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階段から転げ落ちたら。
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なに?すごい眩しいんだけど。
ちょ、ちょっとやめてよ!眩しいってば!取り調べのライトが直撃してるくらい眩しいんですけど!?
って、あれ?すげえ青空だ。
んん?な、なんで私はこんな所で倒れてるの?
えーっと。お、思い出せない。あれぇ!?なんだここは!?どこなの!?見覚えが無さすぎる!
近所にこんな綺麗な花壇も無いし、あんなでっけえ人参が生えてる畑もないよね!?
うわ、あの川もすっごい透き通ってるよ。ますますこんな所知らないよ。だって、うちの近くの川はヘドロまみれでもっと臭いし、生物が棲息しているかどうか怪しいぐらい濁ってるもん!
わあ、あの山の向こうに虹が沢山かかってる。なんて素敵なの、うっとりしちゃう。
じゃなくて!周りに建物もないし、マジでどこなの?
ちょっと待って、落ち着け朱里。確か部活が終わって、ゲームを買って、そうだ。家に帰る途中だったよね?
あ、思い出した。私、階段から思いっきり落ちたんだ!
それで……え、死んだの?
そんな事ある?だってここ、まるで天国だよね!?
待て、待て。ちゃんと思い出そう。
えっと、楽しみにしてた『恋☆どす』をやっと手に入れて、歌いながら歩道橋の階段をウキウキで小踊りして降りていたら、それを見かけたカップルに笑われて。
いや、あれは失笑か。まあ、それはどっちでもいいか。それで笑われて恥ずかしくなって、焦って階段を踏み外して。
……階段の下に転げ落ちてしまったんだ。
なんて事だ。小さい時から落ち着きがないって言われてよく注意されてたけど、まさか階段から転げ落ちて命を落とすなんて。
私、高校生よ?いい加減学びなさいよ。
でもこの場合、落ち着きがないというか浮かれてただけか。
私の両親はこんな落ち着きのない私の性格を矯正すべく「精神を鍛える為に」と道場に強制的に通わせた。
しかし生まれ持った性格を直すことは難しかったらしく、腕っぷしばかりが強くなってしまい、今や負け無しの無敵の女子高生だ。
おかげさまで、甘酸っぱい恋や青春とは無関係な生活だった。もう部活も引退だし、これから失った青春を取り戻す筈だったのに!
貴重な思春期のイベントを全部すっ飛ばして天国に来てしまうなんて。
神様!あんたって人は無慈悲がすぎるよ!
はっ!待て、待て、待て!
んな馬鹿な事あってたまるかい!
まずは落ち着いて情報整理よ。ほら、買ったゲームも手に待ってるし。それに天国に来ちゃったのに、階段から落ちてぶつけた足が痛いなんてある?
私は青春を無駄にし、身体を鍛え上げ、戦いの螺旋に身を置いてきたんだ。師匠だって、私の事をあれくらいで死ぬような生ぬるい鍛え方はしていない!はず。
これは夢なの。そう、気絶をして夢の中にいるのよ!
ほら、見てよ。あんなにバカでかい蝶々だって現実で見たこと無いじゃん。
あれ、ゴライアストリバネアゲハに比べてもかなり大きいもん。
昨日の夜に観たテレビ番組【世界の巨大蝶々に逢いたくて。気づいたらニューギニアまで来てました】で観たからまず間違えようがないし。
近所にあんな巨大な蝶々が出現したらモンスターと勘違いされて大騒ぎだよ!
とりあえずこれは夢なの!そうと分かれば早く目覚めなきゃいけない!
私は早く『恋☆どす』をやりたいんだ!
でも目覚めたら、歩道橋の下で気絶してるのか。私の事を見ていたカップルがドン引きしながら救助してくれてるのかな?
どんな顔で気絶してるんだろう?うわあ、想像したら少し目覚めるのが怖くなってきた。
嫌だなぁ、確実に目半開きだよ、それか見開いてるよ!
明日まで気絶してようかな。……ん、明日?
はっ!?だあああ!しまった!明日、部活の大会じゃん!こんな怪我しちゃったら辞退させられちゃうじゃん!
高校生活最後の大会だったのに、こんなんじゃ皆に迷惑かけちゃうよ。
練習だって皆であんなに頑張ったのに。
あーあ、周りに迷惑をかけるのが一番辛いよ。
なんか足の痛みも引かないし、ついてないなぁ。
……あれ?
なんか、マジで痛いぞ?
