階段から転げ落ちたら知らないゲームの中だったので勇者を倒してサッサと帰りたいと思います。

uma

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クライマー。

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 ぐすん。クリスちゃん執行猶予付くといいけど。

 あ、ごめんなさい。リルです。

 実は今日ショッキングな出来事があったんです。涙が止まりません。

 私って人の悪口とか言わないし、人の事もあまり苦手にならないの。

 でも、あんな変質者の口の中に入って移動していた事を思い出すだけで。

 ぞぞぞー

 犬なのに鳥肌が立っちゃった。もうクリスちゃんの何もかもが疑わしく思えてきちゃう。

 さっき朱里ちゃんに上着かけられてクリスちゃんは署に連れて行かれたけど、どうなったんだろう?

 あれ?もう出てきた?

 なんでよ。裁いてくれないの?法は私達の味方じゃないの?民事不介入とか言ってんの!?

 ……こうなったら弁護士を雇うしかない。諦めないから、絶対に。


        —————————



 「絶対にシャバで自由になんてさせないんだから!」

 びっくりした。リルちゃんがこんな大声出すなんて。

 「リ、リルちゃん? あのね、考えてみたらクリス何もやってないんだよね。ただ気持ち悪かったってだけで」

 (……はっ!確かに。よくよく考えてみると、クリスちゃんはただ気持ち悪かっただけで何もしてなかったじゃない)

 「ごめんなさい、クリスちゃん。私ちょっと錯乱してたみたい」

 「いいんだよ、僕も自分の美しさに酔っていたよ。怖い思いをさせてごめんね、子猫ちゃ——」

 「は? まだ言ってんの?」

 「ご、ごめんなさい」

 普段怒らない子が怒ると怖いのは本当だね。

 「……はっ! いこいこ! もうホテル行こうよ」

 リルちゃんの闇を垣間見た私達はがホテルに向かうと、最上階にあるスイートルーム「雅」に案内された。

 派手な内装とふかふかのベッド。

 ルシアがいなくて本当に良かった。

 あいつがいたら、臭いと分泌物による器物破損でホテル側から訴えられるのは間違い無いだろう。

 「さあ、気を取り直すとしよう。明日は早速オーディション会場に下見に行くよ」

 お前が言うな。お前が原因だ。

 「そうだね! 楽しみだな」

 「勇者達にもいつ出くわすか分からないから気を引き締めないとね」

 そうだ。勇者達もこの島にいるんだ。

 私の願いを叶える為に、絶対に勇者を倒さなくちゃ。

 「でも朱里なら余裕だよね? いくら勇者とはいえ、朱里が負ける所はちょっと想像出来ないよ」

 「朱里ちゃんなら勇者も倒してくれるし、魔王オーディションも楽々突破だよ!」

 「油断は出来ないけどね。とりあえず今日は休もう!。明日に備えないとね」

 「おやすみなさい、朱里ちゃん、クリスちゃん」

 「おやすみなさい」

 私は少し悩んでいた。願い事は一つだけ。『恋☆どす』の事は一旦置いておいて、元の世界に戻ったら皆とはもう会えなくなる。

 なんだかんだでムポポペサが楽しくなってきた私はその事を考えると少し寂しくなってくるんだ。

 二人が寝静まり、一人そんな事を考えている時だった。

 ドン!ドンドンドンドン!!

 「な、何?」

 「びっくりした! なんの音だい?」

 「静かに。窓の外に誰かいる」

 (最上階の部屋の窓に?まさか勇者からの刺客では)

 (怖い。でも朱里ちゃんが守ってくれる。朱里ちゃんは一番強いんだ!)

 「カーテン開けるよ。せーの!」


 っ!!!


 「お前さ、何やってんの? 何時だと思ってんだよ。なんで窓にカエルみたいに張り付いてんだよ」

 「河童の執念恐るべし、だね。あの海を渡り切るとは」

 (考えてみればヌーにも襲われたのに。すごい生命力)

 「あーけーてー! た、高い所こわい!」

 (なんで登ったのだろう)

 (の、登らなきゃいいのに)

 「あ、もしもし警備の方ですか?「雅」の窓に爬虫類が止まってるんですけど。もしかしたら変質者かもしれないんで駆除お願いします。はい、いいですよ。撃ち落としても構いません。お願いします」

 「師匠! なんでー!?」

 「嘘だよ。風すごいから早く入ってよ。あ、部屋汚れるから風呂で寝てよね。もう私寝るから」

 「そんな! 折角、再会できたのだから少し位構ってくださいよ」

 「こんな夜更けに、窓に張り付いてる不審者を招き入れただけでもありがたく思いな」

 「ルシアさん頑張ったんだね。すごいよ。明日になったらお話聞くから、ゆっくりお風呂でも入って休んでね」

 「そ、そんなー!」

 流石に不憫に思ったクリスは、ルシアとホテルの備え付きのバーで夜のひと時を楽しんだみたい。

 私はその話を翌朝に聞き、カウンターで二人がウイスキーを飲んでいる所を想像して少しイラッときました。
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