階段から転げ落ちたら知らないゲームの中だったので勇者を倒してサッサと帰りたいと思います。

uma

文字の大きさ
36 / 49

決意。

しおりを挟む
 なんて懐かしいんだう。故郷に戻って来るのは一体何年振りなのだろうか。

 豊かな自然、俺を育てた母なる川、石を投げて来る修学旅行生。

 その全てが懐かしい。

 イテッ!こ、この野郎!小石だって当たれば痛いんだからな!お前学校どこだ!先生に言うぞ!

 おっと、取り乱してしまったね。君は今、幸せかい?

 幸せの河童ことルシア・クリフォードだ。

 最近思うんだ。俺が不幸な分、皆に幸せが舞い降りていると。

 それで世の中はプラマイゼロなんだ。

 まあ、いい。そんな事より軽く紹介するよ。まずはここだ。ああ、懐かしいな。

 この草原で俺はお銀の前で渡鳥にパンツのゴムの所と四肢の皮を啄まされて大空へと羽ばたいたんだ。フライアウェイ。

 羽ばたいて行く俺を眺めるしか無いお銀の絶望の顔が今でも目に焼き付いている。大丈夫、安心して。俺もしっかり絶望してたよ。

 そしてヌーに襲われて、シャチに襲われて。

 師匠に吹き飛ばされた後も鯨に飲み込まれそうになったりしたけど、まあ無事だ。なんとかここまで辿り着く事が出来た。

 ん?あ、あれは!解呪の皿の社が破壊されている!?誰がこんなを!

 酷い。この仕打ちは余りにも酷すぎる。

 くそ!俺がこの場にいれば心無き観光客の愚行を諌める事も出来ただろう。

 こういった惨劇を目の当たりにするとこの地を離れた事を後悔する。

 ちょっと待て。お銀!お銀は無事なのか!?

 俺は走った。そして家のドアをショルダータックルで勢い良く開けた。

 「お銀! 無事なのか!?」

 いない。一体どこに?お銀の身に何かあったら俺は!

 改めて気づく。俺はお銀を愛しているのだと。

 女々しい河童だよ、俺は。ぐすん、ん?なんだコレ?

 【ルシアへ。朱里さんに伝言を聞いて戻って来ていたのならごめんなさい。魔王オーディションの仕事が入りました。この大会は全世界で放映される。貴方が私の姿を見てくれているかも知れない。そう思い、参加を決めました。もしも戻って来てくれたのなら、待っていて下さい。早く貴方に会いたいです。お銀】

 選手権って一週間だよな?

 こうして俺は「モルティプ」に蜻蛉返りする事を決めた。

 これは不運なんかじゃないんだ。彼女に逢える幸運だ。

 この世はプラマイゼロでバランスを取っている。皆、足元の不運につまづいて転ばないように気をつけるんだぜ。

 グッドラック。


        —————————
 

 掃除に洗濯、借り物競争、パン食い競争、カラオケ大会、椅子取りゲーム。

 リルちゃんの戦いは熾烈を極めた。

 そして激闘の末、リルちゃんが最後の4人に選ばれた。

 すごい!リルちゃんおめでとう!

 (おめでとう、リルちゃん。君ならやってくれると信じていたよ」

 「いよいよ四人まで絞られたわね。最後は一体どんな試練が待ち構えているの? まさかここから血で血を洗う争いを!?」

 「もう決まりだよ。 魔王の側近だよ? 一人だけの訳ないじゃん」

 もう決まったの?やったー!おめでとう、リルちゃん!

 でも、もう私だけのリルちゃんじゃないんだね。世界のリルちゃんなんだね。メディアが貴方の事は放っておかないのね。

 私の手をギリギリしてた頃が懐かしいよ。

 「今日はもう終わりだね。リルちゃんの祝賀会の準備をしなきゃ! だけど僕はエンディングトークをする為に、スタジオに戻らなきゃいけないから! 後は宜しくね」

 あいつ芸能人気取りだな。ピンマイクなんて付けやがって。

 あ、表彰式やってる。リールちゃーん!

 「合格おめでとうございます! 圧勝で大人気でしたね」

 「ありがとうございます。両親と、支えてくれた仲間には感謝しかありません。」

 「これから魔王の側近としてのご活躍に期待が寄せられますが、何か目標の様なものはありますか?」

 「実は私の仲間が魔王候補としてこの選手権に参加しています。とても強くて、カッコ良くて、私の大事な一つです。私はその人以外の側近にはなりたくありません。だから信じてます。朱里ちゃんが最強で最高の魔王になるんだって!」

 っ!!

 リ、リルちゃん。

 「ご自身の合格の喜びと共に、ここで大胆にも仲間の優勝宣言が出ました! 明日以降がますます楽しみですね! リル選手ありがとうございました、そしておめでとうございます!」

 「ありがとうございました!」

 「現場からは以上です。河村さーん」

 「はーい。いやあ、リル選手。近年稀に見る大人気でしたね。田中さんはご覧になられていかがでしたか?」

 「実はですね、あのリル選手は僕が応募した選手なんですよ。素晴らしい。この一言に尽きます」

 「なんと田中さんが御推薦した方なんですね! これは嬉しい瞬間を、最高の場所で観る事が出来ましたね」

 「ええ、素晴らしい結果に私も感服しております。しかし、明日からがこの選手権の本番と言っても過言ではありません。皆様の寝不足間違い無しの一週間はまだ始まったばかり。会社の上司の皆さんも部下の居眠りや、多少のお寝坊さんは許してあげて下さいね」

 「国民を気遣うコメントまで頂きありがとうございました! さあ明日から始まるサバイバルレース! 栄光を掴むのは誰だ!? それでは皆さんご機嫌よう」

 「ご機嫌よう」


 
 リルちゃんにあんな事言われるなんて。膝が崩れ落ちるのを耐えるのがギリギリだったよ。

 私の膝を崩しかけるなんて、あの子やるじゃない。

 これはもう言い訳できない。

 私は魔王になる!

 絶対!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...