あだっ!
いたいいたい。
あだだだだだだだだだ!マジでいてえ!
なんで角の生えてるでかい兎が私の足かじってんだよ!
絶対に夢だ!ねえ、私?早く目覚めましょうね?寝てても良い事なんて無いのよ?
がじがじがじがじがじがじがじがじ
「痛いって言ってんだろ! この馬鹿兎が!」
やば、思わず蹴飛ばしちゃった。
あれ?兎が消えてコインに変わった?
『レベルが上がりました。スキルポイントを付与します。ご自由に振り分けて下さい』
レベル?スキルポイント?
「わあ! すごいや! 一角兎を一撃で屠るなんて」
あ、やっぱり夢だ。だって私、言葉を発する球体の青い生物なんて今まで見た事ないもん。
それにしても、この鮮やかな青色。き、気持ち悪いな。
「あの兎にはとっても迷惑していたんだ。助かったよ。君は村長が討伐を依頼した冒険者なのかい?」
なんだよ、気持ち悪いのが懐いてきちゃったよ。すっげえ喋るし。
言葉は通じるの?話してかけてようかな?コイツまで噛みついてこないだろうな?
その時はこいつもコインに変えてやればいいか。
「えっとね、申し訳ないんだけど冒険者ではないよ。それより私は君みたいな気持ちわる、じゃなくて不思議な物体が喋っている事に驚いてるんだけど。私の名前は朱里だよ。君の名前は?」
……表情が読めないな。伝わっているのだろうか?
「へえ、それは珍妙な名前だね。よろしくね、朱里。僕の名前は軟体ゲル状機動生物の識別名『青』のクリスだよ! うーん。それにしても珍妙な名前だね。生きて行くのが辛そうな名前だね」
こいつ生意気な名前してんな。あと人の名前を珍妙で生きていくのが辛そうって表現すんなよ。
お前の方が姿形含めて、全てが珍妙だわ。芳香剤みたいな匂い発しやがって、トイレに吊るしたろうか?
「それにしても冒険者ではないのにその異常な強さ、どうかしてるよ。そして、その奇天烈な名前。もしかして、君は転移者なのかい?」
こいつの喋り方はとりあえず置いておいて、転移者?何言ってんだ?ゲームや漫画じゃあるまいし。
浮かれて転けたらそこの草むらに倒れてた、なんて話をしたらこのスライムは信じてくれるのかな?
「その転移者?ってのはよく分からないけど、気付いたらここにいたんだ。私も少し困ってるんだよね」
「何かお悩みのようだね。そうだ、まずはお礼をさせてくれないかい? 理由はどうあれ、僕達の村の危機を救ってくれたのは間違いないんだ」
「村? あんたの?」
「そう。それに、骨が剥き出しになっている足の怪我の治療も必要でしょ?」
足の怪我か。ん?骨?
「なんだこれ、すげえ血出てる! グロテスクすぎない!?」
「そこまで凄惨な傷にも気が付かない程に痛みに鈍感なんだね、驚きだよ。痛覚どうかしてるんじゃないかい? やっぱり君は転移者なんだよ!」
……球体の癖に言葉には棘がある奴だな。
「と、とりあえずお言葉に甘える事にしようかな?」
「分かったよ、じゃあついてきてね!」
こうして私はスライムの村に案内された。
ただ、村っていうのは少し違う気がする。葉っぱと木の枝で作った小さな小屋が点在していて、奥の方に一軒だけ人が住めるような小屋が建っていた。
この光景を果たして村と言って差し支え無いのだろうか?
「おーい、村長! あの憎きウサ公を怒りに任せてぶっ蹴り殺した恐らくメスの転移者を連れて来たよ!」
やっぱ口悪いなこいつ、恐らくじゃねぇよ!立派なメスだわ!じゃなくて女子だわ!
