階段から転げ落ちたら知らないゲームの中だったので勇者を倒してサッサと帰りたいと思います。

uma

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森の賢者。

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 やっほ!朱里っぺだよー!元気してる!?

 洞窟で魔石を手刀でこそぎ落としてたらクリスとフェンリルちゃんに尊敬の眼差しを向けられちゃった!はずかしー!
 
 これもチンチンに熱した砂と、キンキンのドライアイスバケツに高速で交互に手刀を繰り出してたおかげだね!えっへん!ネイルを我慢した甲斐があったってもんだよ!

 同級生はネイル見てだの、彼氏が出来だの、ギリギリ。デートに連れてって貰っただ!?

 ギリギリギリッ!お、おのれ!

 ああ、いけない!歯軋りが!奥歯が削れちゃう!やだー!

 あいつら見て爪剥がして口の中に突っ込んでやろうとか、髪引っこ抜いて紙に包んで神にお供えしてやろうとか、そんなサイコパスな高校生活送ってたわけじゃないんだから!

 か、勘違いしないでよね!


       —————————



 うわああああああああああああああ!

 「うがー! なんか知らないけど、落下中に高校生活の美しい思い出が走馬灯の様に流れて来てイライラしてきた!」

 (朱里は余裕そうだね!僕は落下ダメージ無効だから平気だけど、フェンリルちゃんはやばいんじゃない!?)

 (はわわわわわわ!お母さん、お父さん!先立つ不幸をお許しください!)

 私は三十メートル位の高さなら後方受け身でノーダメージで済むけど、フェンリルちゃんを放っておけない!

 あ、いい事思いついた!

 「クリス! 

 「いだだだだ! 朱里!? なんで急に鷲掴み!? 痛い! どうにかなっちゃう! それ以上はどうにかなっちゃうからー! だだ、だめだって! っあーー!」

 「おりゃ!」 

 (え!?ま、魔神のお供をお尻で潰しちゃったー!)

 「せいやっ! よし、受け身成功。フェンリルちゃんもクリスがクッションになって助かったね」

 「朱里、もう少し優しく掴んでよ。バラバラになる寸前だからね? まあ、フェンリルちゃんが助かって良かったけどさ」

 (た、助かった?死ぬかと思った。怖かったよー。)

 「えーん」

 な、泣いた!?あんなに可愛い声を出して泣く生き物がこの世に存在しているのか!

 神様、あんたって人はなんて不公平なんだ、私はあんなに綺麗な涙は流せないよ。

 ……いや、違う。神が与えた残酷な美の差別こそ、より美しさを引き立てるのだろう。ラーメン。

 (最近、変になる時が多いね。いいお医者さんに頭の中を見てもらえたら良いんだけど)

 「大丈夫かい、フェンリルちゃん?」

 「大丈夫です、ぐすん。お尻で潰しちゃってごめんなさい」

 「いいんだよ、フェンリルちゃん。どちらかと言うと、その前のゴリラ・ゴリラ・ゴリラに握り弾け飛ばされそうになった方が生命の危機を感じたからね」

 「今まで話せるの黙っててごめんなさい。舌を引っこ抜くのは、最後にお母さんとお父さんにお別れの挨拶をしてからでもいいですか?」 

 「喋ったと思ったら急に過激な事を口走るね。そんな趣味はないから大丈夫だよ」

 「よ、良かった。……あの、お二人は魔神とその下僕なのですか?」

 「違うよ! あそこで膝をついて天を仰いでるのはゴリラ。じゃなくて、朱里。この世界に転移して来た魔物の救世主だよ。僕たちは勇者を倒す為に旅をしているんだ」

 「ゴリ、じゃなくて朱里さんの圧倒的な怒気と殺傷能力を見て、遂に魔神が復活したと勘違いしてしまいました。ごめんなさい」

 「そんなに謝ってばかりいなくていいんだよ。僕の村の人達も威圧で半分以上気絶させられて、何人か魂が彷徨う事態に陥ったからね。悪い人間ではないんだけど、周りからそうやって勘違いされるんだよ」

 「強すぎる者の宿命なんですね」

 「そうさ。誰からも理解されない悲しき哀れな怪物モンスターそれがあのゴ、朱里さ」

 「なんか考え事してたらラーメン食べたくなっちゃった! フェンリルちゃん平気かな? 私は朱里だよ、よろしくね」

 「よろしくお願いします、ゴ里さん。勘違いしててごめんなさい。喋れる事黙っててごめんなさい」

 (フェンリルちゃん!名前、名前!)

 (ご、ごめんなさい!)

  ん?今ゴリって言った?気のせいか?

 「気にしなくていいよ、怖かったんだよね? ところでフェンリルちゃん。君のご両親は無事なのかい?」

 「それなんですが、見知らぬ人間達が急に『気まぐれ穴』に侵入して来て、それで父と母が応戦したのですが、怪我をしてしまって。私を外に逃した後、秘密の部屋で体を休めているんです」

 やっぱり勇者か、本当にタチが悪いな。どうにか居場所さえ掴めれば一撃で葬ってやるのに。

 「今その人間達はどこに向かったか分かるかい? 勇者の居場所が中々掴めなくてね。ここに来たのもそれが理由なんだ」

 「……分かりません。何かを探してる、みたいな事は言っていました」

 武器とかかな?ゲームっぽいな、いやゲームか。

 「うーん、その手の話はこの世界に沢山あるからね。恐らく自身を強化する何かを探しているのは間違いなさそうだね」

 「じゃあさ! 私たちが探し物を先回りして見つけて、ついで貰っちゃえばいいんじゃない?」

 (朱里、その力に飽き足らずまだ頂を目指すか。だがそれでこそ時期魔王に相応しい貪欲さだよ!)

 「それはいいアイデアだね! 早速ここから出て情報集取だ!」

 「あ、あの私も連れて行ってもらえませんか? 私の父が勇者との戦いで呪いをかけられてしまって、解呪のアイテムが必要なんです」

 「本当かい? 朱里、フェンリルは魔術がが得意な事で有名なんだ。一緒に来てくれれば百人力だよ!」

 なんですって?この可愛らしいケモ耳モフモフが旅についてくる!?こ、こんな幸運があって良いのか!?私はこの洞窟で残りの人生の全ての運を使ってしまったのでは?

 いや、ちがう。これはご褒美。そう!ご褒美なのよ!『恋☆どす』がプレイ出来ない私に神様が——

 「またゴリラがスイッチ入ったね!」
 
 愛くるしいケモ耳にズタズタにされた指は、いつの間にか治ってました。
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