最初に好きになったのは…声

高宮碧稀

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第6章*もっと…笑ってみせて?

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マルはなかなか戻らなかった。
かえってよかったかもしれない。タオルから香るマルの匂いが、気持ちを穏やかにしていく。
マルの声は心を乱すのに。
どっちにしても、こんなの初めてだった。マルのためなら、強い意志を貫ける。
でも、マルのせいで、心は弱くなって…情けなくおそれたり、醜くシットしたり。
そんな自分の変化が、不思議とイヤじゃない。
マルを想う。
今日の泣き顔もかわいかった。
笑顔で“好き”と言われて、ついつい逃げ出すくらいうれしかった。
どっちも、捨てがたいけど…やっぱり、笑顔の方が。うん。マルに似合う。
笑顔を思い出して、頬がゆるむ。
その時、準備室のドアが開く音がして、鼓動がはねた。足音が近づいて来たから、むくりと身を起こす。

体は起こしたものの、タオルをかぶって座ったままの俺を見て、マルが俺の横のイスを引いた。
トナリ?ドキッとしてチラリと盗み見たけど…残念ながら、一つ席が空けられていた。
ちぇって思ったけど、まぁ、警戒されるようなマネを…しちゃってます。ゴメンナサイ。
「はい。これ…」
空いた空間に、そっと置かれた本は、今までとちょっと雰囲気がちがった。
これまでは、なんていうか…マルっぽい本だった。淡い色彩の表紙が多くて。今回の本は、黒っぽい表紙に、赤い文字がおどっている。
「ありがと」
そういいながら本に手を伸ばす。

「なんか…めずらしいね」
そういうと、ちょっとあわてた様子のマル。
「そうっ!?なっ、なにが!?」
タオルをちょっとずらしてマルを見る。
「ん…こういう表紙の今まで借りてなかったから」
なぜか、マルの頬が朱に染まる。
「っ今回は、ミステリーなのっ!!男の子にもいいと思って」
“いっ今、すごく人気の作家さんなんだよ”と続けたけど…
「なんでそんな緊張してんの?」
ドモり過ぎですけど。
「べ別にっ、緊張してなんかっ…」
それだけ言うのに、息を切らしてる。いやいや、緊張して息吸えてないんじゃ…?
「ミステリーが面白かったら、しばらくそういうのにするからっ」
一気にまくしたてる。

「…うん。まぁ、マルのオススメならなんだっていいけど」
あ…この言い回しは、なんかハズい。
「マルのオススメ…どれも面白いから」
照れ隠しに、つけ足してそういった。
「…えっと、ありがとう?」
だからぁ、上目づかいは禁止だってば!!
俺の中だけでだけど…しかも頬赤らめて!!照れてるんだろうけど!!
小首をかしげて、朱に染まった頬で上目づかい“ありがとう”なんて…俺の理性を試す気だろうか?
もちろん、がまんしますよ。その他大勢と一緒にされるのはごめんだし。
あまつさえ、欲にまみれた、いっぱいいっぱいのキスを…“誰にでもする行為”とか認識されちゃこまる。信用を取り戻さなくちゃだ。
ぐっと、キスをがまん。それどころか、抱きしめるのもがまん。
さっきなでた、髪の感触がよみがえっても…触れることすら、がまん。

泣きやんじゃったから、もぅ触れない。
………ちっ。
泣かれたら困るけど、そこが複雑なところだ。
「なんで急に傾向変わったの?」
マルをつかまえようとあえぐ右手を、ぐっと押さえながら聞いた。
「だって、たま…」
いいかけて、マルがハッという顔をした。
たまっ!?今、“たま”っつった!?
イラってするけど…マルのあせった顔が愛しくて…俺が不機嫌になるって、いい加減気づいてくれてるってことだし。
ある意味一歩前進?無理矢理か…うん、ムリヤリだな。
でも、マルを傷つけるくらいなら…それでもいーか。
“はあああぁぁぁ~っ”わざとらしいくらいのでかいため息がでる。
マルが猫みたいにビクッとした。目の端に映る姿が…かわいい。

マルに出会ってから、もう一生分の“かわいい”を使い切ったかもしれない。
もっとクールに生きたかったな、なんてぼんやりと思った。
「マル…」
「はっはいっ!!」
“はっはいっ!!”だって。緊張しすぎだろ。ムダに姿勢をのばしてるマル。不覚にも、ちょっと笑いがもれた。
木の上の猫みたいに、ビクビクしてる。
「触られてもヤじゃなくてさ…」
すっげーハズい。でも、続きを口にした。

「他の生徒とか、玉木さんにも触られてないとこってどこ?」




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