ほらぁ、変な紹介するから出てきたスライム達がザワザワしてんじゃん。あの髭生えてるのが村長?恐怖で震えてるじゃんよ。ゲル症だから余計にブルブルしてるじゃん。
「なんと、あの兎を退治していただけるとは! しかし、この村には金銭的なお礼をする余裕が無いのです。どうか私の命一つ捧げる事でお礼と返させて頂けないでしょうか?」
「重いよ、命いらないから。足の治療してくれるって言うからここに来たんだ。兎に噛まれた傷が思ったよりも酷くてさ。ほら、見てよ」
「なんと! 肉が抉れ、骨が露出し、凄まじい程の出血! こんなにも凄惨なダメージを受けて顔色一つ変えずに歩行をしているだと!? こ、こんな人類が存在するなんて。ごくり」
ごくり、じゃねえよ。口で言ってんじゃねえか。
「僕、治癒師さんに声をかけて来るね! ここの村の治癒師は凄腕だよ! あそこに見える大きい小屋の中に住んでるんだ」
治癒師さん?スライムじゃないのかな?もしかして人間?だとしたら丁度いいかも。聞きたい事が沢山あるし。
「ありがとう、助かるよ」
クリスが村の治癒師を呼びに行っている間、村長が胡坐を用意してくれ、私はそこに寝っ転がった。
夢にしてはリアルすぎない?目に映るものも、この手に触れる地面の感触も、スライム達から発せられるトイレの芳香剤みたいな匂いだって。
夢じゃなくて現実なの?そんな事あり得るの?
「治癒師さんに声をかけて来たよ」
あ、来たみたいだね。……え?やだっ!なに!?
あの窓からこっちを見てる超イケメンが、まさか治癒師だっていうの!?
イケメンが掘立て小屋から見てる!あんな憂いを帯びた澄んだ瞳で見つめられたら私、どうにかなっちゃう!
ちょっと待って。あんなボロ小屋でさえ、まるでキラキラの宝石箱のように見えて来る。あの王子様が今から私の足の治療を!?
だ、だめよ朱里。あの人と私は患者と医者の関係。ただそれだけなのよ!そこには他に入り込む感情なんてないの。
あっ、出てくる!キャー!なんて素敵な人なの。うっとりしちゃう。
綺麗な碧眼で、風になびくサラサラの金髪。背もすごく高くて、……あん?
「……背が高くて、すごい毛深いね」
「治癒師のケンタウルス、ケンタさんだよ。下半身の毛深さが自慢のナイスガイさ」
ケンタウルス、ね。
「どうしたんだい」
ほっぺたでもつねってみようかな。
「おわぁ、ビックリした! 腕に血管浮き上がる程に頬っぺたをつねると千切れて落ちてしまうよ!」
いってえ!これって夢じゃないの?まじで?
「ねえ、一つだけ聞いてもいいかな?」
「もちろん! どうしたんだい」
「ここ、どこ?」
ちょ、ちょっとやめてよ!眩しいってば!取り調べのライトが直撃してるくらい眩しいんですけど!?
って、あれ?すげえ青空だ。
んん?な、なんで私はこんな所で倒れてるの?
えーっと。お、思い出せない。あれぇ!?なんだここは!?どこなの!?見覚えが無さすぎる!
近所にこんな綺麗な花壇も無いし、あんなでっけえ人参が生えてる畑もないよね!?
うわ、あの川もすっごい透き通ってるよ。ますますこんな所知らないよ。だって、うちの近くの川はヘドロまみれでもっと臭いし、生物が棲息しているかどうか怪しいぐらい濁ってるもん!
わあ、あの山の向こうに虹が沢山かかってる。なんて素敵なの、うっとりしちゃう。
じゃなくて!周りに建物もないし、マジでどこなの?
ちょっと待って、落ち着け朱里。確か部活が終わって、ゲームを買って、そうだ。家に帰る途中だったよね?
あ、思い出した。私、階段から思いっきり落ちたんだ!
それで……え、死んだの?
そんな事ある?だってここ、まるで天国だよね!?
待て、待て。ちゃんと思い出そう。
えっと、楽しみにしてた『恋☆どす』をやっと手に入れて、歌いながら歩道橋の階段をウキウキで小踊りして降りていたら、それを見かけたカップルに笑われて。
いや、あれは失笑か。まあ、それはどっちでもいいか。それで笑われて恥ずかしくなって、焦って階段を踏み外して。
……階段の下に転げ落ちてしまったんだ。
なんて事だ。小さい時から落ち着きがないって言われてよく注意されてたけど、まさか階段から転げ落ちて命を落とすなんて。
私、高校生よ?いい加減学びなさいよ。
でもこの場合、落ち着きがないというか浮かれてただけか。
私の両親はこんな落ち着きのない私の性格を矯正すべく「精神を鍛える為に」と道場に強制的に通わせた。
しかし生まれ持った性格を直すことは難しかったらしく、腕っぷしばかりが強くなってしまい、今や負け無しの無敵の女子高生だ。
おかげさまで、甘酸っぱい恋や青春とは無関係な生活だった。もう部活も引退だし、これから失った青春を取り戻す筈だったのに!
