階段から転げ落ちたら知らないゲームの中だったので勇者を倒してサッサと帰りたいと思います。

uma

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初めて釣れました。

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 もう、クリスってば美味しさの余り意識を失い、体が赤くなっていき細かく振動した後、四方八方に爆散してしまいそうだったよ!お前みたいなゲル状の物体が飛び散ったらお片付けが大変なんだからね!プンプン!

 でもあいつったら、軽口ばっかりじゃなくて可愛い所あるじゃん!でもね、今更そんなあからさまな態度取っても朱里ちゃんはお嫁には行ってあ・げ・な・い・ゾ☆


        —————————


 「はあ、沢山食べたよ。幸せ」

 びくん!びくん!

 「私もこんな楽しいお食事会は久しぶりだったわ。ありがとう。朱里さん」

 ぶぶぶぶぶぶ。

 「ちょっといつまでブルブルしてんだよ! クリス気持ち悪い」

 「ハッ! 勇者に都合の良いようにアイテムボックスとして使われてたご先祖様がAEDで僕を助けてくれたみたいだ! 心室細動を引き起こす料理を作るなんて流石だね」

 「でしょ? 見直した?」

 (ゴクリ。こいつ、分かりやすい嫌味も通じないなんて。末恐ろしい逸材だ)

 「なんか言った?」

 「んーん! なんも!」

 「朱里さん、スライム達の村に戻っても寝れる場所なんて無いでしょう? もう暗くなってきたし、今日は泊まっていきなさい」

 「えっ、いいんですか?」

 「もちろんよ。見たところ貴方、転生者なんでしょ? 旅立ってしまうのよね? 良き友人、良きライバルとして今日はここに泊まって行ってちょうだい」

 「シンディさん。私、勇者を倒してまたここに戻ってきます」

 「ええ、待ってるわ」

 シンディさんの家で寝ていると、癖のある豚骨の臭いが充満する、床がベタベタで靴が脱げちゃうくらいのラーメン屋の中で布団引いて寝てるような気分になったけど、実際に髪とかベタベタになったけども、私達の友情の前ではそんな事は関係ないんだ。

 ね、シンディさん。

 「シンディさん行ってきます。私、絶対に勇者をボッコボコにするからね」

 「辛くなったらいつでも帰ってらっしゃい。無理だけはしちゃダメよ」

 こうして私とクリスはシンディさんの家で一泊させてもらってから町を目指した。

 途中レベルを上げようと思ったけど悪い魔物がおらず、流石の私も井太利亜の海様の具現化の為に善良な一般人(魔物)に攻撃を仕掛ける程には堕ちてはいないので直ぐ街に着いた。

 「着いたね! 思ったより大きい街かも。海の近くなんだね」

 「そうだよ、まずはギルドに登録しよう。お金が無いと何もできないからね」

 お金が無いと何も出来ないのはゲームも一緒か。ケチくさい旅を続ける位なら少しお金を貯めたほうが良さそうだね。て事は魔物の討伐依頼とか?

 「ちょっと待ってクリス。普通ゲームってさギルドで魔物を討伐して報酬もらったりするんだけど」

 「へえ! 人間は恐ろしい事を考えるね! 命を摘み取って賃金を得る。なんて罪深く愚かな生き物なんだ」

 ……お前もまあまあ愚かだけどな。

 「魔物側のギルドだと仕事は何になるの?」

 「薬草取ったり」

 うん。よく聞くやつ。

 「食材集めたり」

 よく聞く。

 「鉱石集めたり」

 聞く。

 「あとは別の種族を狩りに行ったりかな」

 お前らもやってんじゃねえーか!

 「お前らもやってんじゃねえーか! 心の声そのまま出たわ!」

 「だって魔族なんて、子連れの魔物に対して急に襲ってきて、テイム!(笑)とか言って無理やり子供攫ったり、目の前で親を殺したりロクなもんじゃないよ」

 ……そこだけ聞くと確かにロクなもんじゃない。この世界で友好的で、比較的に攻撃的では無いのは魔物。という事になるのだろうか?

 この街を見渡した感じでもそんな気がする。ここの街の魔物達も皆優しい。ニコニコしてるし、挨拶してくれるし、さっきなんて天津甘栗もくれた(押し売り)。人間の世界より全然平和だよ。

 「ねえ、クリス」

 「なんだい」

 「悪い奴いたら、やっつけちゃおうね」

 「それでこそ、救世主様だ。さあ行こう」

 私達はギルドで依頼を一つだけ受ける事にした。人間が魔物のギルドに登録なんて出来るのか?なんていうのは杞憂で終わり依頼を受けるまで、それはスムーズなものだった。

 「釣りの依頼だったね、早速海岸に行こう。早くお金貯めないと。僕は平気だけど、朱里が宿無しのご飯抜きになっちゃうよ」

 「それは困る。あと私こっちの服も欲しいかも。目立つよね、この制服」

 「それこそ具現化を使えば良いじゃないか。食べ物とかは無理だけど洋服は具現化出来るよ」

 そっそうか!『恋☆どす』の衝撃で忘れてたけど考えてみると本当に便利!

 「さあ着いた。早速釣ろうって言いたいところだけど、依頼の内容ちゃんと見てないや。なにを釣れば良いの?」

 「ダイオウホウズキイカだね!」

 「ダイオウホウズキイカってクラーケンのモデルにもなった世界最大級の無脊椎動物じゃん! こんな浅瀬にいるわけないじゃん!「幻の巨大イカを求めて~気づいたら海底2000メートルまで潜ってました~」で見たから間違いないよ!」

 「説明ありがとう」

 「いいえ。どういたしまして」

 「違う世界から迷い込んだね。最近浅瀬に出現したらしいんだ。たまにあるんだよ。シンディさんの先祖も違う世界から来た豚で、長く住んでる内に魔力を徐々に持ち、あの姿になっていったらしいよ」

 ふーん。神隠しみたいなもんか。

 「ねえ、こんなに細い釣竿と細い針で釣れるものなの?」

 「魔力でコーティングしてあるからね。見た目に反して丈夫だよ」

 「じゃあいいか。えい!」

 「朱里上手じゃないか、すごい遠くまで飛んだね」

 「えへへ。身体動かす系は得意なんだ。あっ! 早速引いてるよ! 結構引き強い!」

 「頑張れ! 朱里!」

 「痛い!」

 「え? なんか言った?」

 「頑張れって言ったよ」

 ……空耳か。えい!

 「痛い、痛い! 巻くな! リールを巻くな!」

 「……ねえ。河童釣れてない?」

 「こんな浅瀬に河童がいるなんて珍しいね!」

 「いや河童はどちらかと言うと淡水なんじゃない?」

 「い、痛いって! 皿の軟骨に刺さってるって! 痛いんだって! ちょっ! ひっぱんないでででででででででで」



 私が生まれて初めて釣った河童は、皿の軟骨に釣り針の返しが食い込んでとっても痛そうでした。
 
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