇気はなくて。
俺…こんなんじゃなかったけどなって、自分のヘタレ具合が哀れにすら思えた。

「…でも、手首、キツくしすぎた」
ぱっとマルが手首を押さえた。
「ごめん。玉木さんに…シットした」
目を逸らさずにいった。
マルの想いを聞くのは少しだけ怖いけど、自分の気持ちを伝えるのは平気。
卒業までに、本気だって伝えて…まだいえてない“好き”を少しずつ信じてもらわなきゃいけない。
マルが真っ赤になるのを、もう何度もみたけど…それ以上に赤くなる事があるなんて思わなかった。
それくらい朱に染まったマルを、きっと、一生忘れない。

耐えきれなくなったのか、マルがうつむいた。
下を向いて、口の中でもごもごとつぶやくのを、かろうじて聞き取る。
「…そんな…こと簡単にいわないで」
だって、簡単だから。もう、はっきりしてるから。
マルを好きだって。これは…恋だって。
思ったまま口に出すのは、マルの気持ちを探るよりも、ずっとずっと簡単だ。
空調の音や締め切った窓では防ぎきれない部活の喧騒が、微かに2人の耳に届いた。

顔をあげられないかわいそうなマルは、すっごく愛しいけど…そろそろ解放してあげよう。
「俺、もうちょっと大人になるよう頑張るよ」
そういいながら、昨日借りた本を取りだした。昨日の夕立から、本を守っていたビニールごと。
「本、返していい?」
そういうと、やっと顔をあげてくれた。
「あ、うん」
ビニールから、そっと本を取り出す。
マルの居場所を作ってくれてる、大事なものだから…そっと、そっと。
最初の頃と違って、俺も本を大事にしてる。
マルの大切なもの。そう、そして…俺とマルを、毎日つないでくれるもの。

本をカウンターに差し出して、マルを見ると、マルはじっと俺の手元を見ていた。
頬の赤みはだいぶおさまってる。
「…篠原くんは、本をとても大事にしてくれるのね」
理由を知ったら、気持ち悪がったりしないだろうか?
「うれしい」
そういって、やっと視線をあわせてくれた。
閉じこめて、誰にも見せたくないような…優しくて、かわいい、とにかくとびきりの笑顔でこう続けた。
「篠原くんの、そういうところ……好き」

……………………マジで、カンベンしてください。

さっき、自分は“そんなこと簡単にいわないで”とかいっときながら…その言葉をかんたんに俺にむけるマル。
こんな無害な顔をしといて、もしかして、もしかしたら…うん。世界一、残酷かもしれない。
「……………俺…ちょっと水飲んでくる」
1階まで駆け下りて、冷水器にたどり着く。
水が光を受け止めながら、重力に精一杯逆らって吹き上がる。
冷たい水をのどに流し込んだけど、熱はいっこうに収まらない。
マルの声が頭の中を響いてた。そのまま、冷えた水を顔で受け止める。
髪まで濡らしながら今日一番の、マルの赤面よりも、もっともっと赤いかもしれない、情けない自分の顔を…おさまるまで、ひたすら清め続けた。




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