上 下
27 / 29
第6章*もっと…笑ってみせて?

4

しおりを挟む
「…だって、オススメでしょ?」
好きじゃない本勧めねーだろ?
玉木さんの言いたいことが見えない。
「…本当に好きな本…生徒にすすめてないって…」
恥入った様子で、小さくない体を縮めてる。
その控えめな様子も手伝って、胸が高鳴る。
それって…
「…『トクベツ』って、コト?」
マルは、いっそうぎゅっと目をつぶってる。
それは、たぶん肯定の意味で…
ヤバい。これはかなり恥ずかしい。
マルの首に触れていない方の手で、まだかぶっていたタオルをつかんで…ばふっとマルにかぶせた。
びっくりさせて悪いけどさ。
「ごめん、マル。顔見ないで」
とっさにタオルに手を伸ばしたのを目にして、マルに告げた。
「顔赤いとかじゃなくて…」
いや、それもかなりあるけど。
「マルの顔直視できないし、俺の顔…絶対ニヤケててみっともない」

マルがぴたりと手をとめた。
タオルをかけたから見えないけど、もう目を開けているかもしれない。
「…でも、一人の生徒を特別扱いするなんて、いけないことでしょう?」 
そういって、タオルからそこだけのぞいてる唇を、キュッとかんでしまう。
まぁ、ね。去年のこともあるし…
「ちゃんと、卒業まで…生徒じゃなくなるまで待つから」
困らせないよう気をつけるから。

だから、もっと…
もっと、笑ってみせて? 

「ちょっとだけ『トクベツ』扱いしてよ」
決してたおやかじゃないマルの首から、そっと手をはずす。
「それが…恋愛とかじゃないって、ちゃんとわかってるよ」
そんな風に見られてないって、わかってるつもり。
いいんだ。今から振り向かせるから。 
「でも…俺が、マルをかなり『トクベツ』に思ってんだから…」
マルのそこだけ見える唇が、“えっ”って形にかわった。
あれ?それすらご存じない?
「思ってんの!!だから…ちょっとくらい、俺にツラレてよ」
そんな無理を言う俺に… マルはちょっと絶句して。
その後…唇だけで、歯を見せて笑った。

うん、そう。
お願いだから、もっともっと、笑っていて…

しおりを挟む

処理中です...