貴重な思春期のイベントを全部すっ飛ばして天国に来てしまうなんて。
神様!あんたって人は無慈悲がすぎるよ!
はっ!待て、待て、待て!
んな馬鹿な事あってたまるかい!
まずは落ち着いて情報整理よ。ほら、買ったゲームも手に待ってるし。それに天国に来ちゃったのに、階段から落ちてぶつけた足が痛いなんてある?
私は青春を無駄にし、身体を鍛え上げ、戦いの螺旋に身を置いてきたんだ。師匠だって、私の事をあれくらいで死ぬような生ぬるい鍛え方はしていない!はず。
これは夢なの。そう、気絶をして夢の中にいるのよ!
ほら、見てよ。あんなにバカでかい蝶々だって現実で見たこと無いじゃん。
あれ、ゴライアストリバネアゲハに比べてもかなり大きいもん。
昨日の夜に観たテレビ番組【世界の巨大蝶々に逢いたくて。気づいたらニューギニアまで来てました】で観たからまず間違えようがないし。
近所にあんな巨大な蝶々が出現したらモンスターと勘違いされて大騒ぎだよ!
とりあえずこれは夢なの!そうと分かれば早く目覚めなきゃいけない!
私は早く『恋☆どす』をやりたいんだ!
でも目覚めたら、歩道橋の下で気絶してるのか。私の事を見ていたカップルがドン引きしながら救助してくれてるのかな?
どんな顔で気絶してるんだろう?うわあ、想像したら少し目覚めるのが怖くなってきた。
嫌だなぁ、確実に目半開きだよ、それか見開いてるよ!
明日まで気絶してようかな。……ん、明日?
はっ!?だあああ!しまった!明日、部活の大会じゃん!こんな怪我しちゃったら辞退させられちゃうじゃん!
高校生活最後の大会だったのに、こんなんじゃ皆に迷惑かけちゃうよ。
練習だって皆であんなに頑張ったのに。
あーあ、周りに迷惑をかけるのが一番辛いよ。
なんか足の痛みも引かないし、ついてないなぁ。
……あれ?
なんか、マジで痛いぞ?
あだっ!
いたいいたい。
あだだだだだだだだだ!マジでいてえ!
なんで角の生えてるでかい兎が私の足かじってんだよ!
絶対に夢だ!ねえ、私?早く目覚めましょうね?寝てても良い事なんて無いのよ?
がじがじがじがじがじがじがじがじ
「痛いって言ってんだろ! この馬鹿兎が!」
やば、思わず蹴飛ばしちゃった。
あれ?兎が消えてコインに変わった?
『レベルが上がりました。スキルポイントを付与します。ご自由に振り分けて下さい』
レベル?スキルポイント?
「わあ! すごいや! 一角兎を一撃で屠るなんて」
あ、やっぱり夢だ。だって私、言葉を発する球体の青い生物なんて今まで見た事ないもん。
それにしても、この鮮やかな青色。き、気持ち悪いな。
「あの兎にはとっても迷惑していたんだ。助かったよ。君は村長が討伐を依頼した冒険者なのかい?」
なんだよ、気持ち悪いのが懐いてきちゃったよ。すっげえ喋るし。
言葉は通じるの?話してかけてようかな?コイツまで噛みついてこないだろうな?
その時はこいつもコインに変えてやればいいか。
「えっとね、申し訳ないんだけど冒険者ではないよ。それより私は君みたいな気持ちわる、じゃなくて不思議な物体が喋っている事に驚いてるんだけど。私の名前は朱里だよ。君の名前は?」
……表情が読めないな。伝わっているのだろうか?
「へえ、それは珍妙な名前だね。よろしくね、朱里。僕の名前は軟体ゲル状機動生物の識別名『青』のクリスだよ! うーん。それにしても珍妙な名前だね。生きて行くのが辛そうな名前だね」
こいつ生意気な名前してんな。あと人の名前を珍妙で生きていくのが辛そうって表現すんなよ。
お前の方が姿形含めて、全てが珍妙だわ。芳香剤みたいな匂い発しやがって、トイレに吊るしたろうか?
「それにしても冒険者ではないのにその異常な強さ、どうかしてるよ。そして、その奇天烈な名前。もしかして、君は転移者なのかい?」
こいつの喋り方はとりあえず置いておいて、転移者?何言ってんだ?ゲームや漫画じゃあるまいし。
浮かれて転けたらそこの草むらに倒れてた、なんて話をしたらこのスライムは信じてくれるのかな?
「その転移者?ってのはよく分からないけど、気付いたらここにいたんだ。私も少し困ってるんだよね」
「何かお悩みのようだね。そうだ、まずはお礼をさせてくれないかい? 理由はどうあれ、僕達の村の危機を救ってくれたのは間違いないんだ」
「村? あんたの?」
「そう。それに、骨が剥き出しになっている足の怪我の治療も必要でしょ?」
足の怪我か。ん?骨?
「なんだこれ、すげえ血出てる! グロテスクすぎない!?」
「そこまで凄惨な傷にも気が付かない程に痛みに鈍感なんだね、驚きだよ。痛覚どうかしてるんじゃないかい? やっぱり君は転移者なんだよ!」
……球体の癖に言葉には棘がある奴だな。
「と、とりあえずお言葉に甘える事にしようかな?」
「分かったよ、じゃあついてきてね!」
こうして私はスライムの村に案内された。
ただ、村っていうのは少し違う気がする。葉っぱと木の枝で作った小さな小屋が点在していて、奥の方に一軒だけ人が住めるような小屋が建っていた。
この光景を果たして村と言って差し支え無いのだろうか?
「おーい、村長! あの憎きウサ公を怒りに任せてぶっ蹴り殺した恐らくメスの転移者を連れて来たよ!」
やっぱ口悪いなこいつ、恐らくじゃねぇよ!立派なメスだわ!じゃなくて女子だわ!
ほらぁ、変な紹介するから出てきたスライム達がザワザワしてんじゃん。あの髭生えてるのが村長?恐怖で震えてるじゃんよ。ゲル症だから余計にブルブルしてるじゃん。
「なんと、あの兎を退治していただけるとは! しかし、この村には金銭的なお礼をする余裕が無いのです。どうか私の命一つ捧げる事でお礼と返させて頂けないでしょうか?」
「重いよ、命いらないから。足の治療してくれるって言うからここに来たんだ。兎に噛まれた傷が思ったよりも酷くてさ。ほら、見てよ」
「なんと! 肉が抉れ、骨が露出し、凄まじい程の出血! こんなにも凄惨なダメージを受けて顔色一つ変えずに歩行をしているだと!? こ、こんな人類が存在するなんて。ごくり」
ごくり、じゃねえよ。口で言ってんじゃねえか。
「僕、治癒師さんに声をかけて来るね! ここの村の治癒師は凄腕だよ! あそこに見える大きい小屋の中に住んでるんだ」
治癒師さん?スライムじゃないのかな?もしかして人間?だとしたら丁度いいかも。聞きたい事が沢山あるし。
「ありがとう、助かるよ」
クリスが村の治癒師を呼びに行っている間、村長が胡坐を用意してくれ、私はそこに寝っ転がった。
夢にしてはリアルすぎない?目に映るものも、この手に触れる地面の感触も、スライム達から発せられるトイレの芳香剤みたいな匂いだって。
夢じゃなくて現実なの?そんな事あり得るの?
「治癒師さんに声をかけて来たよ」
あ、来たみたいだね。……え?やだっ!なに!?
あの窓からこっちを見てる超イケメンが、まさか治癒師だっていうの!?
イケメンが掘立て小屋から見てる!あんな憂いを帯びた澄んだ瞳で見つめられたら私、どうにかなっちゃう!
ちょっと待って。あんなボロ小屋でさえ、まるでキラキラの宝石箱のように見えて来る。あの王子様が今から私の足の治療を!?
だ、だめよ朱里。あの人と私は患者と医者の関係。ただそれだけなのよ!そこには他に入り込む感情なんてないの。
あっ、出てくる!キャー!なんて素敵な人なの。うっとりしちゃう。
綺麗な碧眼で、風になびくサラサラの金髪。背もすごく高くて、……あん?
「……背が高くて、すごい毛深いね」
「治癒師のケンタウルス、ケンタさんだよ。下半身の毛深さが自慢のナイスガイさ」
ケンタウルス、ね。
「どうしたんだい」
ほっぺたでもつねってみようかな。
「おわぁ、ビックリした! 腕に血管浮き上がる程に頬っぺたをつねると千切れて落ちてしまうよ!」
いってえ!これって夢じゃないの?まじで?
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「もちろん! どうしたんだい」
「ここ、どこ?」
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