私が月になる

琴音

文字の大きさ
36 / 42

36. 確かめたかった

しおりを挟む
1月3日、きょうは秋田からカイが帰ってくる。
昨日も色々と予定していたことがあったのに、何も手につかなかった。
まだ暗い明け方から目が覚めて、ワッフルを焼いた。
冷凍しておくと、ちょっと小腹が空いたときにチンして食べられるので、重宝する。
カイの好きなチョコをかけたものを大量に作ってしまった。

昨夜の電話では、帰宅は17時頃と言っていた。
天気がいいので、布団を干してホカホカにしておこう。
パリパリのシーツに替えて、新調したパジャマも用意しておかなくちゃ。

ピンポーーーン
インターホンが鳴った。
宅急便?それとも来客?
そうだ、大家さんがみかんをくれるって言ってたんだ。
ドアを開けて声を失う。驚きすぎて息が詰まる。
「ただいま」
咄嗟に体が反応した。
荷物で両手がふさがっているカイの胸に飛び込んだ。
不意を突かれたので、ちょっとよろけてお土産の入った紙袋を落とす。
構わず抱きついて腰に手を回し、コートをギュっとつかんだ。
顔をうずめると、間違いなくカイの匂いがした。
「えっ、なになに、どうしたの」
声を聞いたら勝手に涙が出る。
なんで泣いてるのかもわからない。
嬉しいんだから笑わなきゃ。
それでも涙が止まらない。
「泣かしちゃった。サプライズ、失敗・・・」

思い返せばカイが隣に引っ越してきてから、いつも存在を意識して半年余りを過ごしてきた。
喧嘩をして会わなくても、そこにいることはわかっていた。
それだけで確証したかのように、根拠のない安息の中に浸っていた。
あまりにも大切で、かけがえのないのあるものになってから失うのが怖くなった。
黒い霧のような不安が、少しづつ私の心を支配する。
カイを見失うのが怖くて、伸ばした手が届かない気がして。
だから確かめたかった。
この手でカイのを確かめて、安心したかった。
手にした荷物を置いて、強く抱きしめてくれる大きな手。
いつまでも、その手に守られる私でいたい。
「グスン、、、朝の5時にワッフル焼いてる女ってどうなの」
「イタイけどかわいい」
いまさらカッコつけたって始まらない。
カイはいつだって正直だ。
誰が否定しようと、カイが可愛いと言ったら私は可愛いのだ。
イタイ女は百も承知。
これからも私は何度も確かめるだろう。
隣で寝息を立てているのがカイだということを。
好きといった言葉が嘘じゃない証明に唇を重ねてみる。
明日も繋がってると、確かめるために肌と肌を合わせる。
残り香がカイで、私はスーっと息を吐いて安堵する。

「寒いから部屋に入ろうか」
「なに、この荷物、行くときの10倍はあるじゃん」
「これもあれもって持たされちゃった。今日はきりたんぽ鍋にしようか」
「食べたことないかも、ちょうどよかった。鍋物用の野菜があるし」
たった2日の不在でカイの存在を再認識した。
彼は私以上に私の理解者であり守護者だと思う。
私を見つけてくれて、ありがとう。
あなたが私を選んでくれたから、私は私を少しずつ好きになれそうです。

寂しがり屋の私に<レベル70>

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

“熟年恋愛”物語

山田森湖
恋愛
妻を亡くし、独りで過ごす日々に慣れつつあった 圭介(56)。 子育てを終え、長く封じ込めていた“自分の時間”をようやく取り戻した 佳奈美(54)。 どちらも、恋を求めていたわけではない。 ただ——「誰かと話したい」「同じ時間を共有したい」、 そんな小さな願いが胸に生まれた夜。 ふたりは、50代以上限定の交流イベント“シングルナイト”で出会う。 最初の一言は、たった「こんばんは」。 それだけなのに、どこか懐かしいような安心感が、お互いの心に灯った。 週末の夜に交わした小さな会話は、 やがて食事の誘いへ、 そして“誰にも言えない本音”を語り合える関係へと変わっていく。 過去の傷、家族の距離、仕事を終えた後の空虚—— 人生の後半戦だからこそ抱える孤独や不安を共有しながら、 ふたりはゆっくりと心の距離を縮めていく。 恋に臆病になった大人たちが、 無理をせず、飾らず、素のままの自分で惹かれ合う—— そんな“優しい恋”の物語。 もう恋なんてしないと思っていた。 でも、あの夜、確かに何かが始まった。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

処理中です...