階段から転げ落ちたら知らないゲームの中だったので勇者を倒してサッサと帰りたいと思います。

uma

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再会。

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 はーい。今日も始まりましたっと!

 皆んなの心の鎮痛剤、DJ朱里だよー!

 さあさあ今日も『朝から家系食べいっちゃう!?』のお時間がやって参りましたね。

 今日も皆さんからお葉書たーくさん届いてるの。じゃあ早速紹介行ってみよー!

 ラジオネーム「スリッパで絶対踵はみ出しちゃう系女子」さんからのお手紙です!

            ~~~

 朱里ちゃん、いつも楽しくラジオ拝聴しています。実は先日こんな事があったので思わず投稿してしまいました。

 私がいつもの帰り道を歩いていた時の事です。急に前からふくよかなお婆ちゃんが姿を表したんです。

 パンチパーマで虹色の髪。金色の安そうなビニール製の全身タイツ。星形サングラスをかけたファンキーお婆ちゃんが。


 そのお婆ちゃんは私に近づきながら、ものすごい速さで左に右にと細かくカカカッ、カカカッと音を鳴らしステップを踏んでいました。

  皆さんの人生でここまでの経験はよくあると思います。

 しかし、そのお婆ちゃんは「反復横跳びの全国大会に出るんだ!今年こそは!」と早口で叫び始めたんです。何回も、何回も。

 金のタイツは汗でピタピタになってました。

 その時でした。

 私が思わず立ち止まり呆気に取られていると、空から光線が降り注ぎお婆ちゃんを優しく包み込んだんです。

 ふと上を見ると空に不思議な円盤が浮いていました。そしておばちゃんが号泣しながら円盤に吸い込まれていきました。

 こんな事ははじめての体験だったのですが朱里ちゃんはこんな経験ありますか?

 私の予想は宇宙人なのかなって思います。

 ラジオネーム「スリッパで絶対踵はみ出しちゃう系女子」

 P.S あと特撮系のベルトしていて、透明のハイヒールを履いていました。

            ~~~

 へー、そんな人もいるんだね。まあ人の趣味は人それぞれだから、ね!

 キャトルミューティレーションで連れてかれた牛みたいに内蔵がくり抜かれる映像を目の前で見せられなかっただけでも良かった、のかな?

 じゃあ最後に『恋☆どす』のEDテーマ「さよなら、バイバイ、はっけよい」を流して終わろうと思います。

 さよなら、バイバイ、はけっよい。また来週このお時間にお逢いましょう。

 宇宙人を信じて止まない朱里でした。


         —————————


 「大変、大変、たーいへーん!」

 「どうしたんだい? そんなに慌てなさんな」

 「見て! カモメの郵便屋さんが簡易書留が届けてくれたの」

 「なんだって? それはもしや」

 「魔王オーディション選考係って書いてあるよ」

 「と、とりあえず中を確認しないと」

 (朱里なら絶対受かってる!はず!)

 「受かってる! 招待状が入ってるよ!」

 「や、やったー!」

 「すいませーん」

 「はいはーい、あれ? カモメさんまた来たの?」

 「ごめんなさい、これもありました。肉球また押してもらえます?」

 「はいはい。いいですよー」

 「ありがとうございましたー」

 (え?これって)

 「ちょっとクリスちゃん! 私のも本当に送ってたの?」

 「うん! 届いたみたいだね!」

 (開き直ってる。まあ、いいけど。どうせ落ちてるし……あ)

 「落ちてたよ。残念だねー。火つけて燃やしとくねー」

 「させるか!」

 (奪われた。早いなぁもう)

 「受かってるじゃないか。まあリルちゃん可愛いし当然だね」

 「そ、そんな可愛いだなんて」

 (意外にこの子もチョロいな)

 僕達は今、豪華客船「泥舟沈殿丸」でムポポペサ大陸から南にあるリゾートビーチに向かっている。

 ギルドで聞いた情報によると、どうやら勇者一行が滞在しているとの事だ。

 魔王オーディションもここで開催される為、勇者は恐らく未来の魔王の玉子達を狙っているのかも知れない。

 「ねえ、そろそろ朱里ちゃん出てくるんじゃないかな?」

 朱里はいきなり座禅を組むと言い出し、四日間坐禅組みっぱなしだ。

 馬鹿の考える事はよく分からない。

 「いやー! 座禅組んだら精神が研ぎ澄まされたよ」

 「お疲れ様! 朱里ちゃんお腹空いてない? 水一滴すら口にしてないからペコペコなんじゃない?」

 「それがね、一定の期間なにも口にしないと空腹も感じなくなるの。でも食べないわけにもいかないから重湯を一杯頂こうかな」

 「やあ、朱里。いい知らせだ。魔王オーディションの招待状届いたよ」

 「ほう、遂にその時が来たのね。私が魔王になった暁には、お前を瞬間冷凍して粉々に砕いてやるから覚悟しておきな」

 「急にそんな物騒な事言わないでくれよ」

 「冗談に決まってんだろ。私がそんな事すると思う?」

 冗談に聞こえない所が朱里のすごい所だ。

 「久々に部屋から出たし、せっかくだから甲板に出ようよ。海を見て潮風を体で感じたいよ!」

 「いいね、僕達も行くよ。丁度夕暮れ時で最高の景色だよ。リルちゃんも行こう」

 「いこーいこー!」

 朱里はオーディションの事を聞いてもどこ吹く風だ。料理以外なら本当に頼りになる。

 僕の目的の為にも必ず魔王になってもらわなきゃ。

 「見て! 飛び魚が跳ねてる」

 「朱里ちゃん、向こうには鯨がいるよ」

 「わわ、すごーい! 生で見ると迫力あるね」

 「朱里、こっちはイルカだよ! ピンクの河童がイルカに乗って手を振っているよ」

 「本当だね。河童は海にもいるんだね」

 「じゃなくて二人とも! あれルシアさんだよ」

 「河童さーーーん! ああ! 両手で手を振り返して振り落とされた」

 「ちょっと待って、鯱が河童さんを宙に打ち上げた!」

 「鯱は獲物をああやって獲物を弱らすの。可哀想だけどこれこそ弱肉強食。海のギャング鯱には河童もなす術なしね」

 「朱里! 悠長な事言ってないで助けてあげてよ!」

 

 自然の掟には逆らえない。

 だって私はちっぽけな人間だもの